1100.組織とコードネーム
魔族に追われていた男を、助けたメイたち。
すると、正義の組織に手を貸して欲しいという依頼を持ち出された。
「レンちゃん?」
「……と、とりあえず話を聞いてみましょうか」
夜の時計塔都市。
現れた二人の闇属性少女。
そんな運命的な流れに震えながらも、見つけたクエストを逃すことはあり得ない。
レンは男の後に続いて、夜のエディンベアを進む。
大通りの路に並ぶ石造りの建物の間を進み、裏通りへ。
そこは本来何もない、細い路。
男は、何てことのないパブに入る。
そこは普段プレイヤーが入ることはできない、特別な場所だ。
「なんだか、ドキドキするねっ」
「はひっ。秘密組織のフロント企業というやつでしょうか」
「フロント企業は、少し違うんじゃない?」
男が物静かなマスターに一つうなずくと、マスターはビールを注ぐためのサーバーコックを下げる。
すると、店の石床に魔法陣が描かれた。
男はそこから店の地下へ転移し、メイたちもあとに続く。
「おおーっ!」
「これは、カッコいいですね……!」
「え、映画のようですっ」
地下基地には木枠で作られた壁掛け収納に、剣や弓、杖といった武器や、魔法珠を始めとしたアイテム類が丁寧に架けられている。
思わずツバメが並ぶ短剣に目を奪われ、まもりも盾に夢中になる。
「我らはロンディニウムやエディンベアに潜む、悪を討つ正義の組織として活動を続けてきた」
「……組織ね」
不穏な言葉に、片目が白目をむくレン。
「だが今回、敵には魔族がついている。我らの仲間は怪我や呪いによる攻撃を受けて手薄になってしまった。そこで君たちに力を貸して欲しいんだ」
「だが、いいのか? 冒険者に基地の場所まで知らせたうえに手の内を晒すというのは、やりすぎに思うのだが?」
両目閉じ少女が、問いかける。
「それだけの窮状ということだ。敵は大物。この危機を乗り切るためには、手の内を見せてでも味方を増やす必要があったんだ」
「んっふふ。別にこれが罠でも構わないけどねェ」
魔法剣士少女はそう言って、好戦的な笑みを浮かべた。
「どうするつもりだ、ナイトメア?」
レンは背筋を悪い意味でゾクゾクさせながらも、一つの可能性に思い至る。
「……でも正義の組織っていうのは、悪くないわね。闇のイメージが払しょくされるかも……?」
『力だけを求めて動く超越者』という現状は、どうしても闇に紛れて生きる妖しい魔女のようなイメージがある。
だが、正義のために戦うのならどうだ。
たとえ名乗りを上げるのでも「我が前に立ち塞がった無知を呪え」と「悪は絶対許さない! 私は正義の使者だ!」では、まるで違う。
正義の使者を名乗る形なら、闇に潜む魔女感は薄まってくれるに違いない。
真逆の自分を皆に見せることができれば、違った印象が生まれる可能性が高いはずだ。
「受けてみる?」
「賛成ですっ! すっごく楽しそう!」
「はい、このワクワク感はなかなか味わえるものでありません」
「は、はひっ! 私もそう思います」
「正義を標榜するというのは本意とするところではないが、こちらはもちろん構わない」
「ナイトメアの追う闇かァ、うずいちゃうよねェ……んっふふ」
「よさそうね、正義の組織の依頼、受けさせてもらうわ!」
レンは、張り切って答える。
「ありがとう。では組織として専用の衣装を支給する。これを着用の上で任務に当たってくれ。組織としての示威を与えるだけでなく、正体を明かさないためにも必要になるからな」
男がそういって右手を上げると、天井から六つのマネキンが降りてきた。
「さあこれを着て、魔を断つ炎となれ……!」
「めちゃくちゃ黒いんだけど!」
レン、装備品の黒さに即座に苦言を呈する。
「もちろんだ。我ら『闇を継ぐ者』は……影に潜んで悪を討つのだからな」
「それ先に言ってよ! これじゃいつも通り……いつも以上なのよ!」
「わあーっ! カッコいい!」
「これこそ、闇を駆ける暗殺者です」
「ええと! 我こそが……我こそが何だろう……っ」
すぐにそれっぽくなるさすがのツバメと、なかなか良いセリフが出てこないメイ。
「く、黒色の盾は初めてかもしれませんっ」
まもりもこれには、歓喜の声を上げる。
三人はキャッキャッしながら、黒づくめ装備で遊び出した。
一方チェーンピアスの少女は、「面白そうだねェ」と笑う。
「次は、コードネームだな」
「この上まだそういう要素を入れてくるの!? メイやツバメが染まったら、どうしてくれるのよ!」
いよいよ闇の組織になっていくクエストに、レンが声を上げる。
「コードネームだって!」
「これは面白くなってきました」
「カッコいいコードネーム、エ、エシャロットとかでしょうか……!」
すっかりワクワク状態のメイとツバメ。
まもりも、フランス料理で使われる玉ねぎの名前を上げるくらいには乗り気だ。
「各人のコードネームを発表する。アサシンの君は、スワロー」
「了解」
「重戦士の君は、シールド」
「はひっ」
「野生児の君は、ワイルド」
「わ、わいるど……」
「そして魔導士の君は……ベリアルだ」
「なんで私は悪魔の名前そのままなのよっ! ワイルドはまだ切り札って意味もあるからいいけど!」
「……そうなの? えへへ」
「どうにかサンシャインとか、ブロッサムとか明るい名前にならない?」
レンは変更を求めるが、受け入れてもらえない。
「魔導士の君は、スキア」
「ほう、ギリシャ語で『影』か」
両目閉じの魔導士のコードネームが決まると、最後はチェーンピアスの剣士だ。
「魔法剣士の君は、クルデリスだ」
「んっふふ。ラテン語で『残酷』だったかな?」
一通りコードネームが決まると、男はデスクチェアに腰を下ろし、机の上で腕を組んだ。
「諸君。世界の悪を狩る組織【闇を継ぐ者】へようこそ。さあ――――最初の任務だ」
「せめて組織の名称は、普通のにしてよ――っ!」
いよいよ始動する闇の組織に、レンはもう白目をむくことしかできないのだった。
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