1090.本来の姿
透明化、そしてメイたちへの変身。
続く驚異の攻勢を跳ね返し、トカゲの帝王のHPを5割近くまで減少させることに成功。
「……我が本当の力を見せてやる。世界に覇を成すにふさわしい力、その身デ味わえ」
するとトカゲの帝王は体勢を立て直し、二本の剣が手元から消える。
「溶岩の海にその身を焼かレながら、自ラの浅慮を、無力を、脆弱な種族に生マレたことを呪ウがいい! 大地の王ハこの我だァ!」
大きく吸う息、そして放たれる猛烈な咆哮。
「ギャアアアアアアアア――――――ッ!!」
「「「「っ!?」」」」
二メートル半ほどだった体躯が、盛り上がるようにしてあっという間に巨大化していく。
その叫びに反応するかのように、天井や壁から溶岩が噴き出し、流れ出す。
斜陽の庭園から、赤熱の処刑場へと変わった帝王の間。
立ちふさがるのは、【始祖帰り】した四足の黄金トカゲ。
「ここからが本当の勝負だね。皆を、村を、返してもらいますっ!」
宣言と共に、気合を入れ直すメイ。
対してトカゲの帝王は、その目を煌々と怪しく輝かせると、猛然と走り出した。
「速い……っ!」
大型だがやり過ぎでない体躯は、レンの予想通り速い動きを武器とするもの。
速くそして強靭な跳躍は、やはり半端ではない。
土を跳ね上げながら、一瞬で接近しての攻撃。
爪の部分変化【ドラゴンクロ―】を、轟音と共に振り下ろす。
「【アクロバット】!」
豪快に飛び散る土煙の中、メイは大きなバク転で回避。
ツバメは後方への【跳躍】で、この一撃をかわす。
強烈な三本の斬撃エフェクトと共に放たれた一撃は、そのまま地面に深く傷を残した。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
レンの反撃を、見事な側方回転で回避。
そこから放つ【アイアンテール】は、鉄のように硬化した長い尾による叩きつけ。
ムチの様にしなる縦の攻撃を、メイとツバメは左右へのステップでかわす。
しかし互いの着地直後。
続く【ブレードテール】は身体の回転に遅れる形で、超高速の斬撃が円形に駆けめぐる。
「「ッ!?」」
イチかバチかの伏せが活きる。
今回はその軌道が偶然高めだったため、メイとツバメは運良く回避に成功した。
「これはまた、幸運を一気に消費してしまったかもしれません……!」
普通のプレイヤーなら、【ドラゴンクロ―】から【アイアンテール】をかわした時点で、拍手もの。
続く【溶岩流ブレス】は、水鉄砲を左から右へ払うような形での攻撃だ。
同時に腕立てのような形で、起き上がる二人。
顔を上げながら起き上がったメイは、いち早くその攻撃に気づきツバメの両手を取る。
「メ、メイさんっ!?」
「せーのっ!」
「【跳躍】!」
「【ラビットジャンプ】!」
二人両手をつないで、一緒にジャンプ。
溶岩噴射を、見事に回避してみせた。
しかしトカゲの帝王は、さらに攻撃を続ける。
地面を擦る形で尾を振れば、溶岩の飛沫が豪快に払われる。
「ツバメちゃんもう一回!」
「はいっ!」
二人は手を取り合ったまま、もう一度ジャンプ。
「もう一回!」
「はいっ!」
「……あっ!!」
大縄跳びのような連続跳躍で、弾け飛ぶ溶岩飛沫を越えるが、またもトカゲの王はディレイを仕掛けてきた。
反応が早いゆえにメイはこれに引っかかり、着地際の飛沫に防御の選択を強いられる。
「わあっ!」
「っ!」
メイは身代わりになろうとツバメを抱きしめるも、二人同時に被弾。
両者共に、HPを1割ほど奪われた。
それでも意識は切らさない。
続く尾の強烈な叩きつけをしっかりかわすと、溶岩が豪快な噴き上がる。
その範囲は思ったより広く、降り注ぐ溶岩の雨の中、メイとツバメは防御で我慢する他ない。
さらにHPを、5%ほど削られた。
この隙を突き、トカゲ帝王は特攻を仕掛ける。
次の狙いは、レンたちだ。
「【解放】!」
この流れを予期していたレンは、早めに仕掛けを施していた。
今まさに【設置魔法】の上を駆け抜けようとするトカゲの帝王を前に、【フリーズブラスト】が吹き上がる。
「跳んだっ!?」
これを高く大きな跳躍でかわすトカゲの王は、そのまま空中で三回転。
そのまま【ドラゴンクロー】を叩き込みにくる。
「【不動】【クイックガード】【地壁の盾】!」
激突。
