1126.審判の時
「来たれ――――ヘルメス」
樹氷の魔女の呼び声に現れたのは、岩のような灰色の肌をした2メートルほどの人型。
そこから飛び出した剣のような骨格は、まばゆいばかりの黄金だ。
樹氷の魔女は、大げさに両手を開いてみせた。
「さあ、審判を続けよう」
鋭い視線を向けるその姿に、思わずスキアたちもゾクゾクしてしまう。
「いけ、【ミダスの剣】」
「【降魔連砲】」
獣のような勢いで走り出したヘルメスは、スキアの魔力砲をかわしてクルデリスに接近。
「おっとォ」
速い接近から振り下ろされた剣を、慌ててかわす。
すると斬られた地面が、一瞬で黄金に変わった。
見たことのない状態異常攻撃に、走り出す緊張。
すぐさまクルデリスは、距離を取る。
「切り裂け【氷のイバラ】」
足元を高速で伸びてくる氷の枝から、鋭い刃が伸びる。
直撃を避けるため、しっかりと軌道を見極めての回避。
しかしこの瞬間を、当然ヘルメスは狙ってくる。
「【ミダスの剣】」
豪快な振り回しが、身体を強引に傾けたクルデリスの目前を取り過ぎていく。
「あっぶなァ……!」
「【三連射】【アイシクルエッジ】!」
「【降魔連砲】」
【ミダスの剣】をかわしたクルデリスを狙って放たれた氷刃。
二つは魔力砲によって無効化するも、残った一つがクルデリスに突き刺さった。
「【凶弾】」
ここでスキアは、狙いをヘルメスに変更。
あえて近接を得意とする強敵を、呼び寄せる。
「先行すべきは錬金術師――――【ダブルワンド】」
速い動きの敵が、状態異常を使う状況はあまりにやっかい。
スキアは流れを変えるため、得意のスキルで攻撃に入る。
そして目前までヘルメスを呼び込んだところで、両手を開き、左右の人差し指がわずかに当たるような形にして伸ばす。
「【降魔砲】」
「なに……っ!?」
左右の手から、同時に放たれる魔力砲。
両手を使い同時、もしくは左右連続で魔法を使用できるこのスキルは、威力を65%まで低下させるが、右手と左手でクールタイムも『別』になる。
ヘルメスはそれでも回避に成功するが、スキアは攻撃を続ける。
「これならどうだ? 【降魔連砲】」
左右五発ずつ、合計十発の魔力砲が放たれる。
回避直後のヘルメスには、さすがに避けるのが難しい。
魔力光に弾かれ、派手に転倒した。
「クルデリス!」
「おまかせあれェェェェッ!!」
ワイルドの口調をマネしながら、クルデリスは叫びと共にヘルメスへの追撃に駆ける。
「氷のイバラ――」
「させるか! 【凶弾】【凶弾】【凶弾】【凶弾】【凶弾】――ッ!!」
「くっ!」
火力は低くとも、その分始動の早い連続魔法で樹氷の魔女を猛烈に撃ち付ける。
残りわずかな【ダブルワンド】の効果時間を、使い切るまでの連射だ。
立ち上がるヘルメスに、迫るクルデリス。
「【ミダスの剣】」
振り上げる黄金の剣。
これを、直前の急ブレーキでかわす。
鼻の前を、黄金剣の切っ先が通り過ぎていった。
「【殺戮懺悔】」
そして、二本の短剣に魔力を灯す。
「ヒャアッハッハッハ――――ッ!!」
魔力の軌跡が乱舞する。
輝いては消えていく斬撃が、高速で点滅を繰り返すような連撃。
ヘルメスを、容赦なく切り刻んでいく。
「こいつで、しまいだァァァァ――ッ!!」
最後は右の短剣を直上に放り投げ、代わりに生み出した魔力の剣をその腹部に突き刺す。
貫通した魔力剣は爆発し、ヘルメスを吹き飛ばした。
「ここは、攻めどころだ……!」
戦いの中心が自分たちに移り替わったと、判断したスキア。
続けざまの大技で反撃を狙う。
「来い、我が使い魔――――【古代烏】(エンシェントクロウ)」
大きなカラスは、その全身に青緑に輝く紋様が描かれた太古の個体。
単体の攻撃力は低く、戦わせて勝利を狙えるものではないが――。
「【イビル・ゴスペル】」
四方八方にランダムの間隔で生み出された黒の光球は、空中に静止すると次々に炸裂を開始。
さらに【古代烏】の『エコー効果』が、魔法を増幅する。
大量の光球に巻き込まれたヘルメスは、右から左から爆発を受けて、ピンボールのように跳ね転がった。
「ッ!?」
だがこの隙に、意外にも樹氷の魔女は魔法攻撃ではなく接近戦を選択。
「【魔氷刃】」
全力疾走からクルデリスに向けて、氷の刃を振り払う。
「知ってりゃ、回避できない攻撃じゃねえなァァァァ!」
意外性こそあれ、近接型のクルデリスにはもう通じない。
