1108.新たなクエストは
「や、やっと帰ってもらえたわ……」
レンは足をフラつかせながら、メイたちの元に戻ってくる。
スキアたち四人が、アバドンの打倒後に決めた『闇を継ぐ者』の名乗りとポーズ。
今回はクエストの影響で全員が黒づくめだったこともあり、白夜たちは即座に「何かが動き出した」と確信。
レンに新たな組織の狙いを、確かめに来た。
そのためレンは、とにかく「違う」と連呼しながら、使徒勢を適当なポータルに押し込んだのだった。
「巨星、ついに動くか……じゃないわよ」
白目をむきながら、エディンベアの隅にある『闇を継ぐ者』の基地に戻ってきたレン。
遅れて様子をうかがいに来た雨涙の言葉を思い出して、思わず頭を抱える。
「んっふふ、楽しかったねェ。手が震えたよォ……悪魔の巨体を切り裂く瞬間は」
クルデリスは、妖しい思い出し笑いを浮かべていた。
「それにスワローの暗殺術にも、ゾクゾクしちゃったなァ」
これまでそんなプレイををしていたわけでもないのに、見事に闇の組織の雰囲気を見せたツバメ。
短剣を手に闇に紛れてたたずむ姿は、まさに暗殺者だった。
「まさかあのような大物との戦いが待っていようとはな、おもしろい。そしてワイルドは、やはり『切り札』だったようだな」
「サンキュー」
「っ!」
あくまでクールに「サンキュー」するメイに、スキアは噴き出しそうになるのを必死にこらえる。
「……楽しそうね」
そんな四人の会話を聞いて、レンは苦笑い。
「ど、どうやらあの決め台詞は、ツバメさんが決めたものだったようです」
「なるほどね」
まもりの言葉に、納得のため息をつく。
「あのように振る舞うことで、組織の名は知られ、その威信は下種な悪党どもの足止めとなるだろう。全く大したものだ」
ツバメの中二病力の高さには、スキアも思わず唸る。
「そしてベリアルが、その本性や狙いを隠しているのもすでに知っている。こちらでは常識だ」
「それは違うの!」
「閉じてはいても、我が目はごまかせない。敵がアバドンと知った時点で『奈落』と『イナゴの王』という別名を思い出し、攻撃方法を予測するなど、闇に傾倒した者にしかできぬことだ」
「…………」
レン、ぐうの音も出ない。
ボスの二つの奥義を予想して、全員を完璧に守るという最高のプレイ。
ここに来て、自分自身にクリティカルヒット。
「それは、その、古い知識の応用で……今は違うんだけどね」
アバドン戦の早い指示は、『闇を継ぐ者』の指導者にしか見えなかった。
レンが指示を出し、ツバメの演出で締めれば、それはもう完璧な闇の組織だ。
「普段は雰囲気を背負わない。だからこそ、その闇の深さが測れない。まったくもっておもしろい」
レンは、思わず足をフラつかせる。
するとそこに、『闇を継ぐ者』のマネージャー的存在である男がやってきた。
「アバドン討伐、見事だった。あのような大物を打倒して戻るとは……どうやら君たちに依頼したのは正解だったようだ。並みの戦士ならば、生き延びる事すらできなかっただろう」
安堵の息をつきながら、男はデスクの前へ。
「さて、見事に魔族の企みを防いでくれた君たちに、少し違った趣の依頼があるのだが……受けてみる気はないか」
これまでの緊迫感から解放された、落ち着いた感じでそう言った。
「新しく、組織として受けられるクエストが出てきたってことね」
「んっふふ。聞いてみようよォ。面白いよ、きっと」
六人は全会一致で、新たなクエストを受けることを決定。
「では、これを見て欲しい」
そう言って組織の男が取りだしたのは、ひとつの革製ガントレット。
「これが、何?」
レンがたずねると、男は続ける。
「この持ち主を探して、見つけ出して欲しい」
「持ち主の名前は?」
「それは分からない」
「このガントレット一つで、名前の分からない持ち主を探せってクエストなの?」
「実はそのガントレットと一緒に、こんな手紙が残されていたんだ」
そう言ってマネージャーは、一枚の紙片を取りだした。
『――――もし僕が帰ってこなかったら、その時はすべて忘れてください。そして、決して探さないでください』
「何よこれ……」
「と、とても意味深です……っ」
不穏な気配を見せるクエスト内容に、まもりは思わず息を飲む。
「このガントレット一つで、持ち主をプロファイルする……そういうクエストでいいのかしら」
「おもしろい。残留アイテムから持ち主を探す。このようなクエストは初めてだ」
六人は意外な展開に、じっと革製ガントレットを見つめる。
「でも、どうやって探せばいいのかな?」
これにはメイも、さすがに首と尻尾を傾げた。
「まずはこれと同じものを売っている、または製造できる鍛冶屋なんかがいる町や村を、見つけるところから……かしら」
「なるほど、そういう考え方をしていくのですね」
何度見てもガントレットに、名前などは書かれていない。
そうなれば、その装備品を売っている町や村を捜査のきっかけにするというのはありだろう。
「消えた人間。探すなという言葉。闇を感じるぞ」
「んっふふ。気になっちゃうねェ、何が隠されてるのか」
クエストを受けた六人は、さっそく魔法陣の上に並ぶ。
すると男がやってきて、何かを差し出してきた。
「これはアバドン打倒の礼だ。受け取ってくれ」
【魔法の栞】:魔導書に挟めば、狙いの魔法を再度使うことができる。
「これは僕たち向けじゃないね」
そういってクルデリスは、男から受け取った【栞】を譲ってくれた。
受け取ったのは、目前にいたメイ。
スキアは「サンキュー」が来ると予想して、笑ってしまわないよう唇を噛み、防御態勢を取る。
「――――かたじけない」
「ぶふーっ!」
しかしこれには我慢できず、結局派手に噴き出した。
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