1135.悪魔乱舞
複数体のアスモデウスは、【幻覚】によるもの。
加えてスキルの【シャッフル】という、やっかいな魔法。
この戦いの要は、72柱悪魔ダンタリオンだった。
「さすがだよ、ベリアル」
四体のアスモデウスの謎を解き、混ぜられたスキルをアイテム使用を中心にして乗り切る。
見事な戦いを見せる四人に、笑うルナティック。
「同時制御は少し難しいけど、ボクも全力を出そう。おいで――――ボクのアモン」
「「「「っ!?」」」」
現れたのは、三体のアモン。
「アスモデウスを4体維持したまま、アモンまで!?」
「壮観だろう? さあ、勝負を付けよう闇を継ぐ者たち!」
ルナティックは両手を開き、恍惚とした笑みを浮かべる。
「【フレイムバスター】!」
三つ同時に放たれる大型の炎砲弾。
弾け、交じり合い、燃え上がる炎が駆け抜ける。
「「っ!」」
どれが本体か分からない上に、スキルはシャッフルされた状態。
ワイルドとスワローは速い判断で走り出し、ギリギリで攻撃範囲を切り抜ける。
広がった炎の足は速く、ベリアルはシールドの盾に隠れてダメージを軽減。
スワローを狙うのは、アスモデウスたち。
迫る三連続の【猛進槍】
スワローは飛び込みからの転がりで二つをかわし、三つ目の騎竜に弾かれた。
【幻覚】ゆえにダメージはないが、体勢を崩されたところに迫るのは本命個体だ。
「【猛進連槍】」
放つのは超高速からの連続突き。
スワローは、回避は不可能と判断。
今大事なのは、とにかくアスモデウスを自分に集中させること。
ダンタリオン打倒のための、隙を作ることだ。
「ここは防御で……!」
高速で削られていくHPに驚きながら、しっかりと連続突きを受け止める。
一方ワイルドは、アモン三体の方へ。
爪による叩きつけを横移動で交わすと、迫る払いの一撃。
「【アクロバット】!」
【猫耳】装備によるスキルを発動し、側方回転跳びでかわす。
「アモン! 【フレイムバスター】だ!」
ここで再び放たれる、三体同時の大炎弾。
どれか本物か分からない三つの炎弾は、かわせば混ざり合って炸裂する。
「いきますっ!」
しかしワイルドの手には【魔断の棍棒】
しっかりと大炎弾を見据えて、三つが一つになった瞬間を捉える。
打った超大炎弾は、美術館のような建物の上階にぶつかり爆発。
燃え上がる爆炎のまばゆさに、思わず目を細める。
その余波にワイルドが思わず足を引いたところに、迫るのは長い蛇の尾。
「うわっ!?」
肩を強く弾かれ、思わず尻もちをつく。
スワロー、ワイルド共にダメージを受ける形になったが、アスモデウスにアモンという二大悪魔を引き付けることに成功。
ベリアルとシールドは、この隙に一直線。
「【スタッフストライク】!」
シャッフル後の内容は【フレアストライク】
放つ炎砲弾の狙いは、もちろんダンタリオンだ。
戦いの要となる悪魔を、ルナティックは守らなくてはならない。
再び防御で、身代わりとなる。
ここで敵の打倒に向け、最前に出たのはシールド。
ダンタリオンは後衛型の中でも、特に移動や戦闘が不得意なタイプのようだ。
「【天雲の盾】!」
シャッフル後の内容は【ローリングシールド】
シールドの攻撃が、ダンタリオンを弾き飛ばした。
「【ブリザード】!」
「【飛び影】!」
すぐさまルナティックが、ベリアルの【フレアアロー】をかわしてシールドのもとへ急ぐ。
「させないよォォォォ! レビティア――!」
防御の効かない魔法で、攻撃を仕掛ける。
「【獅子霊の盾】っ!」
「な、にっ!?」
しかし、先行したのは意外にもシールド。
【レビティア】は、ある程度の接近が必要になる。
迫るルナティックに対し、放たれたカウンター。
大盾から飛び出した巨大な獅子の霊は勢いよく喰らいつき、そのまま振り回して投げ飛ばす。
「まもり! ルナを止めたのは最高の仕事だったわ!」
全速力で走るベリアル。
一気にダンタリオンのもとにたどり着くと、そのまま【スタッフストライク】こと【フレアストライク】を込めた【魔剣の御柄】を振り下ろす。
さらに払いから切り上げへと続け、最後は大きな振り降ろし。
「解放っ!」
そのまま炎砲弾をぶつけると、ダンタリオンが粒子になって消えた。
するとアスモデウスと、アモンの幻覚が消える。
ワイルドとスワローが身を切って作った好機を、シールドとベリアルは見事に活かしてみせた。
「ここで勝負をかけにいきましょう!」
「「了解」」
重なる前衛組のクールな声。
【シャッフル】の効果が切れたのが、何より大きい。
「【分身】」
四人のスワローが、走り出す。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】」
高速移動の連発で、ルナティックへ接近。
「っ!?」
【暗天のブーツ】による高速移動時の『消失』効果によって、わずかに反応が遅れた。
目の前には、現れたり消えたりする四人のスワロー。
「【加速】【加速】【加速】【加速】!」
星を描くような軌道の、消える高速移動で斬撃を入れていく。
