1117.図書館のおしごと
「結構大きな図書館ですね」
「本当だねぇ」
病人の治癒を、見事に達成したメイたち。
聖女に連れられたどり着いたのは、現実の図書館と変わらぬ大きさを誇る建物。
「こっちです! 私は本が好きで、とてもお世話になっているので、お手伝いをさせてもらっています! フルーネと仲良くなるために、ここで調べものなんかもしていたんですよ!」
そう言って聖女は職員たちに挨拶をして、図書館の中を駆けて行く。
どうやら小さな白い竜のことを、ここで調べていたりしていたようだ。
「新しい本がたくさん届いたので、次は新しいスペースに置かれた本棚にしまっていくお仕事をします」
「聖女のクエストは、本当に朗らかでいいわね」
「そ、そうですね。メイさんと聖女さんが一緒にいるところを見られるのは楽しいです」
「まったくです」
見れば壁際に並んだ空の本棚は、天井までつながっている。
新しい本も大小に加えて厚さもさまざまで、これを全て順番どおりに並べるというのは、なかなか大変そうだ。
「……競争しましょうか」
聖女はちょっとだけいたずらな表情を浮かべると、急にそんなことを言った。
「報酬には、お菓子を用意していますよ!」
クエストはまさかの、本を収めた数を競うというもの。
本棚には『枠』ごとに英字が割り振られていて、本にも全て英字がついている。
要はその『英字』の枠に、対応する本を置いていくという形のようだ。
「楽しそうっ」
「本当に、聖女さんのクエストは穏やかですね」
「お菓子が……いただける?」
「朗らかクエストはどこにいったのよ」
一人だけ本気で目を輝かせだしたまもりに、笑うレンたち。
「闇を背負う我らが、本の片づけを競うというのは予想外だな」
「んっふふ。僕みたいな『荒い』タイプには不向きだなァ」
そう言いながらも、クエストのためなら『本気でメイド』を装う二人も乗り気だ。
穏やかな空気の中で、始まるクエスト。
「いきますよ! それでは……用意スタート!」
「【加速】!」
「【バンビステップ】!」
「【フリップジャンプ】!」
「いや三人とも速いわね!」
前衛組三人は、重ねて置かれていた本を取り、すぐさま対応する場所を発見。
「【モンキークライム】!」
メイはスルスルと本棚を登って、『置いてくる』ような形で三冊まとめて設置した。
「【跳躍】【エアリアル】」
ツバメは右手に持った本を乗せ、二段ジャンプして左手の本を置くという二段設置で後に続く。
そんな中レンは、ある程度の本をまとめて抱え、【浮遊】で並べていく作戦を取る。
前衛組とレンは、さすがにペースが早い。
「ま、負けられませんっ」
そんな中、リーシャといい勝負なのがまもり。
別にどこの段の本を片付けてもいいのだが、メイやツバメ、レンが上段の本を担当して、まもりたちの昇り降りを最低限にしてくれている。
小回りを利かせるリーシャとまもりは、本を手に必死に駆け回る。
一方スキアは、先に本棚に割り振られた『英字』を確認し、本棚を左右に移動しないで済む本を選んでからまとめて運ぶ作戦で、上手に数を稼いでいた。
「ここの本……こうすれば!」
そんな中でメイは、偶然見つけた10冊ほどの厚い本が、ひと並びで置ける事に気づいて、両手で挟む形で持ちあげた。
「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】!」
走りだしたメイは、そのまま空中を駆けるように跳躍。
「ッ!?」
その光景に、スキアが驚く。
なんとメイはそのまま空を走り、本棚の上段に一列の本をそのまま押し込んだ。
「こ、こんなクエストでも格の違いを見せるか。ふふ、おもしろい……」
いよいよメイの動きにハマり出したスキアは、こらえられず思わず顔を隠したのだった。
こうして、あっという間に減っていく本。
勝負は佳境を迎える。
リーシャとまもりの差は、なんとゼロ。
「も、もう本がありません……っ」
まさかの同点状態で、片付けるための本がなくなった。
