1115.聖女
「魔法珠罠の設置、終わったわ」
「おお! これはありがとうございます!」
クエストを終えて帰ると、町長はうれしそうに笑顔を浮かべた。
これで広い森の一角に空いた罠のない部分にも、しっかりと化物用の対策が施されたことになる。
「魔物たちは強力で、狩りをお願いするのにも強い冒険者でないといけない。なのでなかなか依頼できなくて……助かりました」
「どうりで罠の火力が高いわけね……でも、あれだと偶然ここを通りかかった人が踏みそうだけど」
「罠はクエストに絡んでいるもの以外には、発動しない形でしょうか」
「そう考えるのが妥当だろうな」
スキアはうなずき、かなりの罠が張られた森を見返す。
「それにしても本当にお見事ですね。あの森の化物たちをものともしないとは」
「んっふふ。僕はもっとベリアルたちと一緒に戦いたかったんだけどねェ」
ここまでのクエストを、問題なく達成したメイたち。
すると気を良くしたのか、町長はさらに提案を持ちかけてくる。
「そうです。ぜひ我が町の、聖女様にお会いしていただければと思います」
「聖女? 聖教都市なんかでは出てくるけど、こういう普通の街にいるパターンはめずらしいわね」
「おもしろい。確実に何かが起こりそうな、大物の登場というわけだ」
新たな展開のカギになりそうな人物の登場に、スキアが笑みをこぼした。
六人はそのまま、町長に連れられる形で町を進む。
たどり着いたのは、石造りの教会を思わせる白色の建物。
しかしこじんまりとした建物自体には特別感がなく、あくまで町の教会といった感じのたたずまいだ。
「少し変わった雰囲気ね」
「そ、そうですね。十字のマークなどがありません」
ルミナス教は、聖教都市のような『十字』を飾る習慣はないようだ。
町長が足を止め、両開きの木製扉を開ける。
するとそこには、こちらに背を向け祈りを捧げる少女の姿があった。
「こちらが、聖女様でいらっしゃいます」
するとゆっくりと振り返った少女は、パッと笑顔を浮かべた。
「はじめまして! 私は聖女のリーシャと申します。何かお困りですかっ?」
18歳くらいの少女リーシャ。
肩までの美しい金髪に、翠の目、朗らかな表情。
紺と白の修道服のスカート部分にボリュームを持たせ、少し飾りつけをしたような衣服は、どこか華やかさも感じさせる。
「こちらは冒険者の方々です。素晴らしい能力をお持ちで、町を守るために尽力してくださいました」
「そうなんですかっ。ありがとうございます!」
聖女はうれしそうに、頭を下げる。
「私もこの街の皆さんが毎日を健やかに過ごせるよう、微力ながらがんばらせていただいています……っ!」
両手をギュッと握って、聖女はまた笑ってみせた。
「聖女様はまだいくつか仕事を残していますでしょう? 今回は冒険者さんたちにも、お手伝いいただければと思いまして」
「そうなのですか! それはとても心強いです!」
うれしそうにする聖女。
「残っている仕事は病気の方のお見舞いと、図書館の片づけです!」
「図書館には新刊が届いているようで、その片づけは単純ですが手間のかかる作業です。これならば、冒険者さんたちにもお手伝いいただけそうですね」
町長は笑顔でうなずき、こちらに向けて深々と頭を下げる。
「それでは聖女様、本日もよろしくお願いします」
「はいっ、私の力で皆さんの役に立てるなら! がんばりますっ!」
そう言って、満面の笑みを向ける聖女。
ここで町長は、教会のような建物を出て行った。
「リーシャさん、とても癒されますね」
「は、はいっ。どこかメイさんのような朗らかさがあります」
「久しぶりに、戦闘とかが中心にならないクエストになりそうね」
「化物退治の次は聖女の手伝いとはな……おもしろい」
「んっふふ。図書館の片づけねェ、僕たちには似合わない平穏な仕事になりそうだ」
黒づくめ装備の二人は、「やれやれ」と笑みを浮かべて嘆息。
レン、クルデリスに関しては「その几帳面さが一番活きるんじゃない?」と思うが、口にはしないでおく。
「聖女さん、一緒にがんばりましょーっ!」
「はいっ」
一方元気な聖女の登場に、さっそくメイが楽しそうに尻尾をブンブンさせる。
二人並べば、明るく賑やか。
さっそく六人は、仕事に向かう聖女の後に続くことにした。
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