1146.イベント後の楽屋には
夜の高級リゾート街に、花火が次々に打ちあがる。
ギラギラしたネオンに、優美な造りの建物。
並ぶ客船はまさに、豪華絢爛といった様相。
これがカジノを持つ新マップ、モナココの光景だ。
「お疲れさまでしたーっ！」
そのオープニングで、一枚の金貨で大当りを引く商人を演じたのがメイ。
新職業シャーマンのお披露目もそうだが、見事な演出で大きく盛り上がった。
「楽しいけどちょっと緊張したわね」
「そうですね」
ディーラーの格好をしたレンとツバメが、続けてカジノ内の控室にやってくる。
クールな雰囲気も似合う二人は、もちろん適役だ。
「は、恥ずかしかったです……っ」
そして控室に戻ってくるや否や、装備を普段のものに戻したまもりが息をつく。
バニーガールはある意味で一番熱い視線を集めていたこともあり、今もまだ顔が赤いままだ。
配信でも各所で流れるライブ映像ということで、なかなかの広報イベントとなった。
「わあ！ もういっぱい遊びに来てるね！」
窓から外を見れば、止まらず打ちあがる花火が見える。
そしてメイたちの豪華な映像に魅せられたプレイヤーたちが、早くもカジノやモナココにあふれている。
皆この町の雰囲気に当てられて、楽しそうだ。
「今回も見事に決まったな！」
そう言いながらやって来たのは、黒のハットをクールにかぶった神槍のグラム。
続いてセクシーなドレスの金糸雀と、貴族風のローラン・アゼリアが続く。
「三人ともカッコ良かったよー！」
メイがそう言うと、即座にグラムが胸を張る。
「当然だ！ このグラムに『勝負師』を任せるとは、運営も分かっているな！ わっはっは！」
そんな二人を見て、ローランがレンに声をかける。
「グラムは『勝負師が似合う人がどうしても必要。それには真の強者が相応しいんです』って言われて、快諾したんだよ。運営さんもすっかり、グラムの扱い方が分かってる感じだね」
得意げなグラムを見ながら、笑うローラン。
どうやら主役をメイにしながら、グラムにも出演してもらうために、うまく言葉を選んできたようだ。
「相変わらずのチョロさだったよなぁ。まあ、普段学校では怒られてばっかだからな」
そう言って笑うのは、セクシーなドレスを着た豪商役の金糸雀。
その演技にも、かなり注目が集まっていた。
「金糸雀も、本番前までメイちゃんとツバメちゃん、アルトリッテちゃんに加えて小さくなったマリーカちゃんまでいるって、ニコニコしてたもんね」
それでも始まれば、大きなハンマーを振り回している時のように一変。
チップ300枚を一気に賭けるシーンは、見事なものだった。
「これで一番得意な科目は、家庭科だからね」
「おい！ 恥ずいから言うなよ！」
ローランに言われて、顔を赤くする金糸雀。
「へえ、意外ねぇ」
これにはレンも、くすくすと笑う。
「今回も楽しかったな！」
「……こういうイベントは悪くない」
するそこに、アルトリッテとマリーカもやって来た。
今回の新マップお披露目イベントは、この九人を中心にして行われる形だったようだ。
「アルトちゃん！」
メイは駆け出し、そのままアルトリッテに飛びつく。
綺麗な黒髪のメイと、長い金髪のアルトリッテが並ぶと、自然と華が生まれる。
ツバメとまもりがそれを見て、羨ましいやらもっと見ていたいやらでソワソワする。
「見事なものだっただろう？」
「うんっ！ カッコ良かったよ！」
グラムと対決する勝負師のライバルといった感じで現れたアルトリッテは、白のハット。
こちらも、なかなか決まっている。
「皆カッコいいなぁ……！」
主役を演じながらも、クールなツバメや勝負師グラムに目を奪われるメイ。
やはり、カッコいいお姉さんへの想いは強い。
「……カメラの画角から外れる瞬間に、足をもつれさせて盛大に転んだシーンが多分ちょっと映ってる」
「言うなー！」
実はアルトリッテ、NPCのポーカー台に転んで突っ込んでいた。
映像を見返してみれば、「ぬはー！」している瞬間が少し映っていたりする。
「……いつものこと」
「いつもではない！」
今は身長も戻っていつも通りのマリーカが、クールに告げる。
二人はこんな場所でも、いつも通りだ。
「マリーカは今回の話を聞いた時、最初から結構乗り気だったんだ」
「そーなの？」
「……賭け事の類は嫌いじゃない。特にカードは楽しい」
「意外と勝負師だからな、マリーカは」
「……せっかくだから、この後は少し遊んでいこうと思っている」
「おおー！ 何だかカッコいい！」
クールに目を輝かせるマリーカに、思わず歓喜するメイ。
「聖剣のアルトリッテ、この神槍とカードで一戦していくか？」
ライブでは、『敵役の勝負師』だった二人。
やって来たグラムが、仕掛ける挑発。
「この聖騎士、勝負を前に引くことはない！ たとえ……ルールは分からなくとも！」
「そこは一応知っておいた方がいいんじゃない？」
無謀な勝負を始めようとするアルトリッテに、皆笑う。
「そう言えば、メイたちは直前まで別のクエストを受けていて、少し注目を集めていたようだが、何をしていたんだ？」
アルトリッテの質問。
今日はこのモナココ実装のイベントを盛り上げる仕事まで、別のクエストで遊んでいたメイたち。
それはそれで、ちょっとした盛り上がりを迎えていた。
そのためそこから引き継ぐ形で、今回のイベントにも多くの関心が集まったのだった。
問われたメイは、語り出す。
「ええと、それはね――――」
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