1105.アバドン戦
魔族ダイモーンの本当の狙いは、アバドンの召喚だった。
堕天使アバドンの外見は、翼の生えた黒色のミノタウロスの頭部を、馬に変えたような形だ。
黄金の冠だけが、月光を反射してギラギラと輝いている。
そして長いサソリの尾を持ち、体躯は10メートルを超える。
「この演出、間違いなくかなりの大物だぞ!」
「す、すごい迫力だ……」
満月の夜、古い時計塔の上に立つ悪魔が呼び出した大物。
意外な有名どころが古い街の時計塔前に登場し、夜のエディンベアがまたも騒がしくなる。
「見ろ! あれってさっき出てきた『闇を継ぐ者』じゃないか!」
大物の前に立ち塞がるのは、黒の装備に身を包んだ組織『闇を継ぐ者』の面々。
アバドンの登場と同時に、魔法陣外の屋根上へと転移させられたプレイヤーたちは、メイたちの姿を見つけて騒ぎ出す。
「ヨハネの黙示録に登場する、奈落の王。『滅ぼす者』なんていう別名があるくらいだし……攻撃規模が大きくなる可能性が高いわね」
レンはつぶやきながら、杖を握り直す。
「おもしろい。思っていた以上の大物が釣れたようだな」
「んっふふ、狩りがいがあるなァ」
自信ありげな笑みを見せるスキアと、唇を舐めるクルデリス。
「お待ちしておりましたアバドン様。共に人間たちを一掃し、復活の凱歌といたしましょう!」
「ウォオオオオオオオオ――――ッ!!」
ダイモーンの呼び声に応えるように、猛烈な咆哮をあげたアバドン。
その口内に集まる、魔力の輝き。
「回避!」
レンの言葉に、全員が即座に左右に分かれる。
直後、アバドンの吐き出した【終焉の魔光砲】が炸裂し、大通りの道沿いに爆破の道を生み出した。
吹き荒れる風の中、メイとツバメは屋根上へとあがり接近。
するとアバドンは二人を狙い、サソリの尾を叩きつけにきた。
「【バンビステップ】」
「【加速】【跳躍】」
加速による回避を成功させると、尾は民家を一撃で粉砕。
さらに尾の叩きつけは続き、大通りに並ぶ建物を次々に破壊していく。
しかしメイとツバメは、これを左右へのステップによって当然の様に回避する。
「ヤバッ……!」
「格好いい……っ!」
夜の古き街。
黒のマスクやストールで鼻までを隠し、黒の外套を揺らして駆けるメイとツバメは、異常なまでにカッコいい。
ジャングルを生きたメイの走りは恐ろしくしなやかで、その後を追い続けてきたツバメも、動きが驚異的に洗練されている。
夜を駆る二人は、見る者たちの目を奪い去る。
そんな中、クールな口調を作ってメイは一言。
「スキア、後ろだ」
「っ! 【降魔砲】」
メイの一言に、スキアは振り返りと同時に魔法を放つ。
夜空を駆ける魔力砲は、後方から隙を狙いに来ていたダイモーンを吹き飛ばした。
「「「うおおおっ!」」」
クールな連携が決まり、ダイモーンが石壁に叩きつけられれば、歓声も上がる。
「メイ、細かい方はツバメに片付けてもらっちゃいましょう」
「了解」
レンの言葉に応えて、メイは駆ける。
縦の軌道で迫る尾を右への移動でかわし、続く横の払いを状態そらしでかわす。
すると大きなエフェクトと共に放たれた尾の振り回しが、付近の建物を吹き飛ばし、無数の破片を散らした。
「【ラビットジャンプ】!」
これにはメイも、高い跳躍での回避を強いられた。
そして跳んだ後の隙を、アバドンは逃さない。
その口内に、煌々と輝く魔力光。
「【凶弾】」
しかしメイに向けられた【終焉の魔光砲】が放たれる直前。
スキアの向けた指先は、強い光をたたえていた。
連射して良し、溜め討ちして良し。
そんな白光の魔力弾は直進し、アバドンの額を撃ち抜いた。
これによって【終焉の魔光砲】を強制停止させる。
「サンキュー」
「っふ!」
ここでまさかの英語が出て、さすがに吹き出しかけるスキアだが、グッと我慢。
一方クールに決めたつもりのメイは、石畳の上に着地。
