1136.狂気の男
ヴァルガデーナを狂わせ、滅ぼしてしまうクエストを請け負っていた刹那。
ワイルドたちは勝利し、首謀者のもとへと向かう。
美術館のような建物に入ると、石化した魔物や人間たちが並ぶ道へ。
「……どうやら、無事に聖女を救い出すことに成功したようだな」
降り注ぐ月光の下、ゆっくりと振り返ったのはスキア。
進むベリアルたちを待って、共に歩き出す。
「もしかしてもう、暗夜教団党首も倒した後だったりするのかなァ」
そして魔獣の石像から、ふざけ半分の表情で出て来たのはクルデリス。
「……っ!」
『一度離散したパーティの仲間が、一人ずつ集合する』演出に、ドキドキするワイルド。
演出に次ぐ演出の展開に、もちろんベリアルは苦笑いだ。
しかし足を止めることはなく、合流しながら石像の間を抜ける。
「サグワはどうだった?」
「逆行クエストを受けた強プレイヤーが、立ちふさがる状況だった。だが」
「なんとか無事を確保したよ、ギリギリで勝ってね」
「準備はいい?」
「当然だ」
「んっふふ、もちろん」
短く確認して、建物の背後へと抜ける。
やや閑散とした街並みに、浮かぶ満月。
そして、巨大魔法陣の中央に立つ者の姿。
確認して、ベリアルは【常闇の眼帯】と【宵闇の包帯】を装着する。
「ここからは、全力というわけだな」
「んっふふ、やっぱりこうでなきゃねぇ」
こっそり着けようとしていたベリアル、見られてちょっと恥ずかしくなる。
「……町長」
照れをごまかすようにつぶやくと、町長はゆっくりと振り返った。
「狂化を逃れ、聖女の暴走を抑え、我が同士の妨害まで乗り越えましたか。お見事ですねぇ……だからこそ貴方たちには、魔力を供給する贄になってもらいたかったのですが」
そう告げる表情にはもはや、狂化しかない。
「……私はかつて、この町に住む一人の天才錬金術師に出会いました。彼はその類まれなる才能で、新たな命の誕生を目指していた」
「この森に住む気味の悪い化物たちは、その名残かしら?」
「ご名答。魔物同士を『合体』させることで、互いの強みを持つ化物とする彼の秘術はやがて、さらなる高位種族の作成を可能としました」
「高位種族だと?」
「その設計図を見せられた時、私は魅入られたんですよ! それは、天使や悪魔を越えうる力を持つ者。まさに超越者と呼べるでしょう!」
興奮し始めた町長は目を血走らせながら語り、そして突然静かになる。
「強靭な魔獣を繋いで作った最高の『容れ物』を動かすのに、必要なのは魂でした。天才錬金術師は自らの魂を以て超越に挑みましたが……失敗したのです」
大きく肩を落とし、息をつく町長。
「ですが彼は残しました。超越者に必要なのは、媒介用の潤沢な魔力。そして大量の魂なのだという事実を」
再び、その狂眼を上げる。
「私は見届けたい……魔獣を紡いで生み出した無敵の身体に、人間たちの魂を合わせて生み出した至高の存在を……そのためには命など、材料に過ぎないんですよ!」
「ルナが言っていた『おぞましい』っていうのは、こういう事ね」
「ついに今夜全てがそろいました! 君たちは後悔するでしょう! 聖女の加護などを受けたせいで、この素晴らしい存在の一端になることができないのですから!」
町長が両手を広げれば、足元の大型魔法陣に光が灯る。
「【フレアストライク】!」
「【降魔砲】!」
すぐさまベリアルとスキアが魔法で攻撃を図るが、すでに強い魔力の輝きの中にいる町長には届かない。
ヴァルガデーナに留められた者からは魂を、石化したものたちからは魔力を。
吸収し、魔法陣の中心へ。
町長は足をフラつかせながら、まるでこれから現れる何かに場所を開けるかのように、下がっていく。
「さあ、私も超越者の一部に……ッ!!」
そしてそのまま、魂を奪われたかのように倒れ込んだ。
町中に張られた魔法陣から集まる輝きは、この町に住む人々の魂。
集まった輝きは妖しい光を生み、嫌な風を吹かせる。
闇を継ぐ者たちの黒の衣装が、バサバサと音を鳴らし始めた。
「おもしろい、過去最大級の戦いだな」
「んっふふ。さすが世界の危機と戦ってきたワイルドたちだねェ」
闇深く、そして大きな展開を前に、痺れながらも笑うスキアとクルデリス。
ワイルドたちと共に戦う大物を前に、最高に昂る。
「「っ!!」」
赤光が、天へと駆け上がった。
揺れる木々が音を鳴らし、現れたのは人型の化物。
それは様々な魔獣の肉を集めて縫い合わせた、邪悪なマリア像というべきか。
その顔に貼り付けられた、白い仮面は女神。
浮かべた穏やかな笑みを、隠すフード。
ボロボロのケープをかぶった姿はしかし、完全なる異形だ。
流れた血の涙に、スキアたちがさらに興奮を高める。
「禁忌が生み出したのは、堕ちた女神……ですが」
そんな中で、一歩前に出たのはスワロー。
二本の短剣を持ち、つぶやく。
「闇に潜む我らの目を、欺くことはできない」
続いたのはスキア。そして。
「闇を以て、深き闇を征する」
クルデリスが、怪しい笑みを浮かべる。
「それが、闇を継ぐ者」
ワイルドは剣を引き、視線をシールドに。
「いかなる巨悪が立ち塞がろうとも、止まることはない」
見れば、シールドもちょっとポーズを取ってる。
ここまで決められては、さすがにベリアルも続くほかない。
「慈悲なき我らは、悪を討つ――――」
杖をゆっくりと持ち上げて、継ぎ接ぎのマリアに向けた。
「「「「「――――断罪の刃なり」」」」」
邪悪なマリアと、煌々と輝く狂気の満月。
六人が取る決めポーズは、各人の距離感も完璧だ。
「……すごい」
死に戻り直後、全力でヴァルガデーナに駆け戻ってきた樹氷の魔女。
その後についてきたのは、たとえ『狂化』してでも『闇を継ぐ者』の戦いが見たいと、制限時間を知った上で町に飛び込んだプレイヤーたち。
日の当たらない世界で始まる、闇と闇の戦い。
あまりに完璧な世界観に、誰もがその目を奪われた。
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