1144.報酬の時間です!
「闇を継ぐ者……か」
「闇に紛れて闇を討つ……一体どんな背景があるのだろう」
「時々聞こえてくる後継者という言葉は、組織を継ぐ者なのか、それとも世界か」
黒ずくめ装備のプレイヤーの会話に鳥肌を立てながら、そそくさと町を進むレン。
広報誌と動画で紹介された『闇を継ぐ者』の特集は、どれも冒険者心をワクワクさせる内容。
中でも月夜のエディンベアで見せた名乗り、そして屋根から落ちて消える演出は大人気。
連日多くのプレイヤーが、真似をして楽しんでいるようだ。
レンがうっかり決めてしまったシーンもしっかりアップで切り取られ、スキアの「悪魔の模造品ごときで、我らに勝てると思ったのか?」というコピーを印字されて、動画のサムネイルにされていた。
「レーンちゃんっ!」
そしていつもの港町ラフテリアにやって来たところで、早足のレンを見つけたメイが背中に飛びついてきた。
明るい港町、そして今日も元気なメイ。
ここで、さっきまでのこっそりモードは終了。
「今日も早いわね」
「うんっ」
レンはメイを背負ったまま、待ち合わせ場所まで走り出す。
「あははははっ! レンちゃん、前方から大きな剣を持った騎士さんがっ!」
「まかせなさいっ」
前からやって来た重装騎士をくるっと回って軽やかに回避すると、騎士は楽しそうな二人に思わず目を奪われる。
普段はメイが誰かを抱えて走るパターンが多く、逆のパターンはめずらしい。
「ふふ、これだと近場の魔物の攻撃も避けられなさそう」
レンは笑いながら、いつもの堤防の前に到着。
そこではツバメとまもりが、並んでアイスを食べていた。
「わあ! おいしそうっ!」
「きょ、今日発売ということで、皆さんの分も買ってきました!」
「このアイス、面白いです。なんと全然溶けません」
アイスのメーカーとのコラボらしいその商品を、さっそく購入してきたまもり。
受け取ったメイとレンは、さっそく堤防に並んで座る。
「わあっ、おいしいーっ!」
「へえ、本当に溶ける感じがしないわね」
ゆっくり食べてもいいように、溶けないというシステムはこの世界ならでは。
四人はアイスを楽しみながら、海と青空を楽しむ。
「広報誌、すごかったですね」
「うんっ! すっごくカッコ良かった! 三冊ももらっちゃったよ!」
「はひっ、映画のパンフレットのようでした!」
「また、各所が盛り上がってるわねぇ……」
今回の広報誌は、特に中二病勢からの人気が抜群。
今頃スキアとクルデリスも、「フフフフフ」とか言いながら見ているのだろう。
「狂化状態の白夜さんやリズさんも、迫力がすごいと人気ですね」
「今頃あの二人も、表向きは何事もなさそうな顔をしながら、内心では「決まった」と思ってるんでしょうねぇ」
笑う三人と、苦笑いのレン。
変わらず見事な敵役をこなした刹那、そして熱い戦いを見せた樹氷の魔女も、最低五冊は広報誌を確保しているだろう。
四人はそのまま、のんびりと堤防で過ごしてアイスを完食。
「それじゃあそろそろ、ヴァルガデーナの報酬をもらいに行きましょうか」
「りょうかいですっ!」
レンは、メイが今回のクエストで『堕ちて』しまわなかったことに安堵の息をつきながら町を進む。
そしてポータルを使って、古き時計塔の町エディンベアへ。
アバドンとの戦いによって崩れた建物も原状復帰が進み、すっかり元通りだ。
四人は秘密基地へとつながるバーから、地下へと降りる。
「待っていたよ」
そこではマネージャーの男が、作りのいいチェアに座ってメイたちを待っていた。
「急な呼び出しになってすまないな。実は組織本部から、今回の素晴らしい働きに報酬が送られてきた。ぜひ確認して欲しい」
やって来たのは、アタッシュケースを思わせる形状の黒い箱を持った構成員。
まるで銃でも収められているかのようなケースに、ワクワクしながら開く。
まずは、まもりから。
【エクスプロード・ランス】:突き出す一撃に大きな爆発が起きる槍。敵を大きく吹き飛ばす。
「盾にランス、これはカッコいい感じになりそうですね」
「【チャリオット】からの爆発ランスは、戦況を変えられそう!」
「は、はひっ!」
ランスというあまり見ない武器に、思わず上がるテンション。
続いてケースを開くのは、ツバメだ。
【受け身】:吹き飛ばしなどを受けた際に、転がることで即時の復帰が可能となる。連続使用はできない。
「意外とクールタイムが長いみたいですね」
「そ、即時復帰ということは、その時点でスキルの使用が可能なのでしょうか」
「おおーっ! それはいいね!」
受け身から敵の追撃に対応できるとなれば、切り札のような一面も持ちそうなスキル。
思わずメイも、盛り上がる。
「それじゃあ次は私が」
【黒翼】:魔力で展開する翼によって一度の飛行が可能。移動より戦闘時の急速移動に向いている。
「やめておきなさいよ!」
「これは……っ!」
「カッコいいーッ!」
「方向としてはツバメと同じで、クールタイム長めの緊急避難系スキルなんだろうけど……色を黒にする必要はなかったでしょう!」
目を輝かせるメイとツバメ。
レンはせめて「黒い羽が舞う演出、もしくは片翼だけの演出は絶対にやめて」と祈る。
果たしてその希望は届くのか。
「最後はわたしだねっ!」
ここまでの流れにテンションの上がったメイは、ワクワクしながらケースを開ける。
【肉球グローブ】:壁や天井への張り付き、ぶら下がりを自由自在にする手足のアクセサリー。拳打足蹴りスキルに『溜め』が可能になる。
「わあー! いよいよ野生の動物娘になっちゃうよ!」
「可愛いです」
「はひっ! 間違いありません!」
「メイの機動力なら面白くなるのは間違いないわ。でも、ついに耳と尻尾に加えて手と足も動物化するのね」
「力を使えば使うほど、野生に飲み込まれていくのですね……」
「これで【王者のマント】を装備したら、もうほとんど動物そのものだよーっ!」
そうなればもはや、姿は獣人。
野生はいよいよ、メイを侵食してきた。
「今回の君たちの働きは、組織に広まるほどだった。重ねて礼を言う。ヴァルガデーナの救出、見事だった!」
こうして報酬を手に入れたメイたちは、マネージャーたちに見送られて、秘密基地を後にするのだった。
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