1096.新しい街
「わあー! すごーい!」
メイは尻尾をブンブンさせながら、鮮やかな街並みを見て回る。
石造りの建物は、様々な色の屋根やドアを使うことで明るい雰囲気。
さらに大通りには魔法珠を使った街灯が並び、見た目にも楽しそうだ。
「なんかちょっと、木々の多さが目立つ気もするけど……」
「いい街だと思うわよ」
「はい。自然と人工物が程よく調和した、良い街だと思います」
「ステータス上げのバナナを、名産品にしようって話も出てるみたいだけど……」
「す、すごくいい街ですっ!」
若干不穏な雰囲気を感じているメイに、まもりは笑顔でうなずいてみせる。
四人が進むのは、ゼティアの門を抜けた先。
ついに完成を迎えた、異世界最初の街だ。
その名前は『サツキタウン』
最初は『ワイルドメイ』や『野生児メイシティ』などといった案も出てきていたが、「それは困りますーっ!」と懇願。
メイたちのパーティが『五月晴れ』だったこともあり、無事サツキタウンで決定の運びとなった。
木々が多いのはもちろん、メイをイメージしたからに他ならない。
「皆さーん!」
そんなメイたちのもとに駆けてきたのは、マーちゃん。
「ついに、この時が来ました!」
「マーちゃんさんっ!」
「いい街ができましたね」
「ありがとうございます! 新マップに街を作るなんていうクエストは星屑史上初ということで、すごく楽しかったです! これもメイさんたちのドロップ販売を請け負っていたことがきっかけ。本当にヤマトのイベントからずっと、お世話になりっぱなしです!」
さっそく集まって、ピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶメイとマーちゃん。
「そして今回お願いしたいのは、こちらです!」
マーちゃんはさっそく、大きなサツキタウンの奥部へと向かう。
「おっ、メイちゃんが来てるぞ!」
「ということは、いよいよか!」
するとメイたちを見つけて、早くもサツキタウンに異世界商品の店舗を出している商人たちが、集まってくる。
「メイちゃんが来た!」
「いきますか!」
さらにマップ作りに来た冒険者たちや、新たな素材を求めて来た冒険者たちもあとに続く。
進んだ先には、大きな空き地が用意されていた。
「ここに、お願いします」
そう言ってマーちゃんたちが、自然と道を開ける。
まだマップすらない、完全に初見の世界。
完成している街はまだ、このサツキタウンただ一つだ。
そのため遠くからでも帰る場所として見つけられるように、目印が欲しいというのがマーちゃんたちの希望だった。
街の奥部にある、空き地の中央。
メイの前には、埋められた【世界樹の芽】
戦闘中ではなく、ハウジングのポイントで使用すれば原状復帰による消滅もない。
「それではいきますっ!」
メイが手を上げると、集まった多くのプレイヤーたちが一斉に期待の視線を向ける。
「せーの! 大きくなーれ!」
メイが右手を突き上げて【密林の巫女】を発動すると、世界樹が成長を開始する。
「お、おお……」
「おおおおおっ!」
「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」
あがる歓声に応えるかのように、世界樹は急成長。
枝や根を、どんどん広げていく。
その高さは街に並ぶ建物を大きく超え、天に届かんとするレベル。
ファンタジー世界だからこそ見られる光景は、ただただ圧巻の一言だ。
「すごいです……」
街の作成に携わっていたマーちゃんも、感無量の表情を浮かべる。
「「「すげえええええ――――っ!!」」」
その成長が止まると、サツキタウンはまるで世界樹の麓にできた街のように見える。
マーちゃんたちは最初から世界樹ありきで考えていたこともあり、その調和ぶりは完璧だ。
メイの【密林の巫女】が見れるとあって集まってきていたプレイヤーたちは、早くも盛り上がり出す。
こうして異世界最初の街、サツキタウンに大きなランドマークが生まれた。
「これなら遠くからでもサツキタウンの場所が分かりますね。マップもまずこの木を中心にすることができます。メイさん、ありがとうございました」
「いえいえー」
「この街を異世界の、立派な拠点にしていきます!」
マーちゃんたちと眺める、世界樹の街並み。
「これから探索を始めるプレイヤーたちの、目印になるのですね」
「これだけ大きければ、遠くからでも見つけられるわ」
「は、はひっ。すごいですっ」
こうして星屑内で一つのイベントのようになった、世界樹の植樹は終了した。
「メイさん、実はすでに次の狙いも考えてあるんです」
「次の狙いっ!?」
「この街の名物はズバリ……バナナ尽くしです!」
「うわはーっ! 尽くさないでくださーいっ!」
そんなことをしたら、サツキの名を冠した街が、完全に野生の雰囲気になってしまう。
「もしかして他の形の方がいいですか? ああっ、それなら!」
マーちゃんは「名案!」とばかりに手を打った。
「それなら!? あっ、もしかしてオシャレなコーヒーの街とかに!?」
「フルーツ全般そろえましょう!」
「それだと、ちょっとトロピカルになっただけだよーっ!」
「ふふっ、楽しい街になりそうね」
「はい、それは間違いないと思います」
「バ、バナナ尽くしですか……楽しみですっ」
そんな二人の掛け合いに、レンたちは楽しそうに笑う。
「それじゃあ今日はしばらく街を散歩して、そのあとトカゲ帝国の報酬をもらいに行ったりしましょうか」
「そうしましょう」
こうして四人はマーちゃんと共に、サツキタウンをのんびり見て回ったのだった。
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