1120.狂化の黒鎧
「すごい迫力です……!」
元々黒の重鎧を装備していた黒神リズ・レクイエム。
どうやら別ルートでの選択肢を間違えたことで、狂化の餌食となったようだ。
鎧の隙間からもれる赤光と、その手に漆黒の大剣を持つ姿は、下手な大ボスよりも迫力がある。
「聖教都市の時みたいに、私たちとは『逆』のルートをたどるクエストがあったのね」
それは一つのクエストに対して、二つの結末のどちらになるのかを争う形。
「おそらくこの狂化リズは倒していい敵のはず。もうこの時点で死に戻って、本人はここにいない」
レンの予想は正解だ。
この場に残ったのは狂化リズという敵で、すでにこのクエストで『ゲームオーバー』している本人が動かしているわけではない。
「でも、まともに戦ってたら町人たちが追い付いてくるわ! 狙いは――」
「隙を作っての逃走か」
「そう言う事! 【フレアバースト】!」
いきなり放つ爆炎が、容赦なく狂化リズに襲い掛かる。
「【妖炎】」
しかし【黒威の大盾】を構え、敵の魔法攻撃に対する防御スキルを発動することで、これに対応。
「【暗夜剣】」
反撃は迫り来る、三日月形の闇波動だ。
「ッ!」
「【暗衝】」
これをレンが横っ飛びでかわすと、狂化リズは足元に黒色の波動を残しながらの突撃で、一気に距離を詰めてきた。
「【闇十字】」
暗夜剣で十字を描くことで生まれる、十字型の波動。
「あっぶない!」
必死の転がりで、これをかすめるところで収めた。
ここで駆け出したのは、ツバメとクルデリス。
「【暗天の大剣】」
「「っ!!」」
しかし放つ豪快な回転斬りは、付近一帯を薙ぎ払う脅威の一撃。
「さすがトップの一角だねェ。これだけ重い装備してんのに、回避だけでやっとだなんてさァ……っ!」
伏せたクルデリスの頭上を抜けていく、盛大なエフェクトに目を見開いた。
「【バンビステップ】【アクロバット】!」
そんな剣の軌道を見抜いたうえで、低空の側方回転でかわして進むのはメイ。
「【黒閃天衝】」
狂化リズが地面を強く踏むと、足元一帯に黒光の槍が一斉につき上がる。
メイの特攻も、スキル一つで制止した。
「うまい……!」
思わずつぶやくレン。
しかしメイは【ラビットジャンプ】で跳躍。
「【アクロバット】からの【フルスイング】!」
これを狂化リズは【黒威の大盾】で受けると、10メートルに渡って大きく後退。
レンとスキアがすぐさま、杖を構えるが――。
「【闇の翼】」
狂化リズは、大きな黒翼を広げて天へ。
「【ダークフラップ】」
羽ばたきが、背後に闇の粒子を噴き出す。
そしてツバメとクルデリスの並び目がけて、特攻。
「【暗夜旋回】」
放つ空中からの回転斬りは、闇の波動が付近を薙ぎ払う。
「っ!」
「個人でボス並みの戦力……ちょっとズルいよねェ……!」
タイミングは正しかったにもかかわらず、思った以上の攻撃範囲の大きさに弾かれるツバメ。
吹き飛ばされたクルデリスは、範囲の広さと火力の高さを兼ね備えた一撃に苦笑い。
「高速【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】」
「【降魔連砲】」
ここで攻撃を入れたのは、レンとスキア。
五発同時発射の魔力砲に、四発の火炎弾が入り乱れて突き進む。
「【妖炎】」
しかし二人の魔法は、大きな黒盾に阻まれた。
「思った以上にクールタイムが短い。いいスキルね……っ!」
魔法が霧散したのを確認したところで、狂化リズは再び【闇の翼】で空を舞う。
【ダークフラップ】による高速滑空。
大型の黒剣を手に、狙うのはスキアだ。
魔導士に狂化リズの高火力スキルがぶつかれば、大きな危機を迎えることになる。
状況は最悪。
だが、この流れはレンの狙い通り。
「【かばう】【不動】【地壁の盾】!」
ド派手なエフェクトでと共に放たれた一撃を、まもりが盾で受け止める。
すさまじい勢いで、散らばる火花。
「悪いわね。リズはスキル的に距離を詰めたがる。それはNPCになっても同じだと思ったわ! これが貴方本人なら正面から戦いたいんだけど……そんな暇はないの! 【暴水のルーン】発動!」
「ッ!?」
構えたままのまもりの盾から、あふれ出す怒涛の水流。
飛沫が爆発的に広がり、狂化リズを弾き飛ばして流し去る。
「ダメージは取れないけど、この状況下なら最高の結果でしょう!? さあ、行きましょう!」
いよいよ町人たちが、森に踏み込んできた。
ここでは時間を稼がれるほど、戦いづらくなる。
すぐさま、走り出す六人。
「行ける! 逃げ切れるわっ!」
「レンちゃんっ!」
しかしやっかいなリズから距離を取ればもう、逃走は難しくないと意気込んだ瞬間。
何者かの接近に気づいたメイが、声を上げる。
木々の隙間から現れたのは、白の装備をまとった淡い金髪の少女だった。
「白夜……!?」
「わたくし、どうなってしまいましたの……?」
身体を震わせ、赤く輝く目を抑えながら問いかけてくる白夜。
「全てが、全てが……憎くてたまりません……っ」
困惑しているような顔で、レンのもとへ。
「ねえ、レンさん。お願いがありますの」
「……なに?」
ここで普段の余裕を感じさせる、白夜の表情が突然一変。
血に飢えた悪魔のような、笑みを浮かべる。
「わたくしに……殺されていただけますかァァァァァッ!?」
「貴方たち本当に、狂う演技100点満点ね!!」
状況は完全なるピンチ。
しかし続いた完璧な『狂化の演技』に、思わずレンはツッコミを入れてしまった。そして。
「カッコいいです……!」
「うんっ! ドキドキしちゃうね!」
メイは『狂う』というネタに、尻尾をブンブン振ってワクワク。
ツバメと二人、キャッキャと喜ぶ。
良くない影響を与え出してる白夜に、レンは頭を抱えたのだった。
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