1137.歴史の影で始まる戦い
ヴァルガデーナ住人の魂を集めて、造られた『器』に入れる。
伝説の錬金術師が生み出した化物は、様々な魔獣を継ぎ接ぎにして作ったマリア像のよう。
暗い夜の世界と、狂った陰謀。
大物を前にした昂りから自然と、スキアとクルデリスが笑みをこぼす。
並ぶ六人の闇を継ぐ者、その威容に思わず息を飲む観戦者たち。
戦いが、始まった。
「【フレアストライク】!」
「【降魔砲】」
高さ4メートルほどのマリアに対し、先手を打ったのはベリアルとスキア。
回避されるにしても防御されるにしても、『その先』を狙うためスワローとワイルド、クルデリスが動き出す。
「大きさが……変わりました!」
しかし迫る魔法攻撃を、マリアは身体を縮小させることでかわす。
ワイルドたちとさほど変わらぬ背丈になったことで、視線を下げる前衛組。
次の瞬間、驚愕。
その大きさを一気に見上げるほどに巨大化させたマリアは、右手を掲げた。
すると腕が、あっという間に『黄金』に変化。
「くるっ!」
【金腕叩きつけ】が、豪快な風切り音と共に迫りくる。
前衛三人は即座に、左右に分かれてこれを回避。
しかしすぐさま、左腕を黄金に変えて強烈な払いを放つ。
「スワロー、クルデリス、払いが来るよ!」
「っ!」
初撃の時点でワイルドとスワローが左右に分かれたのは、こういう事態を想定して。
立ち昇る砂煙で視界が悪くなった状態でも、ワイルドが左側にいたことでいち早く次撃を察知。
合図一つで『準備』ができる。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
「【フリップジャンプ】!」
三人は豪快な払いを、見事に回避した。
「【フレアストライク】!」
「【降魔砲】!」
次の一手を見据えた、意味のある回避を見せたワイルドとスワローに、驚くクルデリス。
ここでベリアルとスキアが同時に魔法を放つと、縮小が間に合わず、若干ながらダメージを与えることに成功。さらに。
「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】!」
ワイルドが着地と同時に走り込み、跳躍。
「【アクロバット】からの――――【フルスイング】だああああ――――っ!!」
月夜に映える、豪快なエフェクトと共に振り下ろされる【世界樹の剣】
強烈な一撃に対して、マリアは腕を【鋼鉄】に変えて防御。
猛烈な衝撃音と共に、散らばる盛大なエフェクトの輝き。
ワイルドは、そのまま着地。
マリアも【鋼鉄腕】による物理耐性向上で、大きく下がるにとどまった。
前衛組との間に、生まれた距離。
マリアは先行して、右腕を振り払う。
「「「っ!?」」」
突然の変化は、『金属』ではなく『液体』
マリアの片腕がなくなり、大量の液体がワイルドたちに降り注ぐ。そして。
「ガソリンみたいな、におい……?」
ワイルドがそうつぶやいた瞬間に、急激な発熱が始まり、豪炎が燃え上がった。
「わあああーっ!」
「あああああっ!」
「ちいっ!」
前衛組にまとめて1割近いダメージを与えた、マリアの【錬金爆破】
「か、回復が早いです……っ!」
しかも変換して失った腕は、高速で再生されて元通り。
こうして優位を取ったマリアは、さらに巨大化。
掲げた右手の中に生まれる黄金の杖を、そのまま斜めに振り下ろす。
「【スライディング】!」
「【ラビットジャンプ】!」
「くっ!」
超大型の敵が振り下ろす杖という攻撃に、距離感が一瞬おかしくなったクルデリスは、慌ててしゃがむも頭頂部をかすめた杖の勢いに転がる。
体躯が大きくなれば、攻撃範囲が大きくなるのは必定。
同時に、喰らい判定が大きくのなるのも道理だ。
ベリアルとスキアはすぐさま構えて、杖による次撃をけん制しようと狙う。だが。
その死んだ獣のような目が、後衛三人の方に向いた。
「「「っ!!」」」
投じられる巨大な金杖が、一直線に飛んでくる。
「大丈夫……!」
しかし直撃する位置ではなく、三者のちょうど間に突き刺さってひと安心。
そう思った、次の瞬間だった。
杖が一瞬で気化され、【錬金爆破】が盛大な炎を巻き上げた。
「「きゃああああ――――っ!!」」
「くうっ!」
まさかの攻撃に、後衛三人が巻き込まれて倒れ込んだ。
ダメージはこちらも、全体に2割弱ほど。
「スワロー、クルデリス」
「はい」
「もちろんだよねェ!」
前衛組は、すぐさま動き出す。
個体、液体、気体。
三つの状態変化に加えて、素材を爆発までさせるという異常な戦いぶり。
マリアなら隙を晒した後衛組に、強烈な追撃を入れることも可能だろう。
どうにかして、その阻止が必要だ。