「【極炎】!」
どれが本物か分からない高速移動に囚われたルナティックは、範囲魔法で反撃。
円形に広がる炎が、三人のスワローを焼き消した。しかし。
「【妖刀化】【跳躍】【空襲】」
「っ!?」
本物のスワローは跳び、【村雨】による空中斬撃を決める。
だが、これだけでは終わらない。
「……なんだ、これはっ!?」
分身と高速移動による翻弄の直後、見えたのは【狸耳】の【まやかし】で巨大化したワイルド。
「【装備変更】【曲芸連射】」
【白鯨の弓】によって連射された五連の矢は、クジラ漁に使われる銛にしか見えない。
ストロボのように消えては現れるスワローの直後に、縮尺をぶち壊すワイルドの連携は、もはや感覚を狂わせる。
スワローの【空襲】によってヒザをついていたルナティックは必死の回避を始めるが、三発目のところでバランスを崩す。
四発目が頬をかすめ、五発目が左腕を貫いた。
「状態異常だって!?」
【麻痺】を受け、動かなくなった左腕。
「それなら、これでどうだ! いくよアモン! アスモデウスゥゥゥゥ――――ッ!」
ルナティックは残った右腕を上げ、そして強く振り下ろす。
「【フレイムディザスター】!」
地面に走る無数の地割れが、溶岩のような炎が噴きあげる。
「【装備変更】【裸足の女神】!」
【鹿角】による速度上昇効果を乗せた、超加速移動。
次々に噴きあがる炎の隙間を、ワイルドは駆け抜けていく。
「砕け! 【滅びの槍】ィィィィ!!」
鳴り響く、騎竜のいななき。
アスモデウスが全力で放った大槍は、刺さればもちろん即死級の大ダメージ。
その刃部分に触れただけでも高ダメージに加えて、数十メートルの吹き飛ばしとなる一撃。
「ここだ……っ」
真正面から超高速で迫る悪魔の槍に対し、ワイルドは跳躍。
なんと槍の柄に足を突き【アクロバット】を発動、華麗な回転跳躍を披露する。
「片方レプリカとはいえ大罪悪魔を二体そろえて、止まらない? まったく、君の方がボクにはよほど悪魔に見えるよ、ワイルド!」
狂気の笑みを浮かべるルナティックに対し、ワイルドはニヒルな顔を作る。
「……サンキュー」
「だが! ――――【クリムゾンフレア】」
上位上級の火力を持つ、闇属性の爆炎魔法。
「【装備変更】」
ワイルドは着地際に頭装備を【狼耳】に変更。
地面をローリングすることで、炸裂前の闇の炎球をスレスレで回避。
「【ラビットジャンプ】!」
跳躍して、剣を掲げる。
すぐさまアスモデウスとアモンが、隙を晒しているルナティックの壁になる。
「【装備変更】! いきますっ!」
ワイルドは掲げた剣を【大地の石斧】に交換。
「【地裂撃】っ!!」
地面に叩きつけた石の大斧が、崩落を起こしてアスモデウスとアモンを巻き込む。
「からの【グレートキャニオン】だああああああ――――っ!!」
地面から突き上がる岩盤が、二体の大罪悪魔をまとめて夜空に突き飛ばした。
目前に現れる、巨大な岩山。
「【加速】!」
悪魔に守られ下がったルナティックを、狙って駆けていくのはスワロー。
右側から回り込む形で来た黒きアサシンに、ルナティックは即座に対抗。
「【チェーンスキューア】!」
「っ!」
矢じり付きの鎖が八本突き出し敵を刺すスキルで、見事にその足を止めてみせた。そして。
「来てるのは分かってるよベリアル!」
ワイルドの派手な一撃に紛れて、右側から来たスワローの一撃。
さらにそれをオトリにして、【低空高速飛行】で左側から迫ってきていたベリアルに、振り返るのと同時に魔法で攻撃。
「ブレイズ――――なッ!?」
しかし、上がらない。
先ほど【麻痺】を受けた左腕が、持ち上がらない。
「闇を蝕め、深淵より来たる死喰いの刃――」
「――――【ナイトメア】」
突き刺す闇の刃。
付近から一斉に集まった、闇色の輝きが集束。
数十センチほどの球体にまで収縮させた後、一瞬制止。
魔力の円環を二度ほど放った後、臨界を迎えたエネルギーが爆発を巻き起こした。
「永遠の眠りに、相応しき悪夢を」
消えていく、闇の残滓。
ルナティックは、満月を背にヒザをつく。
「見事だよ。まさか『古代魔法』の短縮詠唱まで……完成させているとは……」
狂気に飲まれていくかのように顔を押さえ、乱暴に天を仰ぐ。
「本当に、やってくれるよ君は……ボクの、ボクの野望を……! ナイトメアァァァァ……ッ!!」
そして見事な断末魔と共に、粒子となって消えていった。
「さすがベリアルです。闇の深淵を顕現する古き魔法すら、簡略化を成功させていたのですね」
「思ったより私の接近が早かったから、短縮版を選んだだけでしょう?」
驚くフリをするスワローに、そう言って苦笑するベリアル。
「さあ、いきましょうか」
四人、ちょっとクール目な軽いハイタッチをして歩を進める。
行く先はもちろん、諸悪の根源である男のもとだ。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
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