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1091.王vs王

「間に合ったー!」


 ここで到着したのは、樹氷の魔女。

 スキル効果の切れた変身トカゲたちを打倒し、この場所へ駆けつけてきたようだ。

 そしてこの光景を見て、歓喜の声を上げた。


「本性が出てるぞ」

「間に合ったようだな」

「もう遅いぽよ」


 スライムのツッコミに、迷子も笑う。


「いよいよね」


 吹き出し、滝のように流れ落ちる溶岩。

 岩壁が砕け落ち、飛沫が大きく舞い散る。

 風雲急を告げる光景。

 四人で決めた連携が、トカゲの帝王のHPを3割強まで減少させた。

 帝王は怒りの咆哮一つで、全力モードに切り替え。

 その姿が、再びかき消える。


「嘘でしょ!?」

「四足状態でも、透明化のスキルを使えるんですか……っ!?」


 驚くレンとツバメ。

 次の瞬間、突然空中に現れるトカゲの帝王。

 飛び掛かり【ドラゴンクロ―】の迫力は、圧倒的。


「「っ!!」」


 これをツバメとレンは、必死の飛び込みで回避。

 しかしすぐさま放つ【アイアンテール】による回転攻撃の回避は、当然難しくなる。

 斜めに振り下ろされた一撃に、二人は早くも防御を選択。


「わっ!?」

「くっ!」


 ダメージは1割に届かない程度。

 弾き飛ばされたところで、再び姿が消える。


「後ろだよっ!」

「「っ!?」」


 次の瞬間、なんと弾かれたツバメとレンの後方から現れた。

 恐ろしい速さでの、移動と反転。

 叩きつける形での【ドラゴンクロー】は、その斬撃エフェクトで二人を斬り飛ばす。


「きゃああああ――っ!」

「ああああああ――っ!」


 共に3割に近いダメージを受けて転倒。

 レンは残りHP3割台、ツバメに至っては1割台まで減少。

 帝王は即座に【カメレオン】に移行する。


「また跳んだっ!」


 その跳躍音に、メイが注意を促す。

 全員が視線と意識を上方へ向ける。しかし。


「違う……これは移動のためのジャンプっ! 多分着地から攻撃になるよ!」


 次の瞬間見えたのは、刃の様に鋭くした尾を振り回すトカゲの帝王の姿。

 空中からの【ドラゴンクロー】ではなく、着地からの三連続の【ブレードテール】

【カメレオン】によって予備動作が見えない状況から、いきなり大きな斬撃の弧を描く。


「【不動】【コンティニューガード】! 【地壁の盾】!」


 それでもメイの言葉に反応し、まもりは見事に防御を間に合わせた。

 しかし【不動】が切れたその時、トカゲの帝王は次の攻撃体勢に入っていた。

 叩きつける前腕によって割れた地面から、噴き出す溶岩は大量。


「きゃあっ!」


 その範囲は広く、まもりは溶岩噴出に突き上げられ宙を舞う。

 3割近いダメージと共に腰から落下して、転倒を取られた。

 ここでまもりのHPも残りが4割を切る。


「一気に勝負を付けにきてます……っ!」

「この勢い、正面から対応できるレベルじゃないわ……!」


 ツバメのように消え、メイのようにアクロバティックな一撃を叩き込む。

 そしてその火力は、驚異的。


「……メイ、全開でお願いできる? 私たちで少し、時間を稼ぐから」


 そんなトカゲの帝王を前に、レンは覚悟を決めた。


「おまかせくださいっ!」


 敵がどれだけ強くとも、笑顔で返すメイ。

 レンも笑顔で応える。


「いきます!」


 先んじて動き出すのは、ツバメ。


「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】【電光石火】!」


 一気に接近して放つ斬り抜けは、回転跳躍でかわされる。


「【反転】!」


 すぐさま向き直ると、跳躍中にこちらへ身体を向けていたトカゲの帝王が、尾を振り回す。

 これをしゃがんでかわしたところに、低い跳躍から放つ【ドラゴンクロー】


「【加速】【リブースト】!」


 ツバメはさらにその下を潜って、再び【反転】


「高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 レンがすぐさま速い氷弾で、帝王の【カメレオン】使用を防止。