すぐさま剣を掲げると、そのまま振り下ろす。
「【ソードバッシュ】」
駆ける衝撃波は石畳を巻き上げながら突き進み、防御を取ったアバドンから転倒を奪った。
見事な連携だ。
「死ねええええ――ッ!!」
一方ダイモーンは、三叉の槍による【連続突き】を繰り出す。
その速度はなかなかのもの、しかしツバメはこれを見事な身のかわしでかわす。
「【スライディング】【反転】」
そして【突撃突き】を避けたところで、反転。
「喰らえええええ――――ッ!!」
振り返ったダイモーンの投じた三叉の槍は、頬をかすめて後方の建物に刺さって爆発。
後方で大きく炎が上がる。
「【加速】【リブースト】」
この隙を突き、ツバメは最速で距離を詰める。
「【アサシンピアス】」
刺突が決まると、そこに駆けつける一つの影。
「スワロー、僕にも刺させてェ」
飛び込んで来たのは、危険な笑みを浮かべたクルデリス。
「【串刺し魔剣】」
三本の魔力剣を、連続で突き刺した。
するとダイモーンは串刺し状態で、その空間に縫い付けられた。
「「ベリアル」」
「はいはい、【低空高速飛行】っ!」
同時に振り返った二人に、レンは軽く答えて接近。
【魔剣の御柄】を突き刺した。
「【開放】!」
【フレアストライク】が放たれ、夜空に炎を上げる。
三人は見事な流れで、早々にダイモーンを片付けた。
「【イビル・ゴスペル】」
スキアの放った魔法は、アバドンの四方八方にランダムの間隔で黒の光球を生み出した。
空中に制止した魔力球は、次々に炸裂を開始。
大型であることがアダとなり、一つの炸裂を喰らえば、よろめいたことで次の炸裂が直撃。
次々に放たれる衝撃に、アバドンが体勢を崩す。
「今だ、ワイルド」
「おまかせあれ」
「っ!」
緊迫した状況。クールな表情で言う「おまかせあれ」に、またも軽く表情を崩されるスキア。
「大きくなるがいい……【フルスイング】」
「ぶふーっ!」
「大きくなるがいい」に我慢できず、ついにここで噴き出して、慌てて顔を隠すように背ける。
メイが巨大化した【蒼樹の白剣】で放つ一撃は、【世界樹の剣】効果でさらに巨大化。
大型のアバドンですら当たり前のように弾き飛ばし、再び町を破壊しながらバウンドさせた。
その豪快さに、あがる歓声。
起き上がったアバドンは、怒りの咆哮と共にスキルを発動する。
「広がった大きな魔法陣が、黒塗りの円になった……!?」
レンは言葉にして、すぐにその狙いに気づく。
「みんな意地でも黒い円から抜け出すか、建物の上に逃げて――――っ!!」
叫ぶと、メイたちは間髪入れずに退避に入る。
「建物の上?」
魔法陣上が全て攻撃範囲なら、建物の上に逃げることに意味はない。
しかしメイたちの迷いのない動きに、スキアたちも攻撃を切り上げ退避を敢行。
「もったいないなァ。いいのォ?」
ここから追撃を狙おうとしていたクルデリスは不満げだが、それでも近くの建物に飛び乗ったその直後。
「――――【アビスフォール】」
「「「「ッ!?」」」」
町の一角が、突然空いた円形の大穴に崩落した。
盛大な陥没に、思わず息を飲むスキアたち。
足場にした建物も、そのほとんどが崩壊状態だ。
「なんという威力だ……」
「んっふふ。ベリアルの指示がなかったら死んでるねェ、これ」
もしもレンの言葉に従わず、地面にいたままなら、飲み込まれて即死もあり得ただろう。
スキアとクルデリスは、思わず互いを見合う。
「アバドンの別名は『奈落の王』でしょ? 足元に仕掛けをするとしたら、陥没以外に考えられないわ」
「「「す、すげえ……っ」」」
大きな戦いの規模、闇を駆けるメイたち。
そして壮大なスキル攻撃を、回避する見事な読み。
それでいてクールに振る舞う六人に、エディンベアのプレイヤーたちは、完全に目と心を奪われていた。
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