1163.大勝利!
「こちらが、賞品の一覧になります」
受付NPCが持ってきたガイドには、勝利枚数ごとに交換できる賞品が並んでいる。
「【クラウ・ソラス】があるぞ!」
「くらうそらす?」
アルトリッテの言葉に、首を傾げるメイ。
「光の剣ね。ケルト神話の武器よ」
当然のように答えるレンに、感心するツバメとまもり。
「あ、【天使ラジエルの書】なんかもあるんだ……結構面白いなぁ」
「魔導書もあるってこと? そう考えると本当に、賞品は豪華な感じなのね」
賞品の良さに、わき立つ面々。
だが今回もらうものは、すでに決まっている。
船と魔法珠だ。
受付NPCは、豪華な箱に入った二つの宝珠を持ち出してきた。
「こちらが船のカギとなる【船宝珠】、こちらが魔力を千年に渡って込め続けてきた【豊潤の宝珠】となります」
メイたちは二つの宝珠を受け取り、カジノを出る。
するとそこに、メイたちにスロットを依頼したワインレッドの男、グリンデルが待っていた。
【豊潤の宝珠】を受け取ったグリンデルは、満足そうに手持ちのケースにしまう。
「ありがとう。船はあれだね。さっそくしっかり見せてもらったけど、やはり良い船だ」
そう言って指差したのは、数百メートルほど先にある美しい帆船。
「すごーい!」
「本当に、あんなものをもらってしまっていいのでしょうか」
「僕はもう船を持っているからね。二艘あっても置き場がないんだ」
ヨットハーバーを思わせる造りの港の一角に浮かぶ、美しい帆船。
それを見て、思わず感嘆する。
「それでは僕は失礼するよ。良い旅を」
そう言ってグリンデルは、去っていった。
「それじゃあさっそく、船を見てみましょうか」
「りょうかいですっ」
こうして、手に入れた船を見ようと四人が歩き出した瞬間。
「「「「っ!?」」」」
盛大に鳴り響くサイレン。
「いたぞ! あそこだ!」
カジノの衛兵たちが、こちらを見て声を上げた。
「相手は冒険者のようです! 手ごわい相手かもしれません!」
「かまうな! カジノにおける不正は重罪。最高額の勝負でそれを行った者たちは大罪人なのだから、容赦する必要はない!」
「ちょっと! なによそれ!?」
カジノから一斉に駆け出してくる衛兵と、その不穏な空気に、慌てる。
すると剣を抜いた衛兵が、こちらに向けて叫ぶ。
「貴様たちを、不正の犯人として逮捕する!」
「「「「ええええええ――――っ!?」」」」
これには四人、驚きの声が重なる。
まさかの事態に、一気に慌ただしくなるカジノ前。
「行きましょう……!」
それでもここまでの会話を思い返して、現状を把握したレンがつぶやく。
「レ、レンさん! あっちからも、向こうからも兵士たちが来ます!」
「なんだか、数が尋常ではありません……!」
状況はもはや、『包囲網』と呼べる状態だ。
「……船。船の方は道が開いてるわ!」
そんな中で、港へと向かう側からの攻勢がないことに気づいたレンは、メイとうなずき合う。
「【ソニックブレイド】!」
そして兵士が飛ばした斬撃をかわしたところで、決断。
「船に逃げましょう! そのまま一度海に逃げる形を取るのが、おそらく今できる事では一番確実だわ!」
「「「はいっ!」」」
「【ファイアウォール】!」
レンは一番早い兵士の一団を、炎の壁で止める。
「いーちゃん! おねがいっ!」
そしてメイが、暴風で別動隊の動きを止める。
「行きましょう!」
「はひっ!」
一番足に自信がないまもりはいち早く走り出し、真っすぐに船を目指す。
「……【跳躍】【牙刺し】」
「っ!?」
並ぶ船の船首から、あまりにも急な飛び掛かり。
カジノ兵には分かりやすい剣士だけでなく、速い移動を得意とする忍者のようなタイプもいるようだ。
「【地壁の盾】!」
しかし虚を突かれても、まもりの身体はしっかり反応。
突き出された短剣を、見事に防いでみせた。
「【滑走刺突】!」
「っ!?」
しかしそこを狙った二人目の忍者型が、一直線に接近。
「【加速】【紫電】!」
気付いたツバメが、その動きを止めた。
だがそこに、現れる魔導士。
「【コンセントレイト】【フレイムエクスプロード】!」