 すると即時の方針転換。

【ブレードテール】による、斬り飛ばしを狙ってくる。


「【かばう】【地壁の盾】!」


 これを飛び込んできたまもりが受け止めたところで、再びツバメが動く。


「【分身】!」


 現れた200体に及ぶ分身には、さすがの帝王もビクリと動きが硬直。


「【連続投擲】!」


 分身たちと同時に投じる【雷ブレード】は、合計800本。

 その中にある本物だけを回避するのは、あまりに難しい。

 仕方なく選んだ防御態勢も、【雷ブレード】には関係ない。


「ここっ! 【フリーズブラスト】!」


 感電したところにレンの魔法が決まり、吹き飛ばされるトカゲの帝王。

 こうして三人が、時間を稼げば――。


「6、7、8、9、10!」


 両手に持ったバナナを、【蓄食】によって10本一気に食べ尽くしたメイ。

【腕力】を引き上げたところで、さらにその手を大きく上げる。


「次は世界樹さん、お願いしますっ! 大きくなーれっ!」


【密林の巫女】によって、一気に育つ世界樹。

 落ちてきた真っ赤な果実を口にすれば、メイの【敏捷】も急上昇。

 見事に時間を稼いだレンたち。

 自然と、メイとトカゲの帝王がにらみ合う。


「また、これですか……!」


【カメレオン】によって、その姿が消えた。

 右側から回り込むような助走をつけ、低い跳躍。

 攻撃判定が生まれた瞬間、突然の登場と共に放たれる【ドラゴンクロー】は、これまで以上に大きなエフェクトを描く一撃。


「【裸足の女神】!」


 メイはそれを確認してから、なんと一瞬で身体の下を潜り抜けて振り返る。

 だがそこに迫るのは、こちらに背を向けたままはなつ【アイアンテール】

 メイは小さな跳躍で一撃目を飛び越え、二撃目を前方宙返りで回避。

 そして三撃目には脚を広げ、右手を地面につく形でやり過ごす。


「【裸足の女神】からの【フルスイング】!」


 超加速による特攻から、手にした剣を振り上げる。

 するとトカゲの帝王はこれを、メイのようなバク宙で回避。

 着地と同時に、反撃の【ブレイドテール】でメイを切り裂きにいく。


「っ!」


 しかしメイもこれをなんと、剣の峰で弾き上げてみせた。

 トカゲの帝王はさらに姿を消し、次の瞬間にはメイの目前へ。


「おっと!」


 叩きつける右前腕から、吹き上がる溶岩。

 メイはすぐさまバックステップ。

 するとさらに左前腕の叩きつけで、溶岩が吹き上がる。

 これもバックステップでかわしたメイに放たれるのは、【コブラファング】による喰らいつき。


「【カンガルーキック】」


 先んじて『設置』するようなジャンプ前蹴り。

 これが見事に眉間を蹴り、帝王を押し留めた。


「【モンキークライム】!」


 着地と同時にメイは帝王の腕から肩にかけて駆け上がり、そのまま跳躍。


「【フルスイング】!」


 全力で剣を振り下ろす。

 だがトカゲの帝王も、これをバックステップで回避。

 刃が、頭の数センチ横を通り過ぎた。

 そして帝王は、再び消失。

 次の瞬間、メイに飛び掛かる形で登場して【ドラゴンクロ―】を叩き込む。

 完全回避はかなわず、鋭い爪が鼻先をかすめていった。


「真正面からの、殴り合いだわ……」

「トカゲの帝王、接近攻撃は過去最高レベルですね」

「ま、まさか、こんなに恐ろしい相手だったなんて」


 再び消えるトカゲの帝王。

 その攻勢は、ツバメやレンでも驚くほどに苛烈だ。


「…………【自然回帰】」


 その速さと勢いはなんと、メイに自ら装備を吹き飛ばさせた。

 インナーと耳尻尾だけになったメイは、静かに剣を収める。


「ここっ! 【ターザンロープ】!」


