1098.新たな邂逅
「ロースト――」
「ローストビーフの話ですか!?」
「……よく分かったわね」
レンが言いかけたところで、まもりが目を輝かせた。
その反応速度は、クイズ番組の早押し並。
「さすがまもりさんです」
「すっごく早かったね!」
これにはツバメとメイも感嘆する。
「実は広報誌の特集で見つけて、ちょっと気になったのよ」
「はひっ! 私もすごく気になってます!」
やはり運営は、飲食システムを推しているのだろう。
別冊の特集にあった各地の料理には、メイたちも思わずノドを鳴らすほどだった。
「場所は北西部、エディンベアなんだけどちょっと行ってみない?」
「いいですね。古い街並みは雰囲気も良かった記憶があります」
「ローストビーフ楽しみ!」
「なんでもかの有名な、スターゲイジー・パイもあるんだって」
「……な、なんと」
「果たしておいしくなっているのか、それとも『そのまま』を保っているのか……気になるでしょう?」
「た、確かに……!」
「おいしくないことで有名な料理ですね」
「おいしくないことで有名なのーっ!?」
有名な『魚が突き刺さっている薄味のパイ』と聞いて、さらに興味がわくメイ。
「行ってみましょうか、エディンベアに」
「はいっ!」
「いきましょう」
「……あれ、まもりは?」
「あははっ、もう前にいるよ!」
振り返るまもり。
見ればすでに数十メートル先で、散歩に行く前の犬みたいにソワソワしている。
メイたちはいつもの港町ラフテリアの海沿いを通って、ポータルへ。
魔法都市ロンディニウムを経由して、古の街エディンベアにたどり着いた。
「おおーっ! 素敵な街並みだねっ!」
大きな石を削り出して作ったブロックを重ねた建物は、長い時間を経て角が丸くなり、風雨で色味が全体的にあせている。
そこに絡むツタや花の色味が鮮やかで美しく、メイは思わずスキップ。
「「運営さん」」
今がシャッターチャンスですよ。
古くきれいな街ではしゃぐメイに、ツバメとまもりの声が重なる。
「この街は、剣士とか魔導士がよく似合うわね」
大通りには大きな時計塔を持つ建物があり、淡い緑の屋根が美しい。
まさに、歩いているだけで楽しい街並みだ。
四人は歩いて、近くのパブへと向かう。
「ロ、ローストビーフを、お願いしますっ」
早くもワクワクを隠しきれない様子で席に着いたまもりが、さっそく注文。
メイと並んで足をパタパタさせながら、短い提供時間を待つ。
やって来たのは、期待通りの一品。
やや厚めにスライスした牛肉は、外側はほどよく火が通り、内側には綺麗な赤色が残っている。
さっそく、メイとまもりは一口。
「「おいしいっ!」」
独特の食感を楽しみながら、二人笑い合う。
するとそこに、新たな料理がやって来た。
半分に切られたメンチカツの中には、固ゆでの卵が綺麗な黄身を見せている。
「スコッチエッグも頼んでしまいました……えへへ」
「わあ、これも美味しいよ!」
「本当ね。いい雰囲気に独特の料理。エディンベアも人気が出てきそうだわ」
仲良く料理を楽しむ四人。
最後にやって来たのは、怪しいパイだ。
「これが、スターゲイジー・パイだね……っ」
「魚たちが、こちらを見ています」
それはアップルパイのような生地から魚の頭部が六つほど突き出しているという、奇抜な見た目の一品だ。
そして同時に、マズいと評判の料理でもある。
「なんだかんだ言っても、おいしく作られているんじゃないかしら」
「私もそう思います」
「で、でも、そのままの方がネタにはなりそうです」
「確かにそうだねっ」
四人は目配せして、覚悟を決めるようにうなずき合う。
「「「「せーのっ」」」」
思い切って、口に運ぶ。
「「「「っ!!」」」」
そして、その目を大きく見開いた。
「……すっごく、味が薄い」
「味が薄いのに、魚の生臭さの対策をしていないのですね」
「そのせいで、生臭さとの一騎打ちみたいな状況なんだけど……」
「マ、マズさはそのままにしたんですね」
パイにはジャガイモや玉ねぎ、ベーコンも入っているが、味付けがとにかく弱い。
そのため、あの魚独特の風味ばかりを感じてしまう。
四人は仲良く白目をむいて、完食。
なんだかんだでしっかりと、エディンベアの料理を楽しんだのだった。
「ごちそうさまでしたーっ」
のんびりと料理を楽しんだメイたちは、エディンベアの大通りへ戻る。
少し付近を探索すれば時刻は夕方になり、青紫の空に、金星のようにまばゆい星が瞬き始めた。
「……ん?」
不意にメイが、時計塔を望む建物の屋根に立つ、プレイヤーの存在に気づいた。
そこには、全身を黒の装備で包んだ二人の少女。
夜風が少女たちの、髪を揺らす。
「――――動き出したか、ヤツらが」
両目を閉じたままの少女は、銀細工の小さな髪飾りを頭部に付けた、黒の魔導士。
「――――あーあ、始まるんだねェ。預言書に書かれた”第三の黙示録”が」
すると魔導士の言葉に応えるかのように、柔和な笑みを浮かべていた黒騎士の少女が、その表情を邪な笑いに変えた。
「――――行くぞ。今宵の月は……”適合者”どもを狂わせる」
「や、やめて……」
するとそれを目撃したレンが、ブルブルと身体を振るわせ始めた。
「――――”聖戦”の時は近い。後れを取るなよ」
「――――へぇ、僕を心配してくれるん」
「そういうのやめてええええ――――ッ!! 身体がゾワゾワするから――ッ!!」
見知らぬ少女たちに『世界感の強い芝居』を見せられたレンは、近くの壁にゴンゴンと頭をぶつけ始める。
つい最近まで自分もやっていただけあって、その威力はクリティカル。
すると二人の黒い少女は、こちらに振り返った。
そしてレンに気づき、わずかに表情を崩す。
「……聖城レン・ナイトメア」
「へぇ、これは面白いことになってきたね。やはり近いみたいだ……”第三の黙示録”の始まりが」
満月の下、黒き少女たちが笑う。
時計塔を望む、古い街の夜。
運命の邂逅に、闇を超えし者だけが白目をむいていた。
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