1101.動き出す『闇を継ぐ者』
「諸君。エディンベアには今――――暗躍する悪が存在する」
場所は、エディンベアの秘密基地。
大きな地図の張られた作戦室で、『闇を継ぐ者』のマネージャーのような男はそう言った。
「「「ほう」」」
「皆して、同じようなリアクションをしないで」
クールに答えたメイたちに、言わずにいられないレン。
各自が闇の組織っぽい雰囲気を出している光景に、寒気が止まらない。
「騎士団の手が届かぬ悪を、我ら『組織』が闇から討つ。そうしてこの国は守られてきた。だが全国的に悪の動きが重なり、複数のケガ人を出したエディンベアは手薄な状況だ。よってこの度の危機は、君たちに悪の討伐を任せたい」
「了解した」
「お任せあれ」
冷静に応える黒の暗殺者ツバメに対し、同じクールでもメイはちょっと言葉遣いがおかしい。
スキアは、クールな相貌をかすかに崩す。
「今回の事件もそうだが、魔族が宝珠を集める動きがある。これらはそれぞれ単独の事件として扱われているが、情報を総合することで、明確に収集が行われていることが分かった」
「何か、目的があるということか」
両目閉じのスキアの言葉に、うなずく男。
「目的はまだ見えていないが、ここエディンベアは古い街で貴族も多く、魔法に関するアイテムなども多い。何が起きても不思議ではない」
「そうなると、次に狙われる魔法珠には大体『あて』がある状況なんじゃない?」
「その通りだ」
「さすがだねェ」
クエストの流れを普通に予想するレンに、チェーンピアスのクルデリスが感嘆の声をあげた。
「おそらく次は、ハンプトン家の魔法珠が狙われるだろう。魔力をふんだんに含んだ宝珠は、【エディンベアの輝き】と呼ばれている。さっそく現地に向かってくれ」
そう言って組織の男は、二つのアイテムを取り出し渡してくる。
「これは【変身の杖】だ。今回の任務に使えるだろう」
受け取ったのはレン。
「あとは『これ』だ」
「そういうことか」
受け取った宝珠を手に、スキアはすぐさま作戦の狙いを理解。
黒の専用衣装を着込み、各々の形で顔を隠した六人は、作戦室前の転移方陣へ。
すると、夜のエディンベアの街の屋根の上に瞬間移動した。
時計塔が見られる夜の街に各々が立つ姿に、メイは思わず尻尾をブンブン震わせる。
「ま、まるで漫画の組織が、初登場する時のようです……っ」
「ゆくぞ」
スキアのクールな言い方に、動き出す六人。
指定のされた、ハンプトン邸へ向けて動き出す。
「なんでみんな、いつもより足音を殺す感じの走り方なの……」
手を振らず、言葉数を少なくして駆ける姿は、まさに闇の組織。
レンは予想以上に『闇』を意識しての行動になっているツバメとメイが、『目覚めて』しまわないよう祈りながら進む。
たどり着いたのは、古いながらも大きな敷地を持った邸宅。
石積みの建物の前には、よく手入れされた庭園がある。
「それじゃさっそく、【変身の杖】を使いましょうか」
庭の一角へと、入り込んだ6人。
レンが専用アイテムの杖を掲げると、その姿が変わる。
「んっふふ、メイドかァ」
この屋敷で、違和感のない格好。
メイドに扮すると、クルデリスはいつも通りの笑みで事態を楽しむ。
スキアもクルデリスも普段からモノクロなため、思った以上に似合っている。
「そこで何をしている」
「「「っ!!」」」
突然かけられた声に、思わず6人ビクリと震える。
やって来たのは、この屋敷の主人らしき壮年の貴族。
その手には、黄金製の杖。
はめ込まれた宝珠は見ればすぐに分かる、【エディンベアの輝き】だ。
「夕食の時間だ。早く準備を済ませるように」
これはその場で、怪しまれないようにする動きも求められるクエスト。
『夕食』という言葉を聞いて、目を輝かせる食いしん坊メイドまもり。
レンは中二病コンビの動向に、不安の色をみせるが――。
「もうしわけありませんっ。今すぐ行きますっ」
「「「「っ!?」」」」
まさかの事態に、驚くメイたち。
なんとスキアは両目を閉じたまま、満面の笑み。
両手を可愛く握って、応えてみせた。
「……その場でキャラを作ることくらいは、やっていくタイプなのね」
特にキャラなど作らなくても問題ないクエストなのだが、あえてのキャラ作り。
「その変わりように私たちが驚いたのを見て、絶対気持ち良くなってるわ。以前の自分ならそうしてるし」
レンは、かつての自分を思い出して震える。
「んっふふ。待ってくださァーい、ご主人様ァ」
するとそんなスキアを見ながら、クルデリスも『わざとらしい演出で』ニヤニヤしながら続く。
どちらも完全に、状況を楽しんでみせる『余裕型』だ。
よく出来あがっている。
たどり着いた食卓。
夕食が、大きな長テーブルで始まる。
そこにいるのは、貴族とその妻。
給仕の仕事を行うスキアとクルデリスを見ながら、様子をうかがう4人。
「潜入中は別人になり切る……カッコいいかも!」
スキアは杖をテーブルの横に立て、夕食をとる貴族に付き添う。
メイは感心しながら、その姿を眺めていると――。
「「「「ッ!?」」」」
突然、窓ガラスを打ち破って何かが飛び込んで来た。
「ま、魔族だとッ!?」
まさかの事態に驚愕する貴族が、慌てて杖を取り落とす。
「【フリーズアロー】」
すると魔族は右腕を払い、三十本に及ぶ氷矢を一斉射出。
「……!」
「こっちへ!」
「【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
ツバメは貴族の妻を、メイはすぐさま貴族本人を引っ張り、まもりの盾の背後へ。
ダダダダと、盾を乱打する氷の矢を受け止める。
「悪いけど、こっちには防御のプロがいるのよ!」
「んっふふ、これが一人イージスの防御性能かァ……ゾクゾクしちゃうねェ」
激しい範囲攻撃を、見事に弾いたまもり。
これによって、こちらの被害はゼロ。
「こいつは頂くぞ」
しかし魔族はこの隙に、落ちていた【エディンベアの輝き】を手に取り飛行。
破られた窓から外へと、飛び出していった。
「異世界の王を調伏した力、やはり他の者たちとは格が違うか」
メイたちは緊急時にも、即座に自分の役割を把握して行動。
魔族を追い返すだけならまだしも、複数人が対象の防衛でノーダメージという結果にスキアも唸る。そして。
「どう? 上手くいった?」
「ああ、問題ない」
レンがたずねると、スキアは「仕事は終わった」とばかりにクールな姿に戻って応える。
そしてその手に、美しい宝珠を取り出してみせた。
「給仕しながら【エディンベアの輝き】を【発信の宝珠】にすり替えて、あえて盗ませる。面白いクエストですね」
「これで、魔族がどこから来てるのか分かるわ」
こうして6人は魔族から貴族を守り抜き、さらにその住処へ発信機を持ち帰らせることに成功した。
「き、君たちは一体……」
「それ以上は、知らない方がいい」
「んっふふ、そういうことォ」
そう言って興味もなさそうに、【エディンベアの輝き】を貴族に投げ返すスキア。
クルデリスと共に、クールに背を向ける。
その姿にメイは、「おおーっ!」と声を上げたのだった。
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