1110.ジェノヴァへ!
「きれいな街だねェ、ここがジェノヴァかァ」
いつも通りの貼り付けたような笑顔で、辺りを見回すクルデリス。
ガントレットの持ち主探しという、新たなクエスト。
商業都市バイセルで得た情報は、その生産地についてだ。
特殊なレザーは、世界の北西部に当たるジェノヴァ付近で生産されるものということで、さっそく六人でやってきた。
石造りの建物が並ぶ姿は一見よく見るものだが、その石自体に黄色や淡いピンク、橙の色がついていることで町自体が鮮やか。
また内海に面したこの街は、大型船ではなく小型のボートサイズの船がたくさん係留されている。
「観光地としても通用するわね」
「本当だねぇ」
レンの言葉に、メイもうれしそうに尻尾を揺らす。
「ではさっそく、防具店で聞き込みをしてみましょう」
ツバメが指さしたのは、鎧マークの看板を下げた防具店。
六人は雰囲気の良い店に入り、店主にガントレットを見せてみる。
「このガントレットの持ち主を探しているんだけど、ここで取り扱っていたりする?」
レンがたずねると、店主はガントレットを一瞥。
「同型同素材のガントレットは扱っているが、それはウチのものじゃないな」
「そうなの?」
「冒険者向けに作っている物は、基本的にどれも同じ作りだ。消耗が激しい分いつでも『換え』が効くようにな」
「なるほど、理にかなっている」
目を閉じたまま、スキアがうなずく。
「だがこいつは色も違うし、少し特別な造りをしてる。二枚の皮を縫い合わせる際にわざと隙間を残しているのは、ナイフでもしまうためのものだろう。要するに特注品だ」
「どの店で作られた物かは分からない?」
「そこまでは分からねえな」
そう言って店主は、話を切り上げる。
途切れてしまう流れ。
しかしここで、スキアが問いを続ける。
「冒険者でなければ、これはどんな人物が使っているんだ?」
「配送屋なんかが使うのを見るな。物品を奪われないように、隙間に刃物を仕込んでると考えればつじつまが合う」
「冒険者ではないって考えると、ジェノヴァの近くに住んでいる可能性が高そうね」
「そーなの?」
「仕事でよく使う消耗品でもある装備品。それを特注で作るのなら、いつでも修理交換ができるように近場のお店に頼まない?」
「そ、そうですね」
そんなレンの言葉に、さらにスキアが質問を続ける。
「配送屋は、この街にあるのか?」
「ああ、集荷配送を受け持ってる館がある」
「礼を言うぞ」
先ほどのメイの「かたじけない」を思い出して、ちょっと笑みがこぼれるスキア。
六人は続けて、街の運送拠点となっている倉庫付きの館へと向かう。
館に入り、受付らしき女性に声をかけると、すぐにガントレットについて尋ねてみる。
「それはサグワ・クロキャットさんのものですね」
すると受付嬢は、すぐに持ち主の名前を告げた。
思わず、顔を見合わせるメイたち。
「今はどこにいるの?」
レンが聞くと、少し考えるようにしてから応える。
「それが数か月前から見かけていないのです。仕事の約束もいくつか残っていたのですが突然……」
「住所は?」
「町南部にある一軒家です」
受付嬢の言葉と共に、視界に生まれるポインター。
「い、いいペースですね」
「思った以上に、スムーズな流れでこられたわ」
美しい街並みのジェノヴァを進む六人は、こじんまりとした淡い黄色の家にたどり着いた。
早い段階で必要な情報を見つけることができたメイたちは、民家の戸を叩いてみる。
出て来たのは、ごく普通の老夫婦だ。
「落とし物だったこのガントレットの、持ち主を探してきたんだけど……」
レンがそう言うと、老夫婦はハッと目を見開いた。
「どこかで、サグワを見かけたのですか!?」
「私たちは見ていないわ。ということは、ここにはいないのね」
「はい。仕事で配送を請け負った息子が、荷を運びに行ったまま返ってこないのです」
サグワの母親は、心配そうに肩を落とす。
「サグワに村を突然出て行くような理由があるとは思えません。それが急にいなくなったと思ったら、手紙を一枚だけよこして……」
「手紙?」
「はい、こちらになります」
父が持ってきた手紙を開き、その内容を六人で確認する。
『母さん父さん。突然だけど僕は、この町に住むことにした。ここは最高だよ。特にスープがとても美味しくて、トマトと肉の風味が最高なんだ。とろりとした食感が大好きになってしまったよ。急なことで驚いたと思うけど、心配はいらないよ。僕は元気だ。くれぐれも探したりはしないでくれ。さようなら』
「手紙には今サグワがどこにいるのか書いていないので、返事をすることも、探しに行くこともできません」
「これっきり、連絡もないんだ」
「サグワは、どこへ行ってしまったのでしょうか……あんな真面目な子が、一体どうして急に」
そう言って、ため息をつく老夫婦。
レンたちは老夫婦の家を出たところで、輪を作る。
「『探さないで』の連続。さすがに気になるわね」
「しかも家族に送った手紙にすら、どこに住んでいるかは書いていないのだろう?」
「真面目な方が、仕事を残して消えたというのも気になります」
「ちょっと、ドキドキしちゃうね」
名前、仕事、実家が分かれば、プロファイルとしては成功だ。
しかしその先に何が待ち構えているのか、気になり出す六人。
「んっふふ。でも、難しそうだねェ。ここから先を追うのは」
「マネージャーに告げれば、このクエスト自体は達成となりそうだが……」
スキアの言う通り、実はここでクエストとして完了することが可能だ。
ガントレットは持ち主の実家に帰り、当人の名前も判明している。
この件を闇を継ぐ者のマネージャーに告げれば、一つ『達成』を迎えることができる。しかし。
「あ、あのっ」
まもりがそっと、盾に隠れながら手を上げた。
「て、手紙に書かれていた料理。今はどこかで実際に作られているのではないでしょうか」
「なるほど。飲食・料理システムからの観点で探すというわけか」
スキアが唸る。
現状、料理や飲食システムが推されているのは確か。
その可能性は大いにあると、レンは推測する。
「まずそのスープがどこで食べられるものかを調べれば、その付近にいるってことね。でも、どこになるのかしら」
「な、南部に下るようなことはないと思います。もしかしたらそこまで遠くないかもしれません」
「そーなの?」
メイは不思議そうに、首と尻尾を傾げる。
「トマトやお肉がメインとなると、やはりミネストローネやボルシチのような物を思い浮かべます。それと煮込みのような温まるスープは、北部の料理なんです」
「確かに……現実でもそのイメージね。北部の町、探してみましょうか」
「おもしろい観点だ」
「んっふふ。ミッションかなァ、ここからは」
「なんだか、ワクワクしちゃうね!」
こうして、まもりの一言からさらなる深入りを決めたメイたち。
スープが美味しい北部の町を目指して、六人は動き出す。
「あ、あの……息子を、サグワを連れ帰ってきていただけないでしょうか」
再びサグワの家に入ると、老夫婦は予想通り新たなクエストをもち出してきた。
「おまかせくださいっ!」
メイが元気に返事をすれば、依頼の受注は完了。
六人はジェノヴァから、さらに北を目指して歩き出した。
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