1149.黄山を駆け降りますっ!
金鶏の大きな卵を持って、黄山を駆け降りていくメイとまもり。
「今日は絶対に、メイさんと一緒にオムレツをっ!」
完全に『メイとオムレツの口』になっているまもりは、気合を入れる。
「面白い、ならばこれでどうだ! コケェェェェェェ――――ッ!!」
背中が震えるような咆哮を上げ、再び金鶏が動き出した。
猛烈な勢いで駆け寄ってきた金鶏は、華麗に跳躍。
放つ前蹴りに、すぐさまメイが反応する。
「【バンビステップ】!」
【鹿角】によって生まれる疾走で、柔らかな弧を描いて回避。
大きな卵を守るための、早めの行動は見事だ。
しかしそこに、金鶏の咆哮によってやって来た大蛇が、木々の間から接近。
二匹同時に、メイを狙って飛び掛かる。
「メイさん、蛇たちが来てます! 【かばう】!」
「はいっ!」
まもりの声を聴いたメイは、すぐさま卵を真上に軽く投じてしゃがみ込む。
「【ローリングシールド】!」
すると盾で放ったまもりの回転撃が、大蛇をまとめて弾き飛ばした。
「ありがとう、まもりちゃん!」
投じておいたことで、無傷で済んだ卵をキャッチしたメイ。
「っ!?」
聞こえた風切り音に、視線を上げる。
まもりが目を向けると、そこには一直線に高速滑空してくる一体の飛竜。
どうやら先ほどの咆哮は、この魔物たちを呼ぶものだったようだ。
見えている鋭い爪による攻撃を予想して、盾を持つまもり。しかし。
「どっちかな」
メイのその一言に、ハッとする。
まもりは盾を持ったまま、ギリギリまで挙動に注目。
すると飛竜は爪による特攻ではなく、通り過ぎながら炎を吐き出す形を選んだ。
「【シンバル】!」
それを見たまもりは、即座に対応。
吐き出された炎を、二つの盾をぶつけて生み出した衝撃波でかき消した。
「まもりちゃん、ちょっとだけお願いしますっ!」
「はひっ!」
飛竜のブレスは見事にやり過ごしたが、通り過ぎていった相手への攻撃手段がない。
メイが卵を下ろしたのを見て、まもりは転がらないよう全力で抑える。
「【装備変更】っ!」
メイは【王樹ブーメラン】を取り出し、その場で回転。
「せぇぇぇぇの! それええええええ――――っ!!」
投じられたブーメランは、そのまま直撃した。
落下して、バキバキと木々をへし折っていく飛竜の復帰には時間がかかるだろう。
再びメイが卵を持ち上げたところで、木々の隙間から飛び出してきた大蛇を、まもりが【シールドバッシュ】で吹き飛ばす。
そして二人そろって駆け出したところで、砂煙をあげながら駆けてくるのは金鶏だ。
まさしく、勝負所。
「【チキンブースト】【デストロイビーク】!」
「「ッ!?」」
ツバメの【リブースト】のような急加速で、金鶏がその硬質なクチバシを叩き込みにくる。
「メイさんっ!」
「うわわわわっ! 【ラビットジャンプ】!」
卵で視界が隠れているメイは、まもりの注意喚起に慌ててジャンプ。
すると通り過ぎていった金鶏は振り返り、さらにスキルを発動。
「【分体】【チキンダッシュ】!」
その数を二体に増やして、再び走り出す。
猛烈な砂煙をあげながら迫る、二体の金鶏に差は無し。
「どれが本物か、分かるかな?」
最悪の二択を迫って来た金鶏は、そのまま翼を開いて跳躍。
高い位置から同時に迫りくる。
「【かばう】! 【大回転撃】!」
左右から迫る二体の金鶏の前に立ち塞がったまもりは、二枚の盾の大きな振り回しで斬り飛ばす。
「っ!?」
しかし先行した二体の金鶏は、どちらも偽物だった。
もうもうと上がった砂煙。
その中に隠れて、最後に駆けてきた一体が本物だ。
「【鶏足二段】!」
金鶏本体は着地したばかりのメイの抱えた卵に、そのまま豪快な蹴りを叩き込みにいく。
「【かばう】【不動】【クイックガード】【地壁の盾】!」
まもりは位置調整の【かばう】で、短めの跳躍。
卵と金鶏の間に入り込み、盾を掲げる。
豪快な右の蹴りは、金属同士の衝突音のような激しい音を鳴らし、火花を散らした。
ここで『二段』という言葉を聞きつけていた、まもりの判断が活きる。
「【地壁の盾】!」
一撃目を止めたところで安堵してしまえば、一瞬で地獄に落とされる。
強烈な二発目の左蹴りにも、見事に対応。
金鶏の二段蹴りから、しっかりと卵を守り抜いた。
これだけでは終わらない。
「【獅子霊の盾】!」
最初に突き出した右の盾は、獅子の紋様入りのもの。
そこから飛び出した巨大な獅子の顔が、金鶏の足に喰らいついた。
獅子はそのまま金鶏を地面に叩きつけ、大きく宙に跳ね上げる。
追撃のチャンス。
しかし金鶏は空中で一回転して、着地体勢に入った。
どうやらツバメの【受け身】のようなスキルを、空中で取れるようだ。
「そ、それならっ!」
それを見た、まもりの判断は早かった。
獅子霊の盾を持った、右の手。
新たに左手に取りだしたのは、新装備【エクスプロード・ランス】
「絶対にメイさんと一緒にオムレツを食べるんですっ! それええええええ――――っ!!」
踏み出す重たい一歩。
空中で一回転した金鶏の胸元に突き出すのは、2メートル級のランス。
その中心をかけ抜ける魔力が、先端から盛大な爆発を巻き起こす。
「クケェェェェェェ――――ッ!!」
付近の木々が、揺らぐほどの一撃。
金鶏はその豪快な衝撃に、天高く吹き飛ばされた。
「うわっとと!」
その衝撃に卵がぐらぐら揺れて、危うく落としそうになるがそこはメイ。
バランスを取り直して、息をつく。
「まもりちゃん、すごいねー!」
アルミの表面を思わせるシルバーに金の枠、魔法の文言が刻まれたランスは見た目にもカッコ良い。
メイがまもりの盾とランスという装備に見惚れていると、ようやく金鶏が落ちてきた。
「……さすが黄山を登りし冒険者だ。卵はくれてやろう」
焦げた翼、横たわった状態のまま告げる金鶏に笑う。
「やったー! よかったね!」
「はひっ!」
頭の上で卵を持ち上げたり降ろしたりして喜ぶメイの姿に、合わせて大喜びで手をランスを突き上げるまもり。
「……卵って、このまま持って行くのかな?」
実は山の下に台車を借りれる場所があったのだが、うっかりスルーしてしまったメイ。
「ちょっと、野生っぽいかも……」
獲物を捕らえた野生児のように、大きな卵を抱えたまま、待ち合わせ場所に帰っていくのだった。
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