1112.ヴァルガデーナの町長
落とし物だったガントレットの、持ち主探し。
ヴァルガデーナの町で、メイたちはついに失踪人サグワ・クロキャットを発見した。
なぜか「両親に自分の居場所を伝えるな」と言われて困惑しているところに、やってきたのは町長だった。
「皆さんは、冒険者ですか?」
穏やかな笑顔で、問いかける町長エイグラム。
「はいっ、『ただの』冒険者ですっ」
「そういうことだ」
『闇を継ぐ者』であることを隠すという展開に、楽しそうに応えるメイ。
そんなメイが揺らす尻尾に、ツバメとまもりがほっこりする。
「なるほど、どうやらかなりの腕前とお見受けいたします」
そんな町長の言葉に「間違いありません」と、大きくうなずく付き人たち。
「よろしければ、一つお話を聞いていただけないでしょうか」
さっそく始まる、クエストの気配。
「あ、あの、この人たちはもう帰るところなんです」
意外にも、これをサグワが止めにかかった。
「そこをなんとかお願いします。ぜひ依頼させていただきたいことがあるのです」
しかしもう一度言って、町長はサグワを真っ直ぐに見る。
「あ、あの、ですが」
「構いませんね? サグワさん」
「……はい」
「それでは、まずは話だけでも聞いていただけますか?」
気が乗らない感じのサグワと、「ぜひ」にとほほ笑む町長。
あまり見ないタイプの展開に、スキアたちも静かに様子をうかがっている。
「実は最近、奇妙な化物が町の外をうろついていまして。とても危険なので、その討伐をお願いしたいのです」
「クエストの内容は、結構普通なのね」
なぜかサグワが渋る中、提案されたのは定番の魔物退治。
「化物は魔物の出来損ないのような姿をしていて、人を襲います。ですが皆さんほどの強さなら、打倒も問題なくできるでしょう」
「特に、断る理由はないわよね?」
「そうですね」
「奇妙な化物の討伐か。おもしろい」
「んっふふ。楽しくなりそうだねェ」
スキアたちからも、特に反対意見はなし。
明らかに、ガントレットの持ち主探しからつながっているクエスト。
これもサグワの救出という、本来の目的から続くものだろう。
レンはこの依頼を、受けることにした。
「このクエスト、受けるわ」
「おお、ありがとうございます。実は、もう一つお願いしたいことがあるのですが……」
「この時点でもう一つ? なに?」
「この化物たちは数も多く、いつ危険が町に迫るか分かりません。そこで魔法罠を仕掛ける仕事もお願いしたいのです。外に出て罠を仕掛けるには戦力も必要になるので……こちらは二人もいてくだされば充分です」
「二手に分かれるクエストになるってこと?」
「はい、そうなります」
「ならば罠を張る方は、我らが向かおう」
応えたのは、スキアとクルデリス。
こうして『闇を継ぐ者』たちは、パーティを二つに分割するクエストを受けることになった。
「ありがとうございます。本当に助かります……!」
町長は満面の笑顔でそう言って、頭を下げる。
並んだ付き人たちも「これは助かります」と、うれしそうだ。
「……ただし」
注目を促すように、町長が言葉を区切った。
「二つほど先に注意しておくことがあります。まず、この町には門限があります」
「門限?」
「はい。ヴァルガデーナに住む者、または滞在する者は、決められた時間以外は外に出てはいけません。それなので時間が過ぎてしまった際は、翌朝以降の帰還をお願いします。それと――」
町長は、手持ちのマップを開いて指を差す。
「ここにある建物の敷地には、決して入らないでください。この場所には我らの信ずるルミナス教の聖地があるので、外部の方には踏み入れないようお願いしているのです」
「なるほど、少し変わった町ですね」
ツバメがつぶやく。
「そ、そうですね。門限や聖地がある町というのは初めてです……っ」
思わぬ二つの限定事項。
まもりもこれには、めずらしそうにしている。
「この感じだとクエストに『時間がかかる』、もしくは『教会の方に向かって動く敵』が出てくる可能性がありそうね」
「時間を過ぎたり村の禁忌を踏むと、クエスト失敗になるという形のクエストでしょうか」
「なるほどー」
メイはそれなら早めに化物を『捕まえて戦う』もしくは『逃げ道を塞ぐ』ことが大事になりそうだなと、気合を入れる。
「それ以外は、どう過ごしていただいても構いません。食事もこちらの方で手配しておきます。好きな店で好きな時間に、いくらでも食べて頂いて構いませんよ」
「っ!」
それを聞いたまもり、一瞬で目を輝かせる。
「概要は理解できたわ。それじゃさっそく、森に行ってみましょうか」
「りょうかいですっ!」
「それでは化物退治は私が案内を。罠の方は私の付き人たちが現地へ案内します」
「んっふふ。それじゃあまたあとでねェ。僕たちの方にも、強い敵が出るといいなァ」
変わらぬ笑みを浮かべたまま、スキアとクルデリスは付き人たちに引率されて別の道へ。
「それでは化物の打倒、よろしくお願いします」
満面の笑みで、メイたちの前を行く町長。
そんな中サグワだけが、最後まで神妙な面持ちでソファに腰を下ろしていた。
誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




