1140.至高の錬金vs闇を継ぐ者
すでに残りHPが、1割というところまできたマリア。
始まるのは、最後の攻防だ。
「ゴアアアアアアアアアア――――――ッ!!」
猛烈な咆哮と共に、狂い出す。
割れた仮面から血の涙がこぼれ出し、魔法陣に大量の魔力が流れ込む。
放つ奥義は【至高の錬金】
それは大量の魔力を変換し、どんなものでも作り上げてしまう究極の技だ。
マリアが手を掲げると、煌々と輝く魔力光。
「きたっ!」
ワイルドが異変に気づいて、視線を上げる。
すると夜空に生まれた長さ数十メートルの巨剣群が、一斉に降下。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
「【殺到】!」
刺さっただけで地面が震えるほどの巨剣を、前衛組は速い移動で回避する。
次々に突き刺さる巨大な剣は、町を巨人族の戦いの後のように変えていく。
「【不動】【地壁の盾】!」
これをシールドは盾を掲げて守り、弾かれた剣が付近の民家を押しつぶす。
ここでマリアが掲げた手に、二度目の輝き。
「何かが、飛んできます!」
夜空を指差すスワロー。
飛来するのは、一本の巨槍。
「【裸足の女神】【ラビットジャンプ】!」
「【加速】【跳躍】【エアリアル】!」
「【殺到】【フリップジャンプ】!」
彗星のような角度で落下してきた巨大な槍は、五軒の家の屋根を切り裂き、そのまま前衛組と後衛組の間に突き刺さって大量の土煙を上げる。
どうにか回避に成功すると、剣と槍が土くれになって燃え上がって消えた。
「ま、まだですっ!」
土煙の中で、シールドが悲鳴をあげる。
どうやらこれだけの威力を見せた巨剣と槍ですら、プレイヤーの体勢を崩すための前座だったようだ。
【至高の錬金】が生み出したのは、マリア本体よりも巨大な人型。
そのまま夜空から高速で落下し、放つ踏みつけ。
着地した先に巨人が落ちてきたワイルドとスワローは、必死の回避を成功させるが――。
人型は、そのまま爆発。
「わあああああ――――っ!!」
「ああっ!」
集めた魔力を容赦なく使った二段階攻撃が、両者に直撃。
爆破の中心にいたワイルドだけでなく、スワローにも3割ほどのダメージを与えた。
二人は転がった後、すぐさま腕を突き状況を確認。
マリアはすでに、奥義の最終段階に入ろうとしている。
「冗談みたいな攻勢ね……! しかもここから、さらに威力を上げてくるみたい!」
その強烈な攻撃に、体勢を崩されていたベリアルが声をあげる。
このHPの状況では、喰らえば死に戻る可能性も高いだろう。しかし。
「だが、すでに攻撃の方向性は見えているよ」
「その通りです」
「そういうことだな」
「いっちゃおうかァ!」
「は、はひっ」
ワイルドの一言に続いて、構える闇を継ぐ者たち。
「いいわ、かかってきなさい。悪いけど、この顔ぶれで負ける気は全くしてないわ」
そんなベリアルの言葉に、全員がわずかに笑みを浮かべた。
マリアはひび割れた仮面の中の目を煌々と輝かせ、両腕を開く。
そして、決着をつけにきた。
「くるっ!」
次の瞬間見えたのは、一直線に落下してくる『町の一角』
空中に錬金された『反転したヴァルガデーナ』の一部がそのまま、こちらに向けて落ちてくる。
これに踏み出したのは、スキア。
「【開眼】が切れる前にいかせもらう! 【ダブルワンド】【万魔の眼光】!」
かなりのクールタイムを要するが、発動時間もそれなりに長い【開眼】
放った大きな十字光が二つ、夜空を駆け上がる。
輝きは炸裂し、反転の町の教会を割り砕いてみせた。
すると七つほどに割れた教会に、杖を向けたのはベリアル。
