1161.スロットで始まる物語
「おおーっ、煌びやかだねぇ」
「これぞカジノって感じね!」
ポーカーを終えたローランとレンは、カジノの華であるスロットへ。
シャンデリアの下に並んだ機械が鳴らす音と、吐き出されるチップの音が、高揚感を掻き立てる。
ここでは、列ごとに掛け金が違う。
レンたちはとりあえず、気軽にできる価格帯の機械を選んだ。
さっそく少し、触れてみる。
レバーの感触やリールの回転音が、気持ちいい。
「本格的だ」
「さすがにワクワクしてきちゃうわね」
二人は並んで、スロットを回していく。
するとさっそく、レンに小さな当りが出て景気よくチップが吐き出された。
「やった」
これには思わずレンも、もろ手を挙げて歓喜する。
「気持ちいい演出だね」
「これだけで十分楽しいわ」
続けてローランも当たりが出て、滑り出しは上々だ。
「おお! 勝っているようだな!」
するとそこに、勝負を終えたアルトリッテが、メイやグラムと共にやってきた。
「三人はどうだったの?」
「ブラックジャックをしてきたところだ」
「グラムのことだし、メイちゃんに勝とうとして熱くなって負けたんじゃない?」
「さすがだな、まさにその通りだ」
「うるさい! 攻めの姿勢こそが、神槍のグラムなんだ!」
そう言ってグラムは、また頬をふくらます。
「レンちゃんの調子はどう?」
「さすがの勝負強さだったよ。ディーラーには勝てたけど、レンちゃんに勝つのは難しいね」
「おおーっ!」
「最後には見事に、切り札のジョーカーをクールに滑らせての勝利だったよ」
「カッコいいーっ!」
「やめて、あんまり言わないで」
メイとレンは、見事な連勝を飾って合流。
さっそくメイも、スロットで遊んでみる。
そしてすぐに、当たりを出し始めた。
それを見たグラムも、負けじとスロットを回し始める。
「皆さん、勝っているようですね」
するとそこに、ツバメたちもやってきた。
「ツバメちゃんはどうだったのー?」
「やはり運の要素の強いものはダメです。初日にして破産やむなしの負けっぷりでした」
ツバメは少額のチップで遊べる、安心なスロットへ。
「それにしても、ツバメの負けっぷりはすごかったなぁ。最後の方はちょっとビビっちまったよ」
「……ツバメの逆に賭けることが、勝利のカギだった」
金糸雀とマリーカは、感嘆しながらツバメの連敗記録を回顧する。
「……アルトはどうだった?」
「聖剣は肝心なところでやらかしたぞ! ブラックジャックで『30』を叩き出したからな!」
ようやく自分以外の結果を聞かれて、グラムがうれしそうに答える。
「『30』はすげえな。バーストするにしても、豪快過ぎじゃねえか?」
「……いつものこと」
「いつもではない! 二人して時間差で言うなー!」
アルトリッテとマリーカの言い合いに、笑うメイたち。
「これは……台を変えた方がいいかもしれません」
そんな中でもしっかり、チップを減らしていくツバメ。
ここで別の台への移動を決意。
「……続きは私がやる」
ルーレットでの惨状を見ていたマリーカは、ここで金糸雀と共にツバメが遊んでいた台へ。
チップを入れて、勝負を始めた直後。
「大当たりじゃねえか」
ピカピカと台が輝きを放ち、チップが次々に吐き出される。
案の定の展開に、ツバメは白目をむいた。しかし。
「――――調子、良さそうですね」
別の台へ移ろうとしたツバメの前に、一人の男が現れた。
ワインカラーの、ベルベット製ハット。
そして同色のジャケットを着た金髪の男は、30代中盤程だろうか。
この身なりと、カジノという場所から考えて、何か特別なNPCのように見える。
「……もしかして、クエスト?」
レンがつぶやいた。
発生条件は分からない。
しかしカジノ内で始まった突然の展開に思わず皆、レバーから手を離す。
いかに楽しくスロットで遊んでいても、やはり冒険者。
クエスト持ちのNPCというお宝の前に、そっぽを向くことなんてできない。
「僕はグリンデル。実は、お願いしたいことがあるんだ」
男はそう言って、語り出す。
「幸運にも、気まぐれな富豪から高額なチップをもらい受けたんだけど、僕はあまり運が良くなくてね。そこで調子よく勝っている君たちに、代わりに勝負してもらえないかと思ってさ」
「なるほど。一定以上に勝ってるプレイヤー、もしくはパーティに声をかけてくるクエストかしら」
「そう考えるのが、良さそうだね」
レンの言葉に、ローランもうなずく。
男が取り出してみせたのは、美しくカットされたダイアのチップ。
それは金のチップを超えた、最高級の価値を持っている。
「どうかな? 最高額のルーレットでの大勝負」
思わぬ大きなクエストの予感に、思わず言葉を失う面々。
そんな中、男に声をかけられたツバメが答える。
「そのような話を私に持ち掛けるとは……失礼ですが――――正気なのでしょうか?」
ツバメは白目のまま、まず男が正気を失っていないかどうかをたずねたのだった。
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