1104.魔族の狙い
「さァて、何が待ち受けてるのかなァ」
「なんであろうと、我らは任務をこなすのみだ」
『闇を継ぐ者』の新たな任務は、逃げた悪魔ダイモーンの追討。
舌なめずりのクルデリスとスキアが転移方陣に乗れば、そこにツバメとメイも続く。
「今宵の月は、血を昂らせます」
ツバメが続けば、メイもそこに乗っていく。
「我が剣が、血に飢えておる……」
やっぱり、なんかちょっと変なメイ。
四人は並んで転移方陣へ。
「もう、ポーズは良くない?」
いよいよスキアたちと共にポーズを取りながら、屋根上に転移するのが当たり前になったメイとツバメ。
スキアたちが『闇を継ぐ者』という名乗りを大々的に上げた瞬間から、レンの黒目は消し飛んだままだ。
「あ、あの悪魔の狙いはなんなのでしょうか」
まもりもワクワクしながら盾を構え、転移方陣に乗る。
六人は再び、夜のエディンベアへ。
美しい満月の下、時計塔目指して屋根の上を駆けて行く。
もちろん手をほとんど振らず、できるだけ外套やストール、髪だけをなびかせる形で。
やがて見えて来た、エディンベア中心街の時計塔。
炎に照らされた文字盤は、今夜もよく見える。
そして、その天辺。
彫金の施された避雷針の上に、ダイモーンの姿あり。
「ケケケ、まさか我が狙いに気づく者がいようとはな……あまりに呆気なく宝珠がそろったことで、油断したか」
時計塔前の大通りに着地したメイたちに気づいたダイモーンは、邪悪な笑い声をあげた。
「どうやら、考えが甘かったようですね」
「貴族はもう、捕まったみたいだけど?」
「ケケケケ。あのバカな貴族はオレに利用されていただけだ。どのみちどこかで捨てるつもりだった」
ダイモーンは、笑い声をあげる。
「欲深いあの貴族には、宝珠を集めればオレの力で、邪魔な貴族たちを呪い殺すことができると吹き込んだ。ヤツは夢中になって情報を集めた。エディンベアやロンディニウムを征服することを夢見てな。だがオレの狙いは、最初から魔力を集めることだけだ。権力を持つ馬鹿は、本当に便利だよなぁ?」
自然と、攻撃体勢に入るメイたち。
「宝珠を余分に集めておいたのは、正解だった」
するとダイモーンはそう言って、取り出した二つの宝珠を放り投げた。
まさかの自然な先手に、六人はすぐさま下がる。
「「「ッ!?」」」
割れた魔法珠から巻き起こる爆炎に、全員で防御態勢を取るメイたち。
この隙を使い、ダイモーンは両手を広げる。
「お待たせいたしました我が主……ようやく、目覚めの時がやってきました」
時計塔の頂上。
歓喜の声をあげながら、手にした槍を満月に向けて掲げる。
するとすでに街の各所に配置されていた宝珠たちが、一斉に輝き出す。
一斉に解放された魔力が、石床の街を駆け抜けると、数十メートル級の巨大魔法陣が展開した。
「うおおっ! なんかすごいぞ!」
「なんだ!? なんだこの魔法陣は!?」
妖しい淡緑の魔法陣が、強力な輝きを灯す。
吹き荒れる風は、町を飲み込むほど。
その規模の大きさに、エディンベアにいた誰もが思わず身構える。
そして天に突き上がる、光の柱。
「ラッパ……?」
聞こえ出す、壮大で厳かなラッパの音色。
淡緑の光の瞬きが、消えていく。
「なんだ、あれ……」
魔力の衝撃が古き町を揺らし、窓ガラスをガタガタと鳴らす。
そこに現れたのは、巨大な悪魔だった。
「ついに、ついにこの時が来ました――――アバドン様ッ!」
ダイモーンは、歓喜の雄たけびをあげる。
「見ろ! とんでもない大物が出てきやがった!」
「巨大な悪魔!? 一体何が起きてるんだ!?」
満月の古い街に、突如として現れた悪魔。
その光景に集まり、騒ぎ出すエディンベアのプレイヤーたち。
「アバドンか。思わぬ大物だ」
「んっふふ、楽しくなって来たねェ」
スキアとクルデリスは、組織の追いかけていた悪魔が『堕天使』を呼び出したという展開に、ワクワクを隠せない。
思わず二人、笑みを浮かべる。
「おもしろい。そうだろう、ワイルド?」
「ふ、まったくだぜ」
「大物悪魔かァ、斬ったら気持ちいいだろうなァ……そう思うだろォ? スワロー」
「敵に不足なし」
メイとスキアが構えれば、クルデリスとツバメも短剣を手に腰を落とす。
「まさか街を巻き込むレベルの大物を出してくるなんて、少し驚いたわ」
「ほ、本当ですね!」
いまだ定まらないメイの口調に冷や冷やのレンも、さすがに杖を持ち直す。
「まずは貴様たちを喰らい尽くし、凱旋の凱歌としよう。我が王の贄となれることを、感謝するがいい!」
「ウォオオオオオオオオ――――ッ!!」
「「「っ!!」」」
アバドンのあげた咆哮に、付近のプレイヤーたちが唖然とする。
ダイモーンが振り上げた槍をこちらに向けて笑う。
古き街を賭けた戦いが、始まった。
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