1092.救出と帰還
「やったああああ――っ!!」
トカゲの帝王は倒れた。
メイは歓喜に、【大地の石斧】を掲げて飛び跳ねる。
「すごすぎて、援護する暇もなかったわ!」
「思わず息をするのを忘れてしまいました!」
「す、すごい戦いでしたっ」
そして駆けつけてくるツバメたちと、そのまま抱き合った。
レンが頭を強めになでると、メイは「えへへ」と笑う。
「これで村の皆も、助けられるよね!」
「ええ、間違いないわ!」
「やったあーっ!」
「こ、故郷の村も、きっと元に戻りますね……!」
勝利に感激し、抱き合って喜ぶメイ。
そこに、生き残った掲示板組も集まってくる。
「さすが本物のメイちゃんだな! 間に合ってよかった!」
「最後はトカゲの王との一騎打ち……痺れたなぁ!」
「このレベルのボス相手に、正面からぶつかって押し切っちゃうなんてすごすぎぽよっ!」
「お見事でしたっ!」
スライムと迷子が、ハイタッチして歓喜の声を上げる。
「戦いの流れを考え、メイさんのステータスアップの時間を作り出す使徒長の司令塔ぶり、さすがと言うほかないな」
フッ、と笑って見せたのは樹氷の魔女だ。
「最後は、大自然の王たる力を見せつけたね」
「断崖の底に潜むトカゲの帝王でも、メイちゃんの野生度にはかなわなかったな!」
「これぞ野生の王の力だ!」
「ああっ! そこまでにしてください! わたしは野生児ではございませんっ!」
歓声を上げる掲示板組に、裸足にインナー装備で【大地の石斧】を振り回していたメイが、ブンブンと首と尻尾を振る。
その姿に、レンたちは楽しそうに笑う。
「皆さんも、よく無事で」
「あ、あの天国のような地獄を、乗り越えてきたんですね……っ」
たくさんのメイが暴れ回るという状況での散開は、今生の別れを覚悟する事態だったため、思わぬ感動を覚えるツバメたち。
メイがたくさんいる天国だけど、全部敵という地獄。
そんな感覚はツバメとまもり、掲示板組ならではのものだろう。
「俺たちも何とかメイちゃんたちの動向を追いたくて、生き残りに必死だったからな」
「時間を稼いでたら分かったんだ。変身はずっとし続けていられるわけじゃないらしい」
「なるほど、ラプラタの兵器とはそこが違うのね」
「これでもう、世界に変身トカゲたちが送り込まれることはなくなるんだな」
メイたちはトカゲの王が落とした紋様入りの魔法珠をひろうと、王座の後方へ。
そこにあるのは、一つのポータル。
「いきましょうっ!」
宝珠の輝きと共に辿り着いたのは、ひんやりした空気の地下ホール。
そこにはまだまだ大量の冬眠トカゲ兵たちが、武器を手にしたまま凍結していた。
ズラリと居並ぶトカゲ兵の姿は、まさに圧巻だ。
「すごーい……」
「まだ全てが目覚めてないのは、救いね」
パッと見ただけで数千体。
圧倒的な数を誇る、トカゲ兵たち。
続く魔法陣からさらに下の階に降りると、そこにも居並ぶトカゲ兵。
今も白く凍った箇所が残るそのフロアには、魔導士型や重装型もいる。
そしてフロアの中心には、紋様の掘り込まれた直方型の魔法結晶があった。
大きな青い結晶は、魔法陣の真ん中に突き刺さる形で鎮座している。
「この魔法結晶をここに転移で送り込んで、一気に『永久凍土』を発動したのね」
トカゲたちの弱点である、冷気の永続的な展開。
体温を下げて、そのまま眠りにつかせたところを封じてしまう。
それが、トカゲたちの世界侵攻を怖れたラプラタの戦略だったのだろう。
「止まっているこの結晶を再起動したら、あとは人質になっている人たちを連れて帰るだけですね」
うなずき合い、四人は『永久凍土』の秘石の前へ。
そして、結晶に触れる。
すると青白の光が灯り、北部地帯のような冷気の白煙が一気に広がり始めた。
これでトカゲの帝国は再び、封印されることになる。
メイたちはポータルを使って、さらに転移。
「わあっ!」
そこは、剥き出しの岩場を削って作られた広い空間。
そしてたくさんの人間たちが、閉じ込められていた。
「直接連れてこられたのは、数百人ほどみたいね。メイ、村の人たちはいる?」
「いるよ! よかった!」
「おお、君は……っ!」
「助けに来てくれたのか!」
クク・ルルの村人たちも、村クエストを受けたプレイヤーには面識ができるのだろう。
メイの姿を見て歓喜する。
「それでは、皆で地上に帰りましょう!」
地下牢のポータルを魔法珠で起動すると、視界に行き先が表示される。
メイは、パピテアの断崖上部への移動を選択。
一気にトカゲの帝国を抜け、断崖を見下ろす場所へと脱出した。
すると、帝国の様子が変わり出す。
「断崖に、氷が張っていきます」
透明度の高い氷が、あっという間にパピテアの断崖を埋め尽くしていく。
「これが『永久凍土』なのね。あとは土に覆われて、草が生えて、原状復帰が終了する形かしら」
断崖は、氷に埋められ平坦な氷の道となった。
「すごいぽよ……」
これにはスライムちゃんも、感嘆の声を上げる。
後はレンの言うように、土に埋まって見えなくなっていくのだろう。
「メイさん……!」
呼ばれた声に振り返る。
するとそこには、村のお姉さん。
どうやら無事に逃げ出した妹たちと共に、駆けつけてきたようだ。
「おねえさんっ!」
メイは手をブンブン振りながら、クク・ルル村のお姉さんのところへと駆けて行く。
「ありがとうございます……っ! 妹たちだけでなく、村の皆、そして世界の人たちまで!」
「いえいえーっ!」
「君たちがこの、大きな危機を救ってくれたんだ!」
「ありがとう。君たちは村の人たちを、世界を守った英雄だ!」
その姿を見ながら、牢を抜け出してきた世界各地の人質たちも、四人への感謝を口にする。
これにて、トカゲ帝国の冒険は幕を閉じる。
「……これであとは、村を取り戻すだけ」
そう言って、お姉さんが剣を取った。
「いきましょうっ!」
メイはうなずき、先頭を進む。
レンたちもあとに続く形で、今もなおトカゲたちに占拠されている村に向けて歩き出した。
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