その手には、魔法の範囲を向上させる【ヘクセンナハト】
さらに『眼帯』と『包帯』を外し、放つは五連続の爆炎だ。
「【フレアバースト】!」
夜空に放たれた五つの爆炎は、砕かれた教会を容赦なく粉々に焼き尽くした。
「竜が来てるっ!」
落下してきた街に作り出した穴、闇を継ぐ者たちは危機を回避する。
だがワイルドは、すぐに気づいた。
落ちた町によって上がる砂煙を割って、猛スピードで飛来するのは、一頭の錬金された巨竜。
巨大な口を開き、そのまま魔導士組を喰らいに来る。
「そうはいかないんだよねェ! 【悪鬼羅刹斬】!」
放つ二本の巨大斬撃が、見事に翼を落とす。
航路を変えられた巨竜は、後衛組とすれ違うようにして墜落。
転がり、後方で大きな爆炎を上げた。
もし本体を狙って攻撃していたら、衝突は止められなかった。
これはクルデリスの、見事な対応だ。
だが、マリアの攻勢は止まらない。
「なんだよ……あれ!」
差し込む影につぶやいたのは、掲示板組だった。
視界に現れたのは、天を衝くほどに高いバベルの塔。
世界を割りそうなほどの巨塔が、容赦なく倒れ込んでくる。
神を怒らせたという神話の石塔を前に、誰もが呆然とする中、動き出したのはスワローだ。
民家の屋根に立ち、構えを取る。
そして顔を上げ、手にした【村雨】を引き抜く。
「【斬鉄剣】!」
駆け抜ける、白刃のエフェクト。
吹き荒れる風が止まり、時間が止まったかのような錯覚の後。
塔は真っ二つに分断。
分かれて倒れていく、バベルの塔。
その隙間にいたワイルドたちに、ダメージは無し。
「まだ続くのかよ!」
だが、攻撃はそれでも止まらない。
突然足元を流れてきた大量の水。
それは錬金によって、炎上させるためのものではない。
流されてきたのは、巨大な箱舟。
まるで上陸を果たす瞬間の揚陸艇のように、ワイルドたちの前に跳ね上がってきた。
「【かばう】【不動】【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
圧倒的質量の箱舟を、それでもシールドは止める。
「錬金は」
「させない」
「【超高速魔法】【ファイアボルト】!」
「【凶弾】!」
弾丸のように先行した炎弾が、マリアの眉間を撃ち抜く。
続けて全く同じ個所を魔力弾が貫いたことで、【錬金爆破】を強制停止させた。
こうなれば、そこに続くのは一人しかいない。
「ゆくぞ……【ゴリラアーム】」
この隙に【蓄食】で腕力上げのバナナをこっそり食べていたワイルドが、錬金爆破されずに残った箱舟の船首をつかむ。
「【大旋風】だああああ――――っ!!」
そしてそのまま、豪快に三回転。
つかんだ箱舟を、マリアに叩き込んだ。
こうしてマリアの最終奥義は、闇を継ぐ者によって完封された。
「――――覚悟はもう、できているんでしょうね?」
その表情に、樹氷の魔女が震える。
ベリアルは、敵の奥義を六人で順に破るという至上の高揚感によって、ついに『闇を超えし者』のオーラを出してしまった。
浮かべる笑みは、勝利を確信した強者のもの。
掲げた杖で満月を差し、振り下ろせば始まる『闇を継ぐ者』の連携。
「【加速】!」
スワローが駆ける。
「【跳躍】【回天】!」
マリアの右側から左側へと抜けていく跳躍斬りで、初撃を決める。
「【フリップジャンプ】【残光蓮華】!」
わずかな時間差で左から右へ跳躍したクルデリスが、交差する形で斬りつけていく。
大きく後方へ下がったマリアは右腕を突き出し、血弾を飛ばして反撃するが――。
「【チャリオット】!」
これを受けたのは、シールド。
