1111.食べ歩きツアー
「この町はどうでしょうか!」
まもりはスキップしながら、町の酒場へと向かう。
普段はレンの後ろにつけ、何かあれば前に出て防御というまもりが、今は先頭だ。
「最後尾に控えるまもりさんが、最前列に出る瞬間ですね」
落とし物のガントレットの持ち主は『サグワ・クロキャット』という、運び屋だった。
しかし仕事を残したまま突然失踪し、現在地の分からない手紙を送ってきたという不思議な状況下。
その居場所を突き止めようと、六人はジェノヴァから北上を開始した。
「まもり、明らかに足取りが違うわね」
「楽しそうだねっ」
サグワの生家にたどり着いた時点で一段落させなかったのは、手紙に書かれていた『料理』から、さらに居場所を探れるのではないかという閃きから。
これまですでに四つの村や町を経由し、その都度料理を食べてきた。
満面の笑みでスキップするまもりに、メイも続く。
「色々食べられて楽しかったね!」
「はひっ」
各町の居酒屋は雰囲気も違い、メニューにも変化あり。
まもりにしてみれば、それは食べ歩きツアーのようなものだ。
「次の町は、あれですねっ」
長い街道の先にあったのは、大きいがこれと言った特徴のない一つの町。
ジェノヴァ北部、ヴァルガデーナ。
付近は森に囲まれているため、やや孤立した場所にある。
「スープ料理があれば、それをお願いしますっ」
店に入ると、早くも両手にスプーンとフォーク状態で、料理の到着を待つまもり。
やがてやって来たのは、濃い色をしたビーフシチューのような一品。
まもりはさっそく、スプーンで一口。
「おいしいですっ! 野菜が綺麗な色味を残したままでも、しっかり煮込んだかのような味付けになるのは、この星屑の世界ならではですね……!」
煮込めば、色は濃くなるのが当然。
しかしここでは野菜の色味が綺麗なままで、目にも楽しい。
「しっかりキャラを出してくるわね……」
一方スキアのスプーンを使って丁寧に飲む感じと、クルデリスの器に直接口をつけて豪快にいく感じを見て、レンは苦笑い。
クールなスキアと、いつでも狂った雰囲気を見せているクルデリスらしい演出だ。
「ぐふっ」
しかしクルデリスは、若干キャラ特有の飲み方に苦戦してるのか。
少しむせた。
「こういう時、闇を継ぐ者なら何と言うべきなのでしょうか」
「『悪くなかった』とかじゃない?」
ツバメの問いにレンがそう言うと、メイも何か思いついたとばかりにスープを飲み干した。
そして、クールな顔を作って上げる。
それを見たスキアは、慌てて防御態勢に入る。しかし。
「おいしゅうございました」
「ゴフッ! ゲフッ! ゴホゴホッ!」
決め顔のメイに、あっさりと突破された。
そんな光景を見て、楽しそうにするまもり。
しかし食事が終わるのと同時に、その目を真剣なものへと変えた。
「……これで、間違いないと思います」
溶け込んだトマトに、歯ごたえを程よく残した牛肉。
とろみのあるスープは、手紙に書かれていたものと相違ない。
「行きましょうか。この町にサグワがいる可能性が高いわ」
「それがいいですね」
こうしてメイたちは、ちょっとむせている二人と、バンズで作ったサンドイッチのような『パニーニ』を持ったまもりと共に店を出る。
ここからは、少し手間のかかる『聞き込み』などが必要になる流れだ。
「みんなーっ!」
しかしメイが一言あげれば、近くの動物たちが集まってくる。
ヤマネコにマーモット、狼にアナグマ、イヌワシなども一斉に集合。
「これは……」
「へェ、初めて見るスキルだねェ」
付近が一瞬で動物園のようになり、驚く中二病組。
めずらしいマーモットを見つけてメイが頭を撫でると、それに嫉妬したヤマネコがパンチを入れる。
そんな光景を見て、笑うレン。
「配達屋のサグワさんを探していますっ! ご存知の方はいらっしゃいますでしょうか!」
メイがたずねると、動物たちは移動を開始。
町はずれにある古い石造りの一軒家にたどりついた。
「みんなありがとーっ!」
ヤマネコもしっかり撫でてから、帰っていく動物たちに手を振る。
「ここみたいだね……レンちゃんっ!」
「あとは本人がいるかどうか……って、何者かがいるだろう状況でも私が行くの?」
「「レンさんっ!」」
ドア対応がかりのレンの後ろに、すぐに身を隠すメイたち。
「今回はスキアとクルデリスもいるし……なんでそんな後方に!」
「ここはベリアルに任せる」
「そういうことだねェ」
二人も空気を読んで、しれっと後方待機。
レンは古い木製のドアを叩き、返事を待つ。
「さあ本人はいるのか、それとも……」
「……はい」
すると出て来たのは、一人の青年。
「サグワ・クロキャットを探してきたんだけど……」
「僕に……? 一体何の用ですか?」
「ガントレットを落としたでしょう? それを届けたら、貴方の両親が心配していたから」
「っ!?」
レンがそう告げると、サグワは驚きの表情した。
「僕を探して……ジェノヴァから?」
「なぜ帰らない」
スキアがたずねると、その顔をパッと笑顔に変える。
「……もちろんヴァルガデーナがとても素晴らしい町だからです。それで住み込んでしまいました」
「それならどうして、居場所を書かなかったの?」
「ああ、そうでしたか! それはうっかりしてしまいました!」
サグワは、満面の笑顔で応える。
「お、おかしいです。あの急な笑い方。先生に『学校は楽しい?』とか聞かれた時の私と、同じ『間』でした」
「はい。とてもよく分かります」
すごい角度から、違和感に気づくまもりとツバメ。
それを聞いたレンは、続ける。
「それならこの場所を、両親に伝えても構わないわね」
「いっ、いえ! この場所のことは絶対家族に言わないでください」
「それはどうして?」
スキアは「何か家族から逃げ出したかった理由でもあるのか」と、首を傾げる。
「サグワ君」
「ッ!?」
サグワはビクリと身体を跳ねさせて、メイたちの後方を見る。
そこにいたのは一人の老人と、数人の男たち。
「ちょ、町長……」
「おや、お友達ですか? ようこそヴァルガデーナへ! 私が町長のエイグラムです!」
「「「ようこそ、ヴァルガデーナへ!」」」
町長が朗らかな笑みを浮かべると、男たちもさわやかな笑顔で頭を下げる。
「あ、いえ! この人たちは酒場で偶然出会っただけで、今からお帰りになるそうです! そうですよね!?」
笑顔のままそう言って、メイたちを帰らせようとするサグワ。
しかし町長はそんなサグワを遮るように、一歩前に出た。
「――――よろしければぜひ、お話をさせていただけませんか?」
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