これを回避して、短剣による反撃を叩き込みにいく。しかし。
「――――【来たれ】」
「「ッ!?」」
驚きに目を見開く。
ヘルメスを近くに『呼び寄せるスキル』の発動で、頭上に現れた魔法陣。
「もう一手……っ!?」
あえての近接は、『虚を突くもの』ではなくこれが狙いだった。
落下と同時に放つのは【ミダスの剣】の振り降ろし。
「チィッ!」
これをクルデリスは、とっさに左腕で受けた。
さらに返す刃が右腕を斬り、一瞬で黄金化。
これで二刀流はもちろん、攻撃自体ができなくなってしまった。
「【ミダスの剣】は切られた箇所が黄金化する危険なスキル。でもさァ……その分ダメージは低いんだよねェ」
しかしクルデリスは、ここぞとばかりに狂気の笑みを浮かべた。
「そして腕の一本や二本、くれてやっても勝つのが僕の流儀なんでねェ!」
そう言って身体を倒せば、背後には駆け込んできたスキアの姿。
「私も前線まで上がってくるとは、思わなかっただろう?」
まもりが盾で止めて、レンが撃つ。
その形式を学んだスキアはクルデリスと入れ替わり、ヘルメスに右手を伸ばす。
「【ダブルワンド】【万魔の眼光】!」
そして続けざまに左手を、樹氷の魔女へ。
「【万魔の眼光】!」
「ッ!?」
本来は中距離から遠距離で放ち、散弾のような広範囲攻撃として使用する魔法。
近接で放たれた右手の十字光は直撃し、ヘルメスを吹き飛ばす。
そして炸裂。
大量の細かな十字光が、ストロボライトのように煌々と瞬いた。
さらに左手で放った十字光も続けざまに炸裂し、吹き飛んだ樹氷の魔女は民家に再度激突。
HPを大きく減らす。
「効果は石化と変わらないが、多少は豪華だな」
「金の腕を売ったらいくらになるのか、気になるところだねェ」
使い物にならない両腕を見て、冗談をかわす二人。
どちらも当然、窮地の中で交わすふざけた会話に酔っている。
すると空き家が崩れ落ち、砂煙があがった。
「……ゆくぞ、ヘルメス」
樹氷の魔女は呼びかけて、杖を握り直す。
決着の緊張感に、誰もが意識を集中し始める。
「駆けろ! 【黄金列葬】!」
砂煙を放つ、爆発的な低空跳躍で一気に接近。
放つ回転斬撃が、高速で広がっていく。
「ここ、まさに死線だねェ!」
振り上げからの振り降ろし、さらに二度の水平斬り。
すさまじい速度で繰り出される剣を、クルデリスは目を見開き全力回避。
ヘルメスは止まらない。
垂直の振り上げから、再びの水平斬撃へとつなぎ生まれる十字の斬撃。
「【アイシクルエッジ】」
崩れたバランスを取り直そうとしたところに、放たれたのは一片の氷刃。
「ッ!?」
これが見事に腿に刺さり、クルデリスは片ヒザを突かされた。
ここに放たれるのは、三本の大きな輪を描く黄金の高速斬撃。
「絶体絶命……! でもさァ、僕の金の腕はもうダメージを受けないんだよねェェェェ!」
その初撃に、クルデリスは右腕を突っ込んだ。
ダメージはないが、威力はそのまま。
クルデリスは地面をバウンドして転がり、同時にヘルメスの動きを止めることに成功した。
「だろうな」
しかし樹氷の魔女は、知っていたとばかりのクールな対応。
「……目覚めし白き吹雪の王。その息吹は、絶対零度の祝福なり」
「詠唱だと……ッ!?」
レンによって、詠唱後には必ず大技が来るという常識が生まれた星屑世界。
樹氷の魔女の狙いは、ヘルメスをオトリにした三者まとめての抹消だ。
ヘルメスにとどめを刺そうとしていたスキアは一転走り出し、そのまま転がって回避を試みる。
「凍てよ世界、来たれよ悪夢。我が根源の本流は、移る時すら流れを止める――――【無明雪月花】!」
氷球が飛来し、一瞬小さく白い輝きを見せた後に爆発。
猛烈な氷刃の嵐が全てを吹き飛ばし、付近を白一色に塗り替える一撃。
べリアルの【ダークフレア】を思わせる一撃は、ヴァルガデーナの一角を銀世界に変えた。
巻き込まれたヘルメスは、残りわずかなHPを失い消える。
防御を選んだクルデリスも、2割までHPが減少。
スキアは直撃を避けることに成功したものの、左腕が凍結した。
白い息を吐きながら、片ヒザで立ち、伸ばすのは唯一残った右手。
「【凶弾】」
転がりながら最大まで『溜め』ていた一発の魔力弾が、樹氷の魔女を撃ち抜いた。
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