盾が鳴らす銃弾のような音に、慌てながらも直進。
「【フレアバースト】!」
【マジックイーター】による爆炎を叩き込んだ。
「【降魔連砲】!」
さらに燃え上がる炎を貫いて、直撃した魔力光線がマリアの体勢を大きく崩す。
「【魔眼解放】」
この隙を見て、ベリアルが魔眼を解放する。
その右目が、美しい金色に輝き出す。
「継承するは混沌の血脈、傲慢なりし超越者は、神域の炎に焼かれて眠る――」
「【ダークフレア】!」
シンプルな詠唱から放たれた闇の炎が炸裂し、大きく燃え上がる。
「……ここだ」
そこに、満月の光を浴びながら屋根上を駆けていくのはワイルド。
【ラビットジャンプ】で大きく跳び上がると、【アクロバット】で華麗に一回転。
「――そして。摂理を蝕む罪人は、地を駆ける王の前に、終焉を見るだろう」
この動きを見ていたスワローは、とっさの判断でベリアルの詠唱用を『前半』とした。
生み出されたのは、二人分でひとつなぎの詠唱。
「【ソードバッシュ】!」
マリアの身体を、顔面から足元まで斬り裂く一撃。
着地したワイルドが剣を払って背を向けると、衝撃波が一瞬遅れて背中側へ噴き出した。
後方の街並みに、駆け抜ける嵐。
白面が砕け散り、マリアはそのまま崩れ落ちるようにして倒れ込む。
「ヴァルガデーナに潜む、魔は断たれた」
ベリアルの言葉に、六人は自然と集合する。
「我らは闇を継ぐ者。影に潜みて悪を討つ――――」
「「「「「断罪の刃なり」」」」」
満月の輝き。
崩壊した邪悪なマリア。
「……あっ」
そして、我に返るベリアル。
こうして掲示板組はもちろん、樹氷の魔女までを完全に魅了し尽くした戦いが、終わりを告げた。
「皆さん……っ」
そこにやって来たのは、聖女リーシャ。
「リーシャ、町の人はどうなったの?」
「まるで命を吸い取られてしまったかのように、倒れ込んでいます」
マリアを完全な生命にするために、町人の魂が使われた。
ならば本体が崩壊した後は、どうなってしまうのか。
ベリアルは自然と、倒れたままのマリアに視線を向ける。
「でも……今の私なら奪われた魂を、『返す』ことができるかもしれません……!」
そう言ってリーシャは、一歩前に出た。
両手を組み、祈り始めると、広がる聖なる輝き。
黄金の光が広がり、聖域を生み出すと、マリアが崩れ落ちていく。
そしてそこから放出された輝きが天に昇り、降り注ぐ。
思った以上の負荷がかかるのか、足をフラつかせるリーシャ。しかし。
肩に降りた小竜が、魔力を放出。
すると倒れ伏していた町人たちが起き上がり、石化していた者たちも元に戻っていく。
「聖女の覚醒をクリアしていないと、迎えられない展開なのかもね」
ベリアルの予想は正解だ。
さらに、町人を活かした数で闇堕ち時にリーシャが戻ってこられるか否かも変わる。
よってワイルドたちの進んだ流れは、最高のものだったと言えるだろう。
「ありがとうございました……みなさんのおかげですっ!」
魂の返還に成功し、歓喜する聖女リーシャ。
「おーい! 皆無事かー!」
そこに駆け寄ってくるのは、サグワと町民たち。
「ギリギリ、間に合ったな……」
「狂化とかいう状態異常になる、寸前だったな」
「ていうかお前、狂化前に狂う演技しようとしてたよな?」
「あ、危なかった……危うく「うおおおお――っ!」からの「……大丈夫だったわ」みたいな展開になるところだった」
制限時間ギリギリだった掲示板組も、狂化を免れることに成功。
昇る朝日に、目を細めるのだった。
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