1153.巨大オムレツを作ります!
「ソースは僕たちにお任せください!」
タヌキのシェフたちが、そう言ってオムレツ用のソースを製作開始。
「それではわたしたちも、始めましょうっ!」
メイたちも元気いっぱいで、拳を突き上げる。
始まる巨大オムレツの調理クエスト。
集まってきたプレイヤーたちの注目の中、さっそく卵をボウルの中へ。
「カラを割るのは、ツバメにお願いするのが良さそうかしら」
剣の一撃だと、中身が吹き飛ぶ可能性あり。
とはいえ拳打だと、メイが卵まみれになってしまいそうだ。
「【跳躍】【回天】!」
ツバメはボウルを飛び越えるように跳び越えつつ、【村雨】で卵を斬る。
着地すると、カラに綺麗なヒビが入った。
そのまま割れる卵に、早くも「おおっ!」という歓声があがった。
カラを取り出したところで、まもりが石段の上に上がる。
そして大きな泡だて器を、グルグル回し出す。
「ここはしっかり混ぜることが大事です……フワフワ感を出すためには気を抜けない工程! たあああーっ!」
気合が入っているまもりは全力で卵を混ぜ続け、卵液が滑らかになったところで振り返った。
「計量、できましたっ!」
敬礼と共に、メイが持ってきたのは塩コショウ。
まもりは同じく敬礼して受け取り、投入。
計量をメイに任せたのはもちろん、その高い【技量】でミスを起こさないように。
「なんか、面白そうなことしてんな!」
「メイちゃんじゃん! 見ていこうぜ!」
大きな道具に、楽しそうなメイたち。
それを見た通りがかりのプレイヤーたちが、自然と集まってくる。
するとそこに、大きなフライパンを肩に乗せたメイがやってきた。
その姿にまた、歓声があがる。
「火、入れるわね」
レンが六つの魔法珠を配置して作られた魔法陣に魔力を込めると、かまどに火が入った。
作られた大型のかまどの上に、メイがフライパンを乗せる。
続けてゴロンと大きなバターを入れると、一気に良い香りが広がる。
「一、二、一、二」
そこにやって来たのは、二人がかりでボウルを持ったツバメとまもり。
できあがった卵液を、フライパンに流し込む。
「「「おおおおおっ」」」
するとすぐに鳴り出す、気持ちの良い焼き音。
ここからは、メイの番だ。
大型フライ返しを手に、しっかりと焼き加減を見る。
火加減の調整は意外と難しく、すぐに上下してしまう火力を、レンが高い【知力】で上手に維持。
オムレツなら、絶対に焦がしてはいけない。
温度管理が、とても大事だ。
「半熟のスクランブルエッグみたいになったところで、火力を低下してください」
成形には時間がかかるため、焦がさないよう一度フライパンを冷やす必要あり。
レンは魔法珠に水を吐かせて、温度を低下する。
「……ここかな」
卵を返すタイミングはあくまで、焼け具合を見て判断することが必要。
メイは普段料理をするツバメやまもりと、視線を合わせてうなずき合う。
まずは手前から奥に向けて、三分の一ほど畳む。
ここの加減次第で形が決まる、大事な手順だ。
メイは高い【技量】で、見事に二度目の折り返しにも成功。
「いい感じですね」
ツバメがうなずく。
「三度目、お願いします……っ」
まもりの言葉に、さらにもう一度。
卵を畳んで、フライパンの端に寄せる。
形を綺麗に整えれば、これで完成まであと一息だ。
「いいなあ、このクエスト……」
「私もやってみたい」
わりと能天気なクエストだが、まさに「現実ではできないけど一度やってみたい」を体現するこのクエスト。
あがる羨望の声の中、メイは最後の手順に入る。
「最後に、ひっくり返して焼けば完成です!」
その言葉に、さらに集まってくる見学者たち。
噂を聞き付けたプレイヤーたちも、駆けつけてきた。
向けられる視線の中、メイは大きなフライパンを両手で持つと、気合を入れ直す。
「いきますっ!」
「おねがいしますっ!」
「せーのっ! それええええ――っ!」
手首を強く返すと、オムレツは三階建ての建物の屋根を超える高さまで飛んだ。
それから空中でくるっと一回転して、落ちてくる。
落とせばもちろん、クエスト失敗になるだろう。
必然的に高まる緊張と、それ以上に豪快な光景に、もう誰も目が離せない。
「はいっ!」
そんな中メイは、難なくフライパンでオムレツをキャッチ。
「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」
大きな拍手と共に、あがる歓声。
実は軽くひっくり返すだけでいいのだが、そこはメイの【腕力】
描いた見事な放物線が、さらに現場を盛り上げた。
「最後は気を付けながら強火に……! 表面だけ固める形で焼けば――!」
レンが最後に少し、手を入れる。
完成は、キラキラのエフェクトと共に。
見事、美しい黄色のオムレツができあがった。
そこにタヌキたちが、ソースをかけて完成だ。
「完璧です!」
タヌキたちが、うれしそうに跳び跳ねる。
「みんなでいただきましょう!」
そう言ってタヌキが大きなナイフとフォークを差し込むと、巨大オムレツは分割。
メイたちだけでなく、付近のプレイヤーたちに視界にも『受け取る/受け取らない』の選択肢が登場。
一人分がピザ1ピースくらいある、厚手のオムレツに変わった。
「わっ! 美味しい!」
「豪快な料理だけど、味は最高だぞ!」
「すげー! めちゃくちゃうまいじゃん!」
さっそく嚙り付いたプレイヤーたちが、驚きの声をあげた。
【金鶏の卵】は、なかなかに濃厚な味わいをしている。
「いいじゃない! 何だか豪華ね!」
「本当ですね!」
「こんなに大きなオムレツ、初めて食べるよーっ!」
「こ、これは、とてもおいしいですっ!」
これにはまもりも、うれしそうに目を輝かせる。
そして肝心の魔狼フレキも、目の前に置かれたマクラのような大きさのオムレツに、フラフラと身体を起こす。
一度鼻で匂いを確認して目を見開くと、猛然と喰らいつく。
「こっ、これだ! これが食べたかったんだ! これでまた、仕事に気合を入れられるぞ!」
その言葉に、タヌキたちも大喜び。
小竜と共に小躍りする。
緑の多いトリアスで、動物たちと共に、青空の下で食べるのは楽しい。
こうしてメイたちの巨大オムレツ作成クエストは、大きな盛り上がりの中で終了した。
なんとこの時、見学者は千人に迫ろうかという数になっていた。
「……そろそろ、時間ですね」
ツバメが時間を確認する。
するとメイが一歩、前に出た。
「この後、新マップ実装のイベントがあるのでよろしくお願いしますっ!」
「へえ、それじゃあ見にいってみるか」
「いいね、そうしよう」
メイの言葉に、集まっていたプレイヤーたちも動き出す。
これによってたくさんの観客が、モナココに集結することになったのだった。
「オムレツづくり、ありがとうございました!」
駆け寄って来たタヌキシェフたち。
「よろしければ、これをどうぞ」
【金鶏のオムレツ】:スキルの効果時間を、様々な形で延長する。
そして【大きなフライパン】も、一緒に受け取った。
「これは変わった報酬ですね」
「こういう大きな料理も、今後作れたりするのかしら」
「オ、オブジェクトとしてだけでなく、武器や盾としても使えるみたいです」
手に入れたフライパンは、料理に使って良し、戦いに使っても良し。
少し変わり種の報酬に、四人は笑うのだった。
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