1132.立ち塞がる狂気
聖女リーシャを見事、闇堕ちから救ったワイルドたち。
リーシャはその力を覚醒させて、フルーネの石化を解除。
さらに狂化町人たちの解放へと動き出した。
「向かうのは、この巨大魔法陣の中央部分よ」
「あ、あの石像がいっぱいあった建物の方ですね……!」
美術館のような建物の前庭が、町を覆う狂化魔法陣の中心地だ。
四人が早足で向かうと、すでに門扉は消し飛ばされていた。そして。
「待っていたよ、ナイトメア」
門から玄関口までに、並んだ飾り付きの石柱。
崩れかけたその柱の上に、腰を掛けたまま笑うのは――。
「いや、今はベリアルと名乗っているのだったかな?」
「……ルナ」
維月刹那・ルナティック。
肩にかからないくらいの短さの黒髪ショートカットは、艶やか。
どこか少年のようにも見える、妖しい少女。
闇の使徒を抜け、暗夜教団の立ち上げを首謀したトッププレイヤーの一人だ。
「私たちが来るのを待って、わざわざそこに登って座ったのよね」
ワイルドが「おおーっ!」と、その登場の仕方に目を輝かせているのを見て、早めにツッコミを入れるベリアル。
「立ち塞がるために、ここにいると考えるのが普通ですね」
月光の下、静かにつぶやいたのはスワロー。
「レクイエムや、光の者とはもう戦ったのだろう? レクイエムは町長たちの怪しさに気づいて、彼の意図に背いた。光の者は彼に言われた通り、宿を出なかった……そして、二人とも狂化した。そんな中でボクが狂っていないのは――」
「……町長についたから、でしょう?」
「ふふ、ご明察。君たちは闇に紛れて悪を裁いているのだったね。どうやらボクはその真逆、『悪』を成す方に選ばれたようだ」
そう言って刹那は、くすくすと笑う。
この町で起きていることがクエストであり、ワイルドたちの反対の動きをする者がいる以上、当然最後に勝者が決定する。
どうやら刹那が選んだのは、そこを目指せる立場のようだ。
「かつてボクたちが狙っていた悪魔召喚や、聖教都市の崩壊とはまた違う。こっちはもっと――――おぞましい」
「それは、どういうこと……?」
「ボクたちは町長に、『化物の正気を奪ったり、魔物を石化させる』という一見正しいルートの手伝いをさせられていた。だがそれは全て偽り。本当の狙いは、この町に住む者たちを狂化し、高い魔力を持つ者を石化して、逃がさないようにする。そのうえで全ての命を……一つにすることなんだよ」
「命を……一つに?」
「このボクを『使う』だなんて、許されることではないけどね。最後に力を得ることができるのなら、それくらいは見逃してあげてもいいと思ったのさ」
町長の願いをかなえれば、当然報酬が得られる。
そして町長の狙いは、闇深い悪行。
力を得るために悪と闇に染まるという最高の中二シチュエーションとなれば、刹那が乗らないはずがない。
「一つだけ確かなことがある。町長が全てを成した時、栄光を手に入れるのは……このボクだ」
そう言って刹那は、月明かりの中こちらに妖しい笑みを見せると、壊れかけの石柱から飛び降りた。
そしてゆっくりと、ワイルドたちの前に歩いてくる。
「君たちにはここで、消えてもらうよ?」
「それなら、リズと白夜を失ったのは痛手なんじゃない?」
状況は、四対一。
足を止めた刹那は、ゆっりと顔を上げる。
「そんなことはないよ。今回は相手がパーティになることが前提。こっちには当然、それに対抗するだけの仕掛けが用意されているんだ」
宣言は、この戦いが一人でも戦えるものであるということ。
「ボクが悪魔に引き寄せられているのか、それとも悪魔がボクに魅入られているのか」
刹那は満月を背に、邪な笑みを浮かべた。
醸し出す妖しい雰囲気に、思わずワイルドが目を輝かせる。
「ああ、ワクワクしちゃうなぁ……そうだろう、闇を継ぐ者たち」
「戦いに、特別な感情を抱いたことなどない」
そんな刹那の言葉に返したのは、スワロー。
真顔かつ無感情な言い方で短剣を取り出せば、一気に運命の戦いの空気が流れ出す。
闇に狂う魔導士と、感情なきアサシン。
一瞬で雰囲気を作り出した見事な言葉選びに、さらにワイルドが目をキラキラと光らせる。
「盾の君にも、興味があったんだよ」
「あ、貴方に……私の盾を破ることができますか?」
なんと、シールドもここで恐る恐る流れに乗った。
これにはさすがに、驚くベリアル。
「再戦できてうれしいよ、野生児メイ」
「野生児ではない」
「へえ、それなら何だっていうのかな?」
「我が名は――――ワイルド」
刹那、危うく「それは野生児だよね」と言いかけて口を閉じる。
「始めよう」
代わりに、挑発的な笑みを浮かべてベリアルを見た。
「やっぱりボクは……君たちと戦うのが一番楽しいよ、ナイトメアァァァァ――――ッ!!」
始まる戦い。
シールドが盾を持ち上げる。
スワローが静かに短剣を構え、ワイルドはもうワクワクに満面の笑みだ。
そんな中でベリアルだけが、若干顔を引きつらせながら杖を構えた。
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