1119.変異
「さて、もういいでしょう」
町長はそう言って、謎の建物を出て行く。
六人が後を追うと、その足もとにも魔法陣の一端が描かれていた。
「なんですか、この規模は」
「と、とんでもなく大きいですっ」
ツバメとまもりが、思わず驚きの声を上げる。
見れば赤い輝きを灯す怪しい魔法陣は、大きな町を丸ごと飲み込んでいた。
「何をするつもりなの?」
レンが問いかけると、町長は振り返って笑う。
「皆さんにはまず――――狂ってもらいます」
そう言って魔力を解放すると、強く赤光が輝く。
「「「「っ!?」」」」
さらに、静まり返った町に鳴り響く鐘の音。
それこそ大きな教会で鳴らされるような音が、一帯に響き渡る。すると。
「なに、これ?」
メイが、いち早く異音に気づいた。
直後、締め切られていた町のドアが次々開き、頭を抱えた町民たちが足をフラつかせながら出てきた。
「あ、ああ、あああああああっ!」
町中から聞こえ出す苦悶の声は、明らかに異常だ。
「……なぜ狂化しない? そうか、聖女の祝福を受けているのだな。だがその効果もすぐに切れる。そしてこの街にいれば、狂化からは逃げられない」
「何が狙いだ」
問いかけるスキアに、町長は不敵な笑みを浮かべたまま応える。
「こうすれば簡単に魔力を吸い上げられる。石化などしなくてもね」
「石化も、魔力を吸い上げるためにしていたということか?」
「そういうことです。高い魔力を持つものは、あの手この手でこの町に留まらせる。狂化や石化はその手段の一つなんですよ。そして後は……くっくっく」
「逃げましょう! 聖女の祝福、明らかに輝度が下がってきてる! これが切れたら、私たちも強制的に狂化で死に戻る可能性が高いわ!」
「アッハッハッハ! 逃がすわけないだろぉぉぉぉ! お前たちは間抜けで優秀な贄なんだ。だからこの町に繋ぎ止めたのさ、サグワのようになぁぁぁ! ヒェッハハハハ――ッ!」
町長は狂った笑いを上げ、指示を出す。
「冒険者どもを死なない程度に叩け! こいつらは極上の魔力を持っている!」
すると狂った町人たちが、一斉に魔法や武器を振り回し出した。
「【フレアストライク】!」
レンは即座に町長を攻撃。
しかしHPゲージはなく、その身体を包む魔力の輝きが魔法をかき消した。
「行きましょう!」
すぐさま走り出す六人。
しかし当然、大きな町の住人たちが次々に飛び出してきて、攻撃を加えてくる。
「聖女の加護は時間が限定されてるわ! 戦って勝つのではなく退避を優先して! 念のため、狂化した町人には倒さない程度の攻撃で!」
「りょうかいですっ!」
「承知しました」
「は、はひっ!」
先行して駆けるのは、メイとツバメ。
「「「【ファイアボール】」」」
「【加速】【リブースト】!」
一発ずつなら容易に避けられる魔法攻撃も、複数個所から同時に放たれると勝手が違う。
ツバメは一気に駆け抜け、火炎球から身をかわすが――。
「【大蛇狩り】」
「っ!?」
その瞬間建物の角から出てきた男の、大斧の振り降ろしスキルが目前に迫る。
「【スライディング】!」
イチかバチかの滑り込みは、正解。
刃が髪をかすめたが、ダメージはなし。
「【バンビステップ】【アクロバット】!」
一方メイは、攻撃をかわしつつ敵を自身に誘導。
「今のうちに、進みましょう!」
どうしても攻撃を避けながら進むのが難しいレンたちは、この隙に距離を稼ぐ。
「壁にするのは反則でしょ……っ!」
しかし町の北部。
森へつながろうかというところで、狂化した町人たちが居並ぶ形で立ちふさがった。
「難しい手を打ってきたな……!」
町人たちのHPがどのくらいか分からない状態での攻撃は避けたいスキアが、慎重になる。しかし。
「いーちゃん!」
メイの肩に飛び出してきたイタチが、起こす風で町人たちを転がし道を開いた。
「メイさん、この先にまた町の人たちが集まっている場所があります!」
「りょうかいですっ!」
二人はうなずき合い、まずはツバメが先行。
「【紫電】」
まとめて足を止めたところでレンたちが走り抜け、感電が解けたところで――。
「それっ!」
メイが【豊樹の種】を投じる。
「おおきくなーれっ!」
そして【密林の巫女】を発動すれば、飲み込まれた狂化町人たちは、もう身動きが取れない。
「んっふふ。助かるねェ。僕たちには不利だからね、こういうタイプのクエストはさァ」
「この柔軟性が、様々なクエストの達成を後押ししているのだろうな」
「このまま森に入れば、町人はおそらく置き去りにできるわ!」
町を抜けるところまで来た六人。
そのまま森に入り込もうとしたところで――。
「……ナ、ナイトメア」
「リズ!?」
現れたのは、黒神リズ・レクイエム。
「どうしてここに!?」
予想外の状況に、レンは慌てて現状確認を行う。しかし。
「ナイトメアの新たな組織を追い、やってきた……だがどうやら我らの踏み込んだ怪しいルートで、生き残る流れをつかんだのは……ルナティックだけだったようだ……」
「ルナ? ルナも絡んでるの?」
「我らは利用されていた。今夜のこの蛮行を行うための準備をさせられていたのだ……ッ!」
リズは、まるで頭痛を抑えるかのように片手で頭部を押さえる。
「……逃げろ」
「町人なら、距離を稼げてるわ」
「違う! 逃げるんだ……私が……私であるうちにィィィィィ――――ッ!!」
叫んだリズは、100点満点の『身体が乗っ取られるやつ』を演じながら、二歩ほどフラフラと下がる。そして。
「ぐああああああああああ――――っ!!」
爆発的な勢いで黒の煙を噴き出すと、禍々しいオーラを放つ黒鎧の『敵』に変化した。
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