 帝王の登場と同時に振り下ろされる豪快な爪の一撃をかわすと、その凄まじい反応で、敵の腕にロープを引っ掛ける。


「【大旋風】!」


 敵は巨大な大トカゲ。

 それでもメイは、容赦なく回転を開始。


「せーのっ! それええええええええ――――っ!!」


 帝王トカゲを、豪快にぶん投げる。

 地面を跳ねるようにして、バウンドしていくトカゲの帝王。

 体勢を取り直したところに、その側頭部に【王樹のブーメラン】が直撃。

 溶岩を跳ね上げながら、地面を転がった。

 トカゲの帝王は、すぐさま【カメレオン】で姿を消す。

 登場は真正面。

 そのモーションはこれまでとは違い、振り下ろされる爪は初見の真上から。

 だが見えない位置からの急な攻撃に対しても、メイの驚異的な反応は活きる。


「【装備変更】! とっつげき――――っ!」


 鹿角パリィによって、トカゲの帝王が体勢を崩した。


「ここ……っ! 【ゴリラアーム】!」


 メイは付近に転がっていた巨木を取ると、そのまま全力のぶん回しで帝王を弾き飛ばす。

 そして、投擲。

 体勢を起こした帝王は、飛んできた巨木を回避。

 跳ね飛んで回転した巨木は、そのまま地面に突き刺さった。

 両者の間に、生まれた距離。

 メイは右手を突き上げるが、先手はなんと、同じく右腕を突き上げたトカゲの帝王。


「三体同時ですって!?」


 思わずレンが、驚きの声を上げる。 

 召喚陣から現れたのは、明らかに特別な三体の白色トカゲ。


「すごい……っ!」


 召喚トカゲたちの変身に、メイが息を飲む。


「この姿、古い時代の王たちだわ!」


 天空遺跡エルラトの天井画を思い出し、思わず叫ぶレン。

 トカゲたちが変身したのは、旧獣の王、旧海の王、旧空の王の三体。

 駆け出す古い獣の王が走り出し、海の王が波を起こして宙を舞い、衝撃波と共に空の王が飛来する。

 圧倒的な光景に、飲まれるツバメたち。

 しかしメイはクラウチングスタートの構えを取ると、クイっと顔を持ち上げる。そして。


「……よ、よ」


 野生化の覚悟を決めた。


「【四足歩行】だああああああ――――っ!!」


 砂煙をあげながらの爆走。

 対して怒涛の勢いで迫り来るのは、古き獣の王。

 その突撃は、山をも砕く。


「【フルスイング】!」


 しかしメイは真正面から激突。

 全力の振り降ろしを叩き込み、古き獣の王の頭を地面にめり込ませ、粒子に変えて駆け抜ける。


「【アメンボステップ】!」


 激しい水流に乗り上げた足が、波紋を描く。

 メイは止まらず駆け進み、真正面から滑空する空の王に向かい合う。

 わずかな角度の変更は、その翼による斬撃を狙うもの。


「【ラビットジャンプ】からの【アクロバット】【フルスイング】!」


 地上に対し、身体を並行にするようなプロペラ回転跳躍。

 合わせて振り上げる剣が、古き空の王の背中を縦に斬り裂き粒子に変える。

 着地と同時に、再び生まれる水紋。

 そこへ迫るのは、長い角を持つ古き海の王。

 飛沫を巻き上げながら迫る白き巨体の特攻に対し、メイは両手で剣を握る。


「【ソードバッシュ】だあああああ――――っ!」


 全力の振り上げと共に噴き上がる猛烈な衝撃波が、古き海の王を消し飛ばした。


「メイ! まだよっ!」

「ッ!?」


 だがこの三体はなんと、お膳立て。

 最後の一撃は、突撃してきたトカゲの帝王自らによるもの。

 狂った目、豪快な跳躍。

 空中で三回転しながら放たれる【灼熱剛火爪】は、空間を切り裂くほどに強烈なエフェクトを生み出す。

 喰らえばメイとて、ただでは済まない。しかし。