ワイルドは正面から、スワローとクルデリスが左右からという陣形で、接近を仕掛ける。
そして攻撃体勢に入ろうとした、その時。
「ボウォオオオオオオオオ――――ッ!!」
「「「ッ!?」」」
この世のものとは思えない苦悶の声は、【悲魂の咆哮】
広範囲のプレイヤーを一気に、強制停止に追い込むスキルだ。
なんとその範囲は、後衛組も止めてしまうほど。
続くであろう攻撃に息を飲む、闇を継ぐ者の面々。
マリアは祈る。
すると『錬金』が発動し、足元が一瞬で変換。
足首くらいまでの深さの、水場になった。
それは前衛組はもちろん、後衛組もギリギリで巻き込む広範囲スキル。
「移動能力の低下……いえ、違うわ! 移動能力を下げた上での範囲攻撃!」
「そういうことですか!」
スワローの言葉に、ワイルドも気づく。
足元から立ち昇るのは、ガソリンのようなにおい。
「なるほど、これが分解と再構成を自在にする天才錬金術師の攻撃なわけね! でもっ!」
マリアの指先から、こぼれる炎球。
これが足元の液体に触れた瞬間、盛大な爆発と炎が巻き起こる。
そして足元の変化によって、逃げるのに時間がかかる状態。
前衛で回避可能なのは、ワイルドだけ。
後衛組は全員で逃げればギリギリ回避可能か、そんな距離だ。
「【バンビステップ】!」
「【加速】【リブースト】!」
「【殺到】!」
ワイルドとスワローは移動スキルで、クルデリスは高速攻撃スキルの移動使用で退避を狙う。
一方後衛組はなんと、ワイルドたち前衛組の方へ向けて走り出した。
「「「っ!?」」」
これには狂化への残り時間を忘れて戦いに見入る、見学者たちも驚愕する。
イチかバチか、前衛組が走るのは分かる。
だが後衛組が、前進する意味が分からない。
直後、炎球が足元の水分に触れ、盛大な爆発と共に豪炎を巻き上げた。
「なんでぽよ……?」
狂化スライムになるまで、あと少し。
スライムが不思議そうに、ぽよぽよする。
その答えは、炎が消えていくにしたがって露わになっていく。
「――――闇を継ぐ者の守護者は、この程度では崩せません」
「その通りであるぞ」
「シールドを超えるには弱いな、火力が」
「んっふふ。惜しかったねェ、邪悪なマリアちゃん」
「「「…………っ!!」」」
掲示板組はもう、瞬きすることすらできない。
助かるはずのない大爆発と、夜空すら焦がしてしまいそうな炎。
消えていく火の中から現れたのは、【水球の守り】によって守護された、闇を継ぐ者たち。
涼しげな顔で消えていく炎を、クールに眺めるスワローとワイルド。
これくらいは当然と、冷めた顔のスキア。
そして危機すら楽しんでいるかのような、妖しい笑みのクルデリス。
「これが、闇を継ぐ者……」
ポーズを決めつつ並んだ、黒づくめの六人。
ボス戦を見せ場に変えてしまうワイルドたちに、樹氷の魔女が息を飲む。
「まったくもう……」
炎が視界を遮っている内に、水球の中でポーズを取りだした四人を見て、苦笑いしながらも付き合ったベリアル。
もちろん、大技をしのいだ後は――。
「反撃だ」
「ルーン開放!」
「【両手魔法】【降魔連砲】【降魔連砲】!」
発数の指定されているスキルを増加するルーンによって、5発の魔力砲が10発に。
さらに片手ずつ放てば、合計20発。
マリアは身体を縮小して回避に入るが、肩を弾かれ、腕を弾かれ、胸部に直撃。
体勢を崩したところに受けた一撃に、ヒザをつく。
「【フレアバースト】!」
そこに繰り出した爆炎が炸裂。
転がったマリアが起き上がったところに、炎を割って駆け出してきたのはワイルド。
「【フルスイング】!」
マリアは慌てて腕を鋼鉄化し、対応。
防御に成功するが、そんなワイルドの頭上を越えてくる影。
「【フリップジャンプ】【残光蓮華】」
空中で放たれた四連の斬撃が、見事にマリアの上半身を斬り刻む。そして。
「【雷光閃火】」
空中に気を取られたところに、弧を描くように回り込んできたスワローの一撃が突き刺さった。
前衛組三人は、振り返ってマリアに背を向ける。
直後、突き刺さったまま火花をあげていた短剣が爆発。
スワローはクルクルと飛んで戻ってきた【致命の葬刃】を、片手でキャッチした。
反撃から、あまりに見事な連携にうなずくベリアル。
最後は少し雰囲気を出し過ぎだが、HPは3割近く減少させることに成功。
最高の攻撃を決められたことには満足だ。
「…………」
それを見て、小さく拍手するシールド。
マリアが爆発を起こした瞬間に、【水球の守り】で皆を守ったのだが、その際全員に全力で抱きつかれていた。
そんな彼女だけは、まだ恥ずかしそうに顔を赤くしていたのだった。
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