1147.夢の料理
「あ、あの……っ」
【肉球グローブ】を装着して、壁に張り付いているメイ。
「便利だけど、野生の雰囲気が……」と、難しそうな顔をしていると、不意にまもりが声をあげた。
「実はタヌキさんたちのレストランに、クエストがあるようなのですが……」
「そうなの? それはちょっと気になるわね」
「タヌキシェフの皆さん、お会いしたいです」
「そうだね、会いに行きたいかもっ!」
華麗に着地して、駆け寄ってくる肉球メイ。
まもりは普段から、合間を縫ってタヌキのレストランにも足を運んでいる。
雰囲気がよく、キッチンも使えて、動物たちが可愛く、そして何より人がいない。
絶好の居場所の一つとなっているようだ。
「どんなクエストなの?」
「そ、それが、オムレツを作るというものなんです」
「オムレツ! 大好きですっ!」
「料理クエストって、結構火加減一つで味が変わるのよね。思ったより奥深いわ」
「は、はひっ。シンプルなクエストかなと思うのですが、どうせなら皆さんと一緒だと楽しいかなと思いまして……」
食べ物のクエストに、メイたちと一緒に挑む。
まもりにとっては最高の状況ということで、普段の人見知り感は押しやって、楽しそうに目を輝かせている。
「『お仕事』の時間まで余裕もありますし、一度そちらを目指しましょうか」
「いいと思いますっ!」
こうしてメイたちはポータルで、西洋山間部を思わせるトリアスの街へ。
ログハウスやレンガ作りの建物が並び、街中を流れる小さな川が美しい。
そこそこの規模を誇る穏やかな街には、ツタに包まれたレンガの建物内に、タヌキの経営するレストランがある。
「こんにちはーっ」
「お邪魔します」
レンガ積みのキッチンにはフライパンや鍋などが並び、まな板や包丁も完備されている。
二足歩行のタヌキシェフたちは、頭に乗せたコック帽にエプロンという姿。
メイたちに気づいて、トコトコと集まって来た。
「何か依頼があるって聞いてきましたっ」
メイがそう言うと、タヌキたちはさっそく依頼を語り出す。
「そうなんですっ。実は食材担当の魔狼フレキさんが、オムレツの口になってしまったようなのです!」
「ああ、一度食べたくなったら、それ以外のものでお腹を満たしたら負けた気になるあれね」
レンの言葉に、大きくうなずくまもり。
ハンバーグの口になってしまった日は、たとえ大好きなカレーを食べても負けた感じになる。
その感覚は、とてもよく分かる。
「こうなっちまうと、フレキはやる気が出なくなっちまうんだよな」
やって来た小竜がそう言うと、確かに出入り口の前でフレキはゴロンと転がっていた。
メイは思わずそのフサフサの頭を撫でるが、眠くて仕方ない猫くらいダラけている。
「このまま抱き枕にできそうですね」
腕を持ち上げても、すぐにダランと降ろす魔狼に、ツバメがくすくすと笑う。
メイとツバメが大きな狼を撫でている姿に、早くも提案して良かったとうなずくまもり。
「このままでは材料が切れて、レストランが営業できなくなってしまいます! そこでフレキさんに『おいしいオムレツ』を食べさせてあげて欲しいんです!」
「材料は、ここにあるものを使っていいの?」
「それがですね、特別な卵が必要なんです。金鶏というニワトリから取れる卵を使えば、フレキさんの満足する料理ができると思います! 作るのは、大きくて美味しいオムレツですね」
「大きなオムレツを作るのっ!?」
するとそれを聞いたメイが、思わず顔を上げた。
「はいっ。両手で抱えるくらい大きなオムレツですっ」
「わあ! 楽しそうなクエストだねーっ!」
頭に浮かぶのは、両手で持ち上げるような大きなフライパンで作る、大きな大きなオムレツ。
メイはさっそく、尻尾をブンブン振って目を輝かせる。
そして横で同じく目を輝かせているまもりと、思わず手を取り合った。
まもりもまさか、そんなに大きなものを作るのだとは思わず、すっかりテンションが上がってしまっている。
現実では不可能な風呂プリンも、この世界なら可能かもしれない。
そんな希望に、思わず笑みがこぼれる。
「レンちゃん、このクエスト受けてみようよ!」
「いいわね。何だか楽しそうだし」
こうして四人は、おいしい巨大オムレツ作りを受諾。
「ありがとうございます! 必要なものは二つ。大きな【金鶏の卵】と、熱伝導がとても良い【クロニウム鉱石】です。どちらも『鳳』で取れる素材ですね。鉱石を町の鍛冶師に渡せば【特製フライパン】を作ってもらえます!」
「必要なアイテムは二つ。あとはここにあるもので足りてるの?」
「はいっ。ただ【クロニウム鉱石】は取得が難しく、金鶏もやすやすと卵をくれるほど穏やかではありません。何卒お気をつけて……!」
タヌキたちはそう言って頭を下げ、落としたコック帽をかぶり直す。
「いってきまーす!」
見送るタヌキたちに、大きく手を振って歩き出すメイ。
よく見れば小竜と共に、フレキも気だるそうに手を振っている。
その虚無顔に、思わず笑ってしまう四人。
「大きなオムレツ……楽しみーっ!」
こうしてメイたちは、鳳の南部にある山脈へと向けて動き出すのだった。
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