1121.狂化の森を駆け抜けます!
ヴァルガデーナを囲む森の中。
聖女の加護があるうちに、魔法陣の範囲を抜け出そうと逃げるメイたち。
どうにか狂化リズを【暴水のルーン】で遠ざけ、逃走の機会を得た。しかし。
「わたくしに……殺されていただけますかァァァァァッ!?」
ルート選択を間違えた九条院白夜が、続けざまに狂化。
その目を煌々と赤く輝かせて、レイピアを振り払った。
「気を付けて! 白夜は空が開いてる状態だと、一人で『ゼティアの魔物』を翻弄できるくらいには強力だから! 従魔だけは絶対に呼ばせないで!」
メイが帝国で見せた『飛行型召喚獣との共闘』に死ぬほど憧れた結果、1000回死んで身に着けた戦闘法。
それだけは許してはならないと、レンは全力で注意を促す。
「私たちで攻撃を続けて従魔の呼び出しを阻止するわ、その隙にメイは空の封鎖をお願い!」
「りょうかいですっ!」
「【エンジェライズ】」
狂化白夜は小さな翼を生やし、大きな低空跳躍で一気に距離を詰める。
「【ライトニングスラスト】」
「っ!!」
そしてそのまま、一直線で迫る高速飛行刺突スキルで攻撃。
レイピアが、クルデリスの頬をかすめていった。
着地から、長い髪を振り乱しながら反転した狂化白夜は、ツバメの接近を確認。
「【エーテルジャベリン】」
六連発の光の槍で、しっかりとけん制する。
「【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
「【降魔連砲】」
「【エンジェライズ】」
さらにレンとスキアの魔法攻撃を引き付けてから、低空跳躍でかわして接近。
「【ライトニングスラスト】」
「ッ!!」
迫るレイピアに対して、レンはイチかバチかで身体を傾ける。
すると首の横数センチを通り過ぎ、刃が背後の木に突き刺さった。
レンはここで【魔剣の御柄】による反撃を狙おうとするが――。
「【極光乱舞】」
狂化白夜は刺突後の追加スキルを発動して、白光を炸裂させた。
「きゃああああ――っ!」
直撃こそしないが、激しい余波に激しく転がる。
さらにスキアも、その足を大きくよろめかせてヒザをつく。
「でもっ! メイ、お願いっ!」
「りょうかいですっ! それーっ!」
しかし【極光乱舞】まで続ければ、隙は大きくなる。
メイはここで、付近一帯に広葉樹の種をまく。
「大きくなーれっ!」
そして右手を上げると、【世界樹の剣】によって高く大きく伸びた木々が、あっという間に空を埋める。
「これで、ラグナリオンとの共闘はできないはず……!」
安堵の息をつくレン。
しかし時間を取られたことで、狂化リズの復帰が間に合ってしまった。
「【暗夜剣】」
「【アクロバット】!」
迫り来る三日月形の闇波動を、メイは側方宙返りでかわす。
「【盟約の騎士たちよ】」
足元に生まれた魔法陣から、片手剣の黒影騎士が現れ特攻。
華麗に剣撃をかわしたところに、特攻してくる黒槍の槍士が豪快な突きを放つ。
点の攻撃の回避は難しくはないが、巻き起こる衝撃に思わず目を細める。
「ッ!?」
続くのは、いつの間にか背後にいた斧の闘士。
「【アクロバット】!」
大きな振り回しを前方宙返りでかわすと、着地と同時に現れた三体の黒剣士が剣を突き出してくる。
「【ラビットジャンプ】!」
これをメイは後方へのジャンプで回避。
「【バンビステップ】!」
再び着地すると、闇の波動をまとった騎士の二連撃を駆け抜け接近。
途中でツバメと合流し、二人がかりで狂化リズを狙うが――。
「【黒炎魔手】」
左手を振り払えば、付近一帯を焼き払う黒い炎が襲い掛かる。
「ああっ!」
これにツバメが、弾き飛ばされる。
思わぬ見事なけん制に、メイも足を止められた。
「【エーテルランス・スキュア】」
「【フリップジャンプ】!」
長い光の大槍を喰らってしまえば、続けて二本の光槍が刺さってその場に強制停止。
そんな白夜の攻撃を、飛び越える。
「【残光連華】ェェェェ!」
クルデリスは、放つ四本の空刃で攻撃を仕掛ける。
