1103.名乗りを上げろ
【発信の宝珠】を持たせた魔族ダイモーンを追って、飛び出した夜の街。
空を自在に飛行する悪魔は速く、あっという間に夜空を突き進む。
屋根から屋根へと跳び上がり、追いかける六人だが、ダイモーンは高度を上昇。
「っ!」
そんな中、メイが振り返る。
見えたのは、屋根上を高速で追ってくる暗殺者たちの姿。
貴族ハイランドが、けしかけた者たちだ。
「前からも来ます」
ツバメが、前方から迫る暗殺者にも気が付いた。
囲まれた状態では、さすがに足を止めるしかない。
六人は自然と、その手に武器を取る。
「暗殺者をけしかける……か。あの貴族、余程の悪事に手を染めているようだな」
「んっふふ。そうだねェ」
「それは貴様たちの知る事ではない――――消えろ」
メイたちを取り囲んだ5人のアサシンが、一斉に動き出す。
「【ハイジャンプ】【垂直回転斬り】」
鋭い前方回転から、振るう短刀がレンに迫る。
「【かばう】【地壁の盾】!」
しかし、これは届かない。
まもりの黒盾に、難なく受け止められた。
「【フレアストライク】!」
すぐさま横から杖を突きつけ、放つ炎砲弾で暗殺者を吹き飛ばす。
すると狙い通り、仲間の暗殺者を巻き込みながら転落していった。
「はい、そこ【串刺し魔剣】」
駆け込んで来た暗殺者に対応したのは、クルデリス。
手前に差し出した魔力剣が、暗殺者の腹部に突き刺さる。
そこに払う形で短剣を叩き込めば、遅れて到着した暗殺者共々、屋根を転がり落ちる。
残りは一体。
「【フルスイング】」
一瞬で懐に入り込んだメイ。
いつもよりクールな声で、放つ剣の一撃が暗殺者を吹き飛ばす。
こうして5体の暗殺者を、一瞬で打倒したメイたち。
「うわっ」
メイはレンのように剣をカッコよく払おうとして、民家の煙突にぶつける。
そして一瞬驚きに尻尾を立てた後、慌ててクールな顔を作り直した。
「増援か」
これで一段落かと思いきや、すぐに新たな暗殺者たちが先の屋根に上がってくる。
「いいだろう、見せてやる――――『闇を継ぐ者』の力を」
スキアの言葉に、すぐさま乗ったのはツバメ。
「スワローが先行する」
魔族の逃げた方に立ち塞がる暗殺者たちに向けて、特攻。
「落ちろ【電光石火】」
「ぐっ!」
容赦のない高速斬撃で、手前の暗殺者を斬り裂いた。
だが、敵の勢いは止まらない。
暗殺者たちは一斉に跳躍し、飛び掛かり攻撃を仕掛けてくる。
「甘い。このワイルドの前に、安易なジャンプは命取りだ……【ソードバッシュ】」
夜空を駆け抜ける衝撃波。
二人の連携で、一気に敵数を減らすことに成功。さらに。
「喰らいつけ【万魔の眼光】」
さらに後方で控える者たちを、スキアが光の散弾銃を思わせる魔法で一掃する。
その隙を突いて、接近してきた数人の暗殺者には――。
「【フリップジャンプ】【残光連華】」
クルデリスの放つ、回転跳躍からの白刃が炸裂した。
「……チッ、さらなる増援が必要か!」
戦況の不利を悟り、残った暗殺者リーダーは逃走を選択。
「そうはさせないわ!」
だがレンは、こんな状況下でも敵の動向を見逃さない。
逃げ去っていく暗殺者たちのリーダーを狙い、杖を構える。
「頼むぞ、ベリアル」
「【魔砲術】【超高速魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
夜空を一直線に駆け抜ける炎弾が、直撃。
見事な狙いで、リーダーを打倒した。すると。
「「「【ライティング】!」」」
「「「「っ!?」」」」
屋根上の戦いに気づいた者たちが、照明になる光球の魔法を使用した。
ハイビームのような白色の光線が、黒づくめのメイたちを照らし出す。
するとスキアとクルデリスが、自然とポーズを取った。
気付いたツバメも続き、メイと共にポーズを決める。
そして偶然その中心になったツバメは、自分たちを見上げるプレイヤーたちに向けて、告げる。
「世界に巣食いし全ての邪悪なる者たちに告げる。恐れるがいい。我らは『闇を継ぐ者』。貴様たちを断罪する――――漆黒の刃なり」
そう言って振り返ると、後方に倒れ込むようにして屋根を飛び降り、夜闇に消えた。
「お、おお」
「おおおおお……っ」
「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」
そして、夜の城下町に歓声が響き渡る。
「なんだあの集団!?」
「ていうか最後の魔法、使徒長ちゃんだよな!」
「ナイトメアが、新たな闇の組織を動かしてきたってことか!?」
次々に上がる、考察の声。
「……どうして」
そんな盛り上がりの中、まもりこと『シールド』が、白目のレンに問いかける。
「レンさん?」
「どうして、こうなっちゃったのよぉぉぉぉぉぉ――――っ!!」
◆
追っていた魔族は、月夜に消えていった。
あの高度を考えると、ダイモーンをあの場で捕まえる計算には、なっていなかったのだろう。
「良く戻った。貴族の方は私たちで抑えておいた。どうやら悪魔を使役し、エディンベアやロンディニウムに影から操ることが狙いだったようだ」
予想通り、クエストは正しく進行している。
組織として名乗りを上げた事、以外は。
白目のままのレン。
『闇を継ぐ者』の名乗りはもちろん、完全なアドリブだ。
特にクエストに問題はないが、名乗りをレンたちが行ったとなればそうもいかない。
沸き立つ現地の様子を思い出して、レンは震える。
「楽しかった……!」
「はい……っ!」
一方メイとツバメは、組織としての名乗りが最高に気持ち良かったのだろう。
目をキラキラと輝かせている。
スキアもクルデリスも、よく見れば足取りが軽い。
それはもうギリギリ、スキップしてると言っていいレベル。
クルデリス得意の邪笑いも、どこかドヤ顔風だ。
「これでハイランドの野望は潰えたことになる。だが……逃げた悪魔は多くの宝珠を持ち出している」
「別の狙いがあるのかしら」
「……なるほどな」
何気ないレンの言葉に、うなずくスキア。
「この思考の的確さ。さすがはベリアルだ」
「やめて」
「これまで奪われた宝珠の数は20を超える。何かが動いているのは確かだろう。そして幸い魔族は【発信の宝珠】を持ったままだ」
「ダイモーンの行き先は、時計塔前ね」
「私はハイランドの尋問を始める。魔族の方は、よろしく頼む」
「おまかせあれ」
クールに返すメイ。
やはりちょっとカッコ良くない返事に、スキアは口元を緩ませてしまうのだった。
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