放たれたのは、上級魔法。
最大まで溜めていたのであろう一撃は、紅蓮の炎を盛大に巻き起こす。
広い攻撃範囲の狙いは、四人全員だ。
「レンちゃん! 【ラビットジャンプ】!」
メイはレンを抱えて、すぐさま大きく跳躍。
「【不動】【天雲の盾】!」
ツバメも慌ててまもりの背後に隠れて、炎をやり過ごす。すると。
「しぶといやつらだ……! 我らは援護を要請する! 誰でも構わない! ヤツらを止めてくれ!」
「ちょっと待って! 『誰でも』ってまさか!」
「この時点で参加できるなら、プレイヤーでも良いということですか!?」
敵兵の言葉に、嫌な予感しかしないレンとツバメ。
その予感は当たる。
「行くか!」
「面白い状況だな!」
兵士から緊急で出されたクエスト。
もちろんこんな楽しそうな展開を逃す、トップたちではない。
「【ペガサス】!」
【天馬靴】から生える光の翼で、地上を滑るような動きで進み、そのまま跳躍したアルトリッテはレンのもとに着地。
「マズイわ……っ!」
アルトリッテの一撃は、仮に避けても弾かれ転がる火力を誇る。
その隙に別のプレイヤーに攻められたら、どうしようもない。
「解放剣技! 【エクスクルセイド】!」
キラキラとした黄金の輝きをまといながら迫り来る、聖なる光の刃。
「【裸足の女神】【装備変更】っ! とっつげきー!」
メイは超加速を開放。
振り下ろされる【エクスカリバー】に、ギリギリで間に合った。
パリィが決まり、どうにか聖剣の一撃を制止。
続く爆発を起こさせることなく、済ませることに成功した。
「【投擲】!」
そしてこの一瞬を狙って放つ【雷ブレード】で、アルトリッテを硬直させる。
「ほう。それなら船の方はどうだ?」
「っ!?」
グラムのそんな言葉に、反応したのはまもり。
「【ソニックドライブ】【グングニル】!」
以前よりさらに速さを増したグラムの、槍の投擲。
重い破裂音を鳴り響かせての投擲で、走る閃光。
「【地壁の盾】! きゃあああっ!」
どうにか直撃を防ぐが、【不動】が間に合わなかった。
巻き起こった爆発が暴風を巻き起こし、まもりは豪快に吹き飛ばされた。
「まだまだっ! 【ミョルニルインパクト】!」
「っ!?」
起き上がろうとしたところに、振り下ろされるハンマー。
倒れ込んだ状態では、盾を上手に構えられない。
「【装備変更】【裸足の女神】っ!」
炸裂する一撃は地を割り、天を突く派手なエネルギーエフェクトを噴き上げる。
ギリギリのところで最高速を開放したメイが、まもりを抱えて【鹿角】で駆け抜ける。
「ありがとうございますっ!」
「あぶなかったね!」
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
付近のプレイヤー達から、「おおっ!」と上がる歓声。
レンは一気に船の前まで飛翔し、そのまま手に入れたばかりの船へ乗り込んだ。
すぐに【船宝珠】を使って、離岸を開始。
予想通り、船は動き出しに少し『遅い』タイミングがある。
航行速度が上がるのを全員乗った状態で待っていたのでは、追いつかれてしまう。
「【加速】【リブースト】【跳躍】……【エアリアル】!」
レンによって、走り出した船。
ツバメは乗船手前を狙った、マリーカの【魔力鳥】を慌ててかわして船へ着地。
「【ラビットジャンプ】!」
遅れて、まもりを抱えたメイも乗船。
そのまま船は、海を走り出す。
こうなればさすがに、海を走るメイのようなスキルがなければ早々追ってこられない。
攻撃が一気になくなり、安堵の息をつく四人。
「「「「っ!?」」」」
するとその瞬間、マストを支える柱にローランの矢が突き刺さった。
「……これでさすがにもう、直接的な攻撃はなさそうね」
今度こそ安堵の息をつくレン。しかし。
「船が追ってきてるよ!」
次々に岸を出る大型の武装船たち。
その全てが、メイたちの船を追ってくる。
どうやらこの状況を抜け出すには、もう一山超えなくてはならないようだ。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




