1093.故郷
「ありがとう! 英雄たち!」
「君たちのおかげで、故郷に帰れるよ!」
メイたちに助けられた人質たちは、ポータルを利用して島を出て行く。
こうして残ったのは村人とメイたち、そして背後に続く掲示板民だけになった。
メイは先頭を進み、変身型のトカゲたちに乗っ取られたクク・ルル村へ。
そこには今も、村民のフリをしたトカゲたちが当たり前のようにたむろしている。
「いきましょうっ!」
出入り口まで来たところで、うなずき合う。
本物の村人を連れてきたメイたちが勢いよく村に踏み込めば、トカゲたちが動き出す。
変身を解き、各自が大型の武器を持ち出して走り出した。
その数は、ゆうに100体に超えるほど。
しかし一斉に駆け出してしまえば、一網打尽にされるだけだ。
「――――村は、返してもらいますっ!」
メイは剣を掲げる。
そしてしっかりとタイミングを計り、偽者の村人たちが押し寄せてきたところで――。
「【ソードバッシュ】!」
放つ衝撃波が、一気にトカゲたちを吹き飛ばす。
この一撃で一気に、勝負の大勢が決まる。
「喰らいなさい! 【フリーズブラスト】!」
衝撃の余波で転がった個体を、レンが氷嵐の魔法で討つ。
「まとめていきます! 【斬鉄剣】!」
ツバメの一撃は、八体のトカゲをまとめて斬り飛ばした。
「【シールドバッシュ】!」
そして屋根から跳び降りてきた個体をまもりがはね返せば、掲示板組も後方から迫り来るトカゲを叩く。
「【ジェット・ナックル】!」
「【砲弾跳躍】ぽよっ!」
高火力の一撃で機先を取り、そこに樹氷の魔女が【氷のイバラ】で足止めを仕掛ける。
あとは残りの掲示板組が攻撃を叩き込めば、残りはもうわずか一体だ。
「【ソードスライサー】!」
村のお姉さんが重量型のトカゲに斬りかかり、体勢を崩した。
そして道を開きながら、村の英雄であるメイに振り返る。
「メイさん、お願いします!」
「はいっ!」
最後の一撃を、託されたのはメイ。
「久しぶりに、この剣でいきますっ! 【装備変更】っ!」
メイがその手に取り出したのは、密林で7年振り続けた初期装備【ショートソード】
両足を広げ、高く掲げた剣を全力で振り下ろす。
「これが必殺の……【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!」
駆け抜ける衝撃が、最後のトカゲを吹き飛ばす。
粒子になって消えていく、変身トカゲたち。
こうしてクク・ルル村は、支配を脱することに成功した。
するとメイたちの戦いを応援していた村人が、一斉に駆け出していく。
「いつもの村だーっ!」
そしてメイが幾度となく見てきた村の光景が、復活した。
見慣れた村の眺めは、すっかり元通りだ。
「あなたは、クク・ルルの救世主だ!」
「ありがとう、おかげで村を取り戻すことができた!」
歩けば、見知った顔の村人たちが声をかけてくる。
「村長、歴史に残しておきましょう! 我らの村を救った英雄の名を!」
「ありがとうございますっ! メイさん!」
「ふふ。これで名実ともに、この村の関係者ね」
「えへへ」
歓声を浴びながら、進むメイたち。
最後に向かうのはもちろん、お姉さんのところだ。
「すっかり村が元の姿に戻りました。ありがとうございます」
「「ありがとうございます!」」
無事に帰還を果たした妹たちも、うれしそうだ。
こうして見事、世界を影から支配しようとしたトカゲたちの野望は立たれ、クエストは終了した。
「ここがメイちゃんの故郷かぁ」
「これぞジャングルの村って感じぽよ!」
「聖地ですね! たっぷり見て回りましょう!」
掲示板組は、メイの聖地であるクク・ルル村観光を開始。
さっそく村を駆け回る。
「これってまた、今までのクエストも受けられるようになるのかしら」
「どうなのでしょう……何か困っていることはありますか?」
レンの不意な疑問。
ツバメがたずねると、お姉さんはうなずいた。
「村を度々襲う、ゴールデンリザードの討伐をお願いしたいのです」
「わあーっ! 何万回聞いたやつと同じだぁっ!」
メイは歓喜と恐怖が混じった、何とも言えない顔をする。
「そのクエスト、受けるわ」
「さっそく行きましょう」
「た、楽しみです……っ」
クエストを受けたメイたちは、小走りで村を出た。
「最近まで住んでた場所なのに、なんだか懐かしいなぁ」
メイは付近を見渡しながら歩を進めていく。すると。
「きたっ!」
いち早く接近に気づいたメイの猫耳がピクリと動く。
そして迫りくるゴールデンリザードに、さっそうと対峙する。
直進からの爪の振り降ろしは、定番中の定番。
メイはもう、肩の2センチ横を爪が通り過ぎるような形で回避。
続く尾の振り回しを、ただのジャンプで軽々と飛び越える。
するとわずかに下がったゴールデンリザードが、跳び上がった。
それを見て、メイが剣を引く。
「【ソードバッシュ】!」
切り上げと共に生まれる強烈な衝撃波は、そのままゴールデンリザードを天高く吹き飛ばした。
「もう、流れ作業みたいになってたわね」
「あはは、五年目くらいからはそうだったかも! あっ、そうだ!」
メイは剣を片付けて、ポンと手を打った。
「そうだ! 途中に綺麗な池があってね【虎爪拳】、そこはよく意地悪な猿の魔物が【投石】出るんだよっ」
「……今、魔物の方見てた?」
「いえ、ノールックというやつでした」
「も、もう、見なくてもいいレベルなのですね」
「面白いから見に行こうよ! こっちこっち! こっちだよーっ!」
迫ってきていた魔物たちを、会話しながら片付けたメイは、うれしそうに駆けていく。
鳥型の魔物の滑空攻撃を笑顔のまま、首の動きだけでかわして尾で弾く。
食人植物を千切って投げると、軽く投じた石でハチの魔物を先んじて吹き飛ばした。
「こんな生活を、毎日続けていたのね……」
「大自然の王という言葉に、偽りはありません」
「さ、さすがメイさんですっ」
レンたちは過酷な故郷を余裕で駆けていくメイに、あらためて感嘆。
笑いながら、メイの後を追いかけていくのだった。
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