同点では「お菓子がもらえない可能性がある」と、顔を青ざめさせるまもり。しかし。
「っ!」
【跳躍】によって本を片付けていたツバメが、手を滑らせた。
落ちる、一冊の本。
「……こ、これですっ!」
まもりはここで閃き、走り出す。
「たーっ!」
そしてツバメが落とした本を、スライディングキャッチ。
そのまま転がるような形で、最後の本を棚の下段に押し込んだ。
「とてもきれいになりました!」
本の片づけクエストが終了し、リーシャも大喜びだ。
片付け冊数はメイ『288』ツバメ『153』レン『95』スキア『69』
「お片付け対決は……なんと、私が最下位ですかっ?」
そしてリーシャが『48』まもりが『49』という数値となった。
「んっふふ。まったく僕には合わない仕事だったねェ」
レンは、クルデリスの担当した本棚を見上げる。
その収納数は、前衛にもかかわらず『58』
しかしクルデリスの片付けた『枠』は、普通に入れるだけでいい本を、『背表紙の色』をしっかり固めた形で並べてある。
「……いや、適任でしょ」
「あーあ。本当は五十音順にしたかったのになァ」
戦闘狂キャラのクルデリス、やはり内なる几帳面を隠せない。
「皆さんのおかげで少し、時間に余裕ができました!」
「時間に余裕? 早くクリアすることに、何か意味があるのかしら……?」
本が片付き、うれしそうにするリーシャ。
それでもこの時点でクエスト終了ではないことに、首を傾げるレン。
「あれ?」
メイが気づいたのは、一人の客。
見れば図書館の一角に、サグワ・クロキャットの姿があった。
サグワはこちらに気づくと、広げていた数冊の本を指さし立ち上がる。
「片付け、お願いできますか」
「りょうかいですっ!」
このちょっと変わった流れに、首を傾げるレンとスキア。
メイは言われるまま何冊もある本を重ねて、持ち上げる。
「あれ……?」
そして一冊の本に、折りたたまれた紙片が挟まれていることに気づき、手に取った。
紙片はそのまま消え、アイテム欄に移動する。
「皆さん、ありがとうございました! そろそろ夜になりますから、帰りましょうっ」
「はいっ」
「6人はリーシャに続いて、教会風の建物へ」
「こちら、お礼のクッキーです」
「ありがとうございますっ!」
「素朴な報酬が、なんだか楽しいわね」
「お、おいしいですっ! このベリーが入った感じ、とても素晴らしい。本当に、勝てて良かった……っ!」
「よかったです。私が焼いているんですよ」
六人一緒にクッキーを頬張る姿を見て、よろこぶ聖女。
「今日は楽しかったね、フルーネ」
笑顔で、白い小竜の頭を撫でる。
「おや、どうやら本日のお仕事は無事終了されたようですね」
「「はいっ」」
やって来た町長の言葉に、メイと聖女の返事がかぶる。
「ありがとうございます。この町を良くしてくれている彼女を、もっと私たちが助けられればよいのですが、忙しくてなかなか」
「いえいえ、私なら大丈夫です! これからもがんばりますっ!」
「無理はなさらないでくださいね。それではそろそろ時間になりますし、帰りましょう。冒険者さんたちにも今夜はお部屋を用意しましたので、ぜひ」
「皆さん、ありがとうございましたっ」
聖女に見送られた六人は、町長に連れられる形で宿へ。
「お疲れさまでした。今夜はこちらでお休みください」
「いい部屋ね」
「くれぐれも、以降の時間は外に出ないでください。危険もありますから。どうしてもという時は、一階の店主に連絡をいただければ案内いたします」
そう言って、町長は去っていった。
こうして六人は、十分な広さのある宿のような部屋を使わせてもらうことになった。
「あっ、そういえばサグワさんが残したメモがあるんだった」
「そうなの? なんて書いてあるの?」
レンは、メイが取りだしたメモに目を向ける。
そこにはただ一文、こう書かれていた。
『――――町長の言葉は信じるな』
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