1131.聖女の力
「無事であるか」
自分が『闇を継ぐ者』だったことを思い出して、クールに問いかけるワイルド。
「私は……うう……っ。強い悪意に意識を乗っ取られて……」
「絶望で聖女の力が弱まっていたところに、町長の『狂化』が効いちゃった感じね。でもちゃんと乗り越えた。これならもう大丈夫そう」
「助けていただいて、ありがとうございました」
座り込んだまま、肩で息をする聖女リーシャ。
ワイルドの見事な敵HP管理で、しっかりと正気を取り戻す展開に進めることができた。
「フルーネは……!?」
リーシャは建物の屋根の上を確認する。
そこには変わらず、石像と化したままのフルーネの姿がある。
「あ、あの……お願いしますっ。どうかフルーネを下ろしてあげてもらえないでしょうか」
「おまかせあれ」
ワイルドはつぶやき、身軽な動きで石像フルーネを回収。
リーシャの元に戻ってきた。
「フルーネ」
するとリーシャは、石になった小竜を抱きしめた。
そして、そっと目を閉じる。
「これは……?」
意外な事態に、ベリアルが息を飲む。
リーシャから広がっていく、まばゆい黄金の光。
神々しくも温かな輝きは、まさしく聖女の持つ奇跡の力だ。
「石化が……解けていきます」
すると石像と化していた小竜が、徐々にその身体を取り戻していく。
やがて完全に石化が解けると、小さく鳴いた。
「フルーネ!?」
リーシャは驚きと共に目を開き、そのまま強く小竜を抱きしめる。
「よかった! フルーネ、本当によかった!」
その姿を見たワイルドは「おおーっ!」と歓喜に拍手を送り、スワローも大きくうなずく。
シールドも驚きの展開に、思わず見とれてしまっている。
よろこぶ、リーシャとフルーネ。
ここでようやく自分の身体に宿る輝きを見て、驚く。
「これは、一体……」
「これが町長の言ってた、『もっと強い力に目覚めると思っていた』の答えなんだわ」
「そういうことですか」
「闇堕ちを乗り越えた先にあるのは、聖女としての――――覚醒」
立ち上がると、美しい黄金の輝きがリーシャを包み込んでいた。
「リーシャには今回の石化みたいな、呪いと思われる異常を回復する力が生まれた。ということは……」
「何かくるっ!?」
ワイルドが異変に気付いた直後、現れたのは数十体の狂化町人たち。
こちらを取り囲むようにして登場した町人たちは、武器を手に迫り来る。
すぐに構えを取るワイルド。
「ここは私に、お任せください」
しかし聖女リーシャは笑顔でそう言うと、ゆっくりと一歩前に出た。
それから両手を組んで、目を閉じる。
「皆さん目を覚ましてください――――【プリフィカーティオ】」
石床の上を、波紋のように広がる黄金の輝き。
狂化町人たちの足元を、光が通り過ぎると――。
「……あれ? 俺は一体なぜこんなことを……?」
「私はどうして、こんなところに?」
「聖女様? こんな時間にどうされたのですか?」
狂化の解けた者たちが、次々に正気を取り戻していく。
「す、すごいです……」
夜闇に広がる黄金の光と、狂化から回復していく町人たち。
その光景はまさしく、聖女の起こした奇跡だった。
「そうか、我々は奇妙な力に身体を乗っ取られて……!」
「これは一体何が?」
正気を取り戻したことで、町人たちが記憶を取り戻していく。
出てきた疑問はやはり、この状況の発端について。
「町長のやったことよ」
「町長殿が……? まさか、そんな」
さすがにこの恐ろしい事実を受け入れられない。
「事実です」
しかし聖女がそう言うと、今も赤い光に染まったヴァルガデーナの町を見て、町人たちは言葉を失った。
「皆さん。私は今も狂化に苦しむ人たちを、救いに行こうと思います」
そして、そんなリーシャの言葉を聞いて、すぐに意識を変える。
「俺たちは……戦える者は聖女様の護衛を! それ以外の者たちは、この妖しい光の範囲から抜け出すんだ!」
「聖女様、僕たちも同行させていただいてもよろしいでしょうか」
「私もお願いします」
たずねたのは、戦闘もできそうなたくましい青年たち。
どうやらその能力の高さゆえに町への居住を求められ、受け入れたことで石化を逃れた者のようだ。
「とても心強いです。よろしくお願いします」
「はいっ!」
こうして聖女リーシャは、今も狂う町人たちの救助に向かうことを決めた。
リーシャは一つ息をつき、こちらに向き直る。
「皆さん、ありがとうございました。皆さんが私の目を覚ましてくれたおかげで、町の方たちを助けることができそうですっ!」
リーシャがそう言うと、小竜も翼を広げて気合をみせる。
「それなら私たちは町長を追いましょう。聖女すら駒の一つくらいにしか見ていなかったくらいだもの、魔力を集めていた以上は、何か大きな動きをしているはずよ」
「闇を以て、闇を暴くということになりそうですね」
「い、いきましょうっ」
「リーシャちゃん、がんばってね!」
「はいっ!」
またもうっかり、いつもの感じになってしまうワイルド。
町人たちを救うために動く聖女と、これ以上の凶行を止めるために動く『闇を継ぐ者』の面々。
そして他方では、スキアとクルデリスがサグワの救出に成功している。
闇深くそして難しいこのクエストを、ワイルドたちは最高の流れで進んでいく。
町を覆う魔法陣の中心。
そこで待っていたのは、肩までの黒髪が美しい一人の少女だった。
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