「ド…………【ドラミング】だああああああ――――っ!」


 胸元を勇壮に叩けば、その防御は大きく向上。

 さらにその場を一歩も動かない、驚異の不動性も発動。

 メイは真正面から、トカゲの帝王の奥義を受け止めた。

 直後、足元から盛大に吹き上がる溶岩の飛沫。

 メイはそれを全身に浴びながら、地面に手をついた。


「【グリーンハンド】【アイヴィーシード】!」


 すると一斉に伸びるツタが、トカゲの帝王を完全に拘束。


「【装備変更】!」


 続けてメイはその手に、【大地の石斧】を掲げる。


「【地裂撃】からの【グレートキャニオン】っ!!」


 溶岩を吹き上げながら、突き上がる岩槍。

 突き上げられたトカゲの帝王は、そのまま天井に叩きつけられて落下。

 残り極々わずかなHPで、体勢を立て直すと――。

 そこにはすでに【群れ狩り】の準備を終え、仁王立ちで待つメイの姿。


「今度は、野生の王の番です!」

「王は二人、要らないわ!」

「は、はひっ!」

「――――それではみなさん、よろしくお願いいたしまーす!」


 いーちゃん、クマ、クジラ、大きな金色の狐。

 メイが、動物たちと一緒に走り出す。

 先行するのは、白い毛並みの美しいイタチのいーちゃん。


「きゅきゅっ」と鳴いて繰り出す『かまいたち』が、帝王を切り刻む。


 そこに飛び込んでいくのは、巨大なクジラ。

 弾ける大量の水飛沫と共に突撃して、帝王を弾き飛ばす。

 地面を転がる帝王を追いかけるのは、メイのコスプレをして『変身』したつもりのクマ。

 ショートカットのウィッグが外れないよう片手で頭を抑えながら、掲げた剣をそのままぶん投げる。

 そして【グレートベア・クロー】を叩き込めば、そこに駆けつけるのは金色の狐。

 咆哮一つで生まれた大量の狐火が、一斉に帝王に直撃して燃え上がる。

 駆けるメイが、覚えのない金色の狐に視線を向けると、その姿が変わる。

 すると振り返って、得意げにダブルピースしてみせたのは――。


「たまちゃん!」


 京の町で出会った橙の和服に、茶色のショートカット。

 長い耳と大きな尻尾が特徴の、狐少女だ。


「久しぶりじゃの!」


 そんな何気ない一言に、メイは思わずテンションが上がる。


「いきますっ! 最後は必殺の……【ソードバッシュ】だああああああああ――――っ!!」


 放たれる衝撃波は溶岩を吹き飛ばし、トカゲの帝王が削れてなくなってしまうのではないかという勢いで跳ね転がす。

 そしてそのまま岩壁に、大穴を穿つほどの勢いで激突。

 倒れたトカゲの帝王は、粒子になって消えていく。


「みんなー! たまちゃん! ありがとーっ!」


 メイは剣を掲げ、召喚で集まって来た仲間たちを笑顔で見送るのだった。

誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

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[一言] 論理クイズのヒント難しい、条件2、5、10がまずポイントになるかな。
[一言] トカゲ師匠 「よくぞ……トカゲ帝王の野心を食い止めてくれた。 私はずっと心残りとして、残り続けたが、メイ お前は心から信頼しあえる仲間を得て、より強くなったな」 メイ 「師匠。私はちゃんと…
[良い点] 樹氷ちゃんwwwかわいいのう。 しかしスライムちゃんはリアルでもぽよぽよ言っちゃって身バレしてそう。(そして生暖かい視線を向けるだけ) [気になる点] 800本の雷ブレードは流石に圧巻だ……
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