1157.確率の向こう側
回り出す、7度目のルーレット。
「『5』番の赤となります」
そして、続けざまに8度目のルーレット。
「『16』番の赤となります」
「これで、8連続で赤ですか……」
ギャンブルには確率も関わるとあって、目を光らせていた確率君が息を飲む。
「二分の一が8回続く可能性は極めて低いです。0.4%は強く言えば『早々ありえない』と言ってもいいレベルでしょう」
もちろんツバメは、ここで終わらない。
「最後のチップ、いかせてもらいます」
そう言ってまたも、黒に勝負をかける。
「そして9回目ともなれば、0.19%です。これは普通に考えたら起きえない」
「……私も、そう思っていた」
「そうだよな! これはさすがにいけるんじゃねえか? 賭けるならここだよな!」
「僕も、ツバメさんが勝利する瞬間に立ち会います!」
赤にそれなりの額をかけて、しっかり稼いだマリーカと金糸雀。
そして計算君。
三人はうなずき合い、これまで稼いだチップをツバメと同じ黒に賭ける。
金糸雀に至っては、手持ちの全額だ。
「……ツバメのおかげで賭け金は膨らんだ。その分だけ勝てば儲けも大きくなる。賞品のスキルブックにも手が届く」
「おいおい夢が広がっちまうな! それなら、容赦なくいくぜ!」
マリーカと金糸雀は、希望を前にうなずき合う。
確認した限り、スキルブックには面白そうなものも多かった。
「始めます」
ディーラーがルーレットを回転させ、ボールを走らせる。
銀のボールと、優雅な回転を見せるルーレット盤。
「さあどうしますか? 運命の女神様」
ツバメが、盤を見つめながらつぶやく。
「これだけの目撃者の中で、9回連続同色という自らの存在を立証しかけねない奇跡を起こしますか?」
その真剣な面持ちに、息を飲む三人。
徐々に銀のボールが遅くなり、ルーレット盤の上に落下。
弾かれて、盤の上を跳ねまわるボール。
「来い! 来い……っ!」
「……今度こそ」
「僕はツバメさんを信じます!」
カチッと一度乾いた音を鳴らし、ボールがポケットに入った。
そしてゆっくりと、ルーレットが止まる。
「――――さあ! 勝負ですっ!」
「『18』番の赤となります」
「「「「…………」」」」
9回連続で赤。
四人全員が、綺麗に白目をむいた。
「な、なんつー展開だ」
「……遠隔操作を疑うレベル」
「確率を超えていく。これが『五月晴れ』のメンバーの力ですか……」
席を立ち、ため息をつく金糸雀たち。
「ツバメ、他のゲームで遊んでみようぜ」
今も卓についたままのツバメの肩をポンポンと叩き、「こういうこともあんだろ」と笑ってみせる金糸雀。
そして、全員が席から立ち上がった瞬間。
ツバメは座ったまま、スッと一枚のチップを取り出した。
「金のチップ?」
「このチップは、レンさんに『ツバメは早々に負け続けて手持無沙汰になる可能性があるから』と、別れ際に頂いていたものです」
レン、ここでしっかりと読みの深さを発揮。
「私も今、その存在を思い出しました。これは言わば運命の女神様の『人間の欲望を読む能力』にも引っかからなかったはずのイレギュラーなチップ。本来であれば、先ほどの最後の賭けが大きな盛り上がりを見せた時点で終わっていたはずの勝負。9連続で赤を出してしまった運命の女神様すら、予期せぬ追加の一枚なのです!」
ツバメはそう言って、目を燃やす。
「ここに不運を打ち破る、勝機があります!」
「な、何を言ってるのかは全然わからねえけど、とにかく勝負師の顔をしてることだけは分かる……っ!」
「……金のチップはこれまでの掛け金の10倍になる。勝てば最後に全ての損を取り戻す勝負。これは、期待せざるを得ない」
「ツバメ、どっちに賭けるんだ!?」
「もちろん黒です。そのために私は席を立たず、乱数の変更を行わなかった」
「10回目ともならば、その確率は1/1024ですね。つまり0.09%! これが運命の向こう側ですか……見せてもらいましょう!」
こうして金糸雀たちは、最後の勝負に出るツバメの後ろから卓をのぞき込む。
ツバメは黄金のチップを指に挟み、高く掲げる。
そしてクールに、『黒』にベットした。
「始めます」
動き出すルーレット。
回転するボールに、全員の視線が集まる。
もはやツバメは、微動だにしない。
ただ静かに成り行きに目を向け、祈りを捧げる。
やがてボールが盤に落ち、カチカチを音を鳴らして跳ね回り始めた。
「いけ! やれツバメーっ!」
「……奇跡を見せて欲しい」
「今度こそっ!」
思わず気合が入る金糸雀たち。
「これが、これこそが、運命の女神をも欺いたアサシンがもたらす結果です――!!」
そして最後の、運命の女神ですら見落とした勝負の結果を確認する。
「『7』番の赤となります」
「さ、レンとかローランに頭を下げてチップをもらいに行こうぜ」
「……次はカードで遊んでみたい」
「僕はここで失礼します。なんか色々自信がなくなってきたので」
「あ、あと一回。あと一回あれば必ず……!」
「その一回分のチップをもらいに行くんだよ。あたしも一緒に頭下げてやるからさ」
金糸雀があらためて白目状態のツバメの肩を叩き、手を引く形で連れていく。
「えー? もう使っちゃったの?」
「金のチップも?」
「申し訳ありません」
「悪いな。ちょっと夢中になっちまってさ」
思わぬ早い金欠に、ローランが「もう」とたしなめるような顔をする。
一方のレンは、大体流れが予想できて苦笑い。
「大事に使ってね」
「もう少し掛け金を落としてもいいかもしれないわね」
そんな二人の言葉に、ペコペコと頭を下げるツバメと金糸雀。
こうして見事な敗北を見せたツバメたちは、別のゲームを物色し始めるのだった。
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