狂化白夜は、大きなバックステップで回避。
斬られながらも軽傷に抑えて、すぐさまレイピアを引いた。
「【ライトニングスラスト】」
「【かばう】【地壁の盾】」
低空高速飛行による刺突は、鋭い一撃。
しかしきっちりとまもりが受け止めて、流れを取り戻す。
「これだよねェ!」
「どんな状況でも、必ず敵を止めるのが『シールド』だ」
レイピアを弾かれた狂化白夜が、体勢をフラつかせたところでクルデリスは前に出る。
「【殺到】!」
敵を突き刺しそのまま運ぶスキルは、背後に壁などがあれば突き破るが、なければ魔力を炸裂させる。
強烈な魔力の飛沫を飛ばしての爆発に、狂化白夜が転がった。
ここに続くのはスキア。
「ゆけ、我が使い魔【エンシェントクロウ】」
「……初めて見たわ。特殊タイプの使い魔」
レンが思わず目を奪われる。
広げた翼が3メートルほどにもなる大ガラスの全身には、輝く紋様。
夜空を駆け抜け、そのまま狂化白夜に突撃。
鮮やかな魔力の輝きと共に弾け飛ぶ。
そして三人の連携で弾き飛ばされた先は、メイたちの前だった。
「【暗夜剣】」
これを見てすぐさま狂化リズが復帰の時間を作り、狂化白夜が立ち上がる。
二体ともメイの前にそろってしまったことで、わずかに緊張感が走るが――。
「隙、作りますっ!」
メイはむしろ率先して、二体の前へ駆け込んでいく。
「【エーテルライズ】」
「【魔法陣牢】」
二者が同時の範囲攻撃でメイを狙う。
頭上に浮かぶ大量の小型魔法陣と、足元から突き上がる光柱。
上下からの同時攻撃は、さすがに回避が難しい。しかし。
「がおおおおおお――――っ!!」
「「ッ!?」」
距離が寄ってしまったことが、アダとなった。
二体が硬直したところで、すぐさまレンとまもり、そしてスキアが攻撃に入る。
「【フレアストライク】!」
「【フレアストライク】!」
「【降魔連砲】!」
【マジックイーター】を含む三人のがかりの攻撃が、硬直した狂化白夜とリズに直撃。
強化コンビを、大きく吹き飛ばした。
「レンちゃん!」
メイの声に視線を上げれば、そこにはついに戦場へ駆け込んできた狂化町人たちが放った、魔法の雨。
降り注いだ魔法の輝きは、地面にぶつかり大きな炎を巻き起こす。
四方を『種火』の輝きに囲まれたスキアは、ダメージを覚悟する。しかし。
「【シンバル】!」
巻き起こる衝撃波が、巻き起こった炎の嵐をかき消した。
「逃げましょう!」
レンはすぐさま、逃走を提案。
すると突然、狂化リズと白夜の転がっていった方から爆発が巻き起こった。
「待って……」
あらためて、逃げ道になるはずの森を見返してみる。
そこには鈍く輝く、無数の魔法陣罠が張られていた。
「……まさか、私たちを逃がさないための仕掛けを、クエストで設置させたの!?」
どうやら罠を張るクエストは、『狂化』発動後にプレイヤーを逃がさないためのものだったようだ。
「そういうことならっ! みんな後についてきてっ!」
メイはそう言って、三回ほど腿上げして準備運動。
「よーい……ドンっ! 【裸足の女神】!」
そのまま、全速力で走り出す。
踏みつければ、発動する魔法陣罠。
しかしメイはあえて罠を起動したうえで、ダメージを受ける前に駆け抜ける。
「それっ! それそれそれっ!」
さらに樹上から放たれた魔法の矢も、剣の振り一つで斬り払う。
「行きましょう!」
その後を追いかければ、罠にかかることもない。
六人は聖女の加護が切れる前に、『狂化』の範囲を抜け出すことに成功した。
「このクエスト、ワイルドがいなかったら最後は地獄だったねェ」
「ああ。そもそも『黒鎧』と『白光』が敵になった時点で、普通に考えれば十二分に地獄だろう」
思わず笑みを向け合う、スキアとクルデリス。
難易度の高いクエストをメイたちと共に打ち破る瞬間は、やはり興奮してしまうようだ。
こうして六人は、夜の森を駆けた。
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