1158.ブラックジャック
「もっとだ! 俺はもっとつぎ込むぞ!」
「やめとけ! もうすでに借金を抱えてるんだぞお前は!」
「それでも……それでも俺はいくっ!」
早くも過熱し始めているカジノ。
「わあ、なんだかキラキラだね! あれは何をやってるのかな!」
「バカラというヤツだな!」
「あっちは?」
「あれはポーカーだ」
賑やかな会場を、メイを中心に進むアルトリッテとグラム。
一見すると可愛い少女の三人組だが、その内実は一人で戦況を変えてしまう驚異の前衛たちだ。
「せっかくだ、ここで誰が最強なのかを決めてやる」
「おおーっ!」
「望むところだ!」
グラムが勝負を持ちかけると、メイもアルトリッテもすぐに乗る。
「ギャンブラー……カッコいいかも!」
「だが、この聖剣のアルトリッテを破ることができるかな」
「わっはっは! 誰を相手に言っているんだ? 最強はこのグラムに決まってる」
さっそく何で遊ぶかを、吟味する三人。
「どのゲームがいいと思う?」
「ブラックジャックはどうだ?」
「いいとおもいますっ!」
アルトリッテの問いに、グラムとメイが答えた。
新たにルールを覚えるものだと、勝負以前の問題になりそうだ。
そのため三人は、割とシンプルなゲームを選択して卓につく。
するとそこに、飲み物を乗せたトレーを持ったお姉さんNPCがやってきた。
「紅茶をもらうぞ」
「フレッシュジュースを出せ」
アルトリッテはアイスティーを選び、グラムはグレープフルーツのジュース。
「……ブラックコーヒーを」
そんな中メイは、ホットコーヒーを選択。
「メイはコーヒーを、ブラックで飲むのか」
「そういうことだね」
アルトリッテの意外そうな視線に、思わず得意げにするメイ。
ギャンブラーと言えば、クールなお姉さん。
すっかりそのつもりで、冷静にコーヒーを一口。
「……にがい」
うっかりつぶやいて、慌てて口をつぐむ。
「それでは、ゲームを始めます」
お姉さんディーラーが、軽く頭を下げて挨拶した。
ルールは簡単。
勝負の相手はディーラーで、配られるカードの合計を『21』に近づけた方が勝ちというゲームだ。
またディーラーは、手持ちの一枚を最初の時点から披露している。
そして17以上になるまで、必ずカードを追加する。
その二点をヒントに、勝負しろということだ。
ちなみに合計値が『22』を超えたら、その時点でバーストとなり敗北。
例えディーラーが同時にバーストしていても、プレイヤーの負けとなる。
「まずはチップ5枚でいくぞ!」
「いいだろう」
「わたしもそうしますっ」
ベットが終わり、まずは2枚のカードが配られる。
メイの手元には『11』と『12』のカードがやってきた。
10以上のカードは『11』でも『13』でも『10』と計算するのが、ブラックジャックというゲームの特性だ。
「すたんど!」
メイは合計『20』なので、ここでカードの配布を停止。
「私もスタンドだ!」
「……ヒットだ、もう一枚寄こせ」
ディーラーの手札の一枚は『10』
アルトリッテも少し悩んで、スタンドを宣言。
グラムだけが、真剣な面持ちでカードを要求した。
「よし、スタンド。勝負だ!」
グラムの宣言に合わせて、ディーラーが手札を開く。
その合計数は『18』
「やったー!」
『20』のメイは、歓喜に両手を上げてバンザイ。
アルトリッテも『19』で、見事に勝利。
「当然だな」
唯一カードを一枚増やしたグラムは、『6』『1』『3』
『エース』の『1』だけはそのまま『1』として計算しても、『11』として計算してもよい。
そのためグラムは『6』『11』『3』の計算で『20』にまとめた。
キャッキャと喜ぶメイとアルトリッテに対して、グラムは少しは安堵を込めながら。
こうして、三人とも勝利で一戦目を終えた。
メイは勝利したギャンブラーの雰囲気を出しながら、手にした飲みものを一口。
「……にがい」
思った以上に苦いことを、思い出す。
「メイ?」
「こっ、この苦さが、目を覚ましてくれる」
そしてアルトリッテに見られて、とっさに表情を作る。
「ちょっと口からこぼれてないか?」
「そ、そのようなことはございませんっ! ディーラーさん、次の勝負をお願いしますっ!」
グラムの言葉に、慌てて口を拭うメイ。
ゲームは、二戦目に入る。
メイの手持ちは『1』と『4』で、『5』でも『15』と計算してもいい状態。
「ひっと」
もう一枚受け取って、数字を確認。
ここで『6』が来て、『15』+『6』で『21』となり勝利を確信。
自信が思いっきり顔に出てニコニコしてしまっているメイを見て、アルトリッテが笑う。
「まだまだ、私も負けられないぞ! ヒット!」
アルトリッテも一枚追加して、『20』で勝負にいく。
「神槍のグラムに敗北はない! ヒット!」
グラムも『20』で続き、ディーラーの『19』を超えて勝利。
「やったー!」
三人は見事に連勝を決めた。
「さすがはメイ、そして神槍だな」
「えへへ」
「当然だ」
幸先の良いスタートを切ったことに、笑みがこぼれる三人。
しかしもちろん、このままでは終わらない。
三戦目のカードを、メイはさっそく確認。
『8』と『3』で合計は『11』
状況は良い。
「ひっと」
クールに決めたメイは、もう一枚カードを要求。
ドキドキしながらも、顔はクールを作りながらカードをめくる。
『12』は『10』で計算するため、合計はまたも『21』だ。
「すたんど」
メイ、勝利を確信して飲み物を取ろうとして……やめておく。
「私もスタンドだ!」
アルトリッテはカードを追加することなく、ここでスタンド。
「寄こせ、ヒットだ」
そしてグラムは、一枚追加。
手にしたカードを確認して、わずかに悩むようにする。
「スタンド」
しかし追加は行わない。
こうしてそろった手札。
ディーラーが、全てのカードをオープンする。
手持ちの合計は『19』だ。
「やったー!」
メイは余裕をもって勝利。
「ぬはははは! まだまだ負けぬぞ!」
アルトリッテも『20』で、問題なく勝利。
「なんだと……」
そんな中グラムの数値は『19』で、ディーラーと引き分けになった。
「この神槍だけが、引き分けだと……!」
引き分けなら、チップは戻ってくる。
結果としては上々だが、アルトリッテとメイに先を越されたことで、グラムに火がついた。
「ふざけるな……! 勝負はここからだ!」
「無論だ!」
「まけないよーっ!」
盛り上がり出す、ギャンブル対決。
メイは気合十分でコーヒーを口に運ぶ。そして。
「……にがい」
危うくむせ返りそうになるのだった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
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