猛烈な火花を散らして、強靭な爪の一撃と盾がぶつかり合う。
「盾っ!」
直後、すぐさま二発目の攻撃に合わせに行ったまもりに放たれる【コブラファング】
それは喰らいつきから持ち上げ、叩きつけるという『投げ』の効果もつ攻撃だ。
まもりはそのまま、地面に叩きつけられて転がる。
ダメージは2割弱。
「きゃあああっ!」
しかし振りかぶりからの叩きつけには、若干大きなモーションが必要となる。
「ここで一度、流れを切らせてもらうわ!」
まもりが作り出した隙は、ムダにしたくない。
「【滅多打ち】【フリーズストライク】!」
レンはMP消費の高さを無視して、猛烈な勢いで氷砲弾を発射。
輝く白氷塊をトカゲに撃ち込み、撃ち込み、体勢が崩れても連射をとめない。
帝王が倒れ込んでも、容赦なく叩き込む。
そしてそのまま激しく転がったところでようやく、杖を払って下ろした。
「まるでメイのような、野生的な速さとパワーね……!」
どうにか帝王の猛攻を止めると、この隙にまもりが戦線に駆け戻る。
「ありがと、まもり。どうにか流れを切れたわ」
「い、いえいえっ! 私なら何度でも……っ。それにしても、とんでもない暴れん坊ですね……!」
苦笑いしながら杖を持ち上げたレンに、まもりも息をつきながら応えた。
「さあ、次はどうくる?」
体勢を直したトカゲの帝王は、右手を強く地面に叩きつけた。
そのまま体重をかけると、手がガクンと地にめり込む。
足元に駆ける灼熱は蜘蛛の巣のように広がり、流れる溶岩の川を生み出した。
そして、得意の低い跳躍。
「【不動】【地壁の盾】!」
【ドラゴンクロー】を止めたまもりは、続く攻撃が【コブラファング】と認識。
「【シールドバッシュ】!」
早めの衝撃波でけん制する。
しかしその場で止まったトカゲの帝王は、駆けつけてくるメイとツバメの姿を見て【アイアンテール】で攻撃。
これを受けたまもりは大きく後方へ弾かれ、レンを巻き込む形で倒れ込む。
「「っ!!」」
溶岩流は、踏むだけで高いダメージを受けるギミック。
触れ続けるとすさまじい速度でHPが削られて、最悪そのまま死に戻ることもある。
「レンさんっ!」
続く攻撃は、溶岩液砲。
まもりは溶岩に踏み込んだまま、その場で盾を構えて防御する。
直後、弾けた溶岩が飛び散り、背後の木が倒れて大きく燃え上がった。
「【クイックガード】【天雲の盾】盾盾盾っ!」
削られていくHPを気にしながらも、まもりは全てを受け止め弾く。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
その事態に気づいたメイが、大急ぎで溶岩流を飛び越え接近。
「【フルスイング】!」
大きな斬り払いを、トカゲの帝王は短いステップで回避する。
「【加速】【リブースト】!」
反撃の跳躍から放つ【ドラゴンクロー】に、ツバメは溶岩を蹴り上げながら突進。
「【斬鉄剣】」
溶岩の上に足を置いたまま、空中のトカゲの帝王に豪快な剣撃を叩き込む。
その一撃で、尻尾が斬れ飛んだ。
「【トカゲの尻尾切り】だわ……っ!」
「ツバメちゃんっ!」
【斬鉄剣】は硬直が長く、それだけ足場の溶岩にHPを奪われることになる。
メイはすぐさま飛び込んで、ツバメを抱えて溶岩流を飛び出した。
「ありがとうございます……っ!」
即座に溶岩弾を連発するトカゲの帝王に対し、駆け出したのはまもり。
「【コンティニューガード】【天雲の盾】【チャリオット】!」
弾け飛ぶ溶岩を受け止めながら、【チャリオット】で突進。
「【シールドバッシュ】!」
そのまま衝撃波によって、敵の体勢を崩した。
「メイさんっ! おねがいしますっ!」
「はいっ!」
そんなまもりの声に応えて、左側を抜けていくメイ。
「【フルスイング】! ツバメちゃんっ!」
豪快な振り降ろしを決めたメイは、振り返らずにツバメを呼ぶ。
「はい! 【雷光双閃火】!」
まもりの右側から駆けてきたツバメが、二本の短剣を突き刺す。
「レンさんっ!」
「【低空高速飛行】」
そしてツバメが、レンを呼ぶ。
「準備はできてるわ【魔眼開放】っ!」
その目をまばゆい黄金に輝かせながら、接近。
「深き大地に棲まうのは、龍尾、灼眼、贋作の統治者。無謀を騙り、不遜を歩むなら、世界は混濁し、反駁し、孤立する。控えよ古き王。汝は今……深淵が盟主の前にいる――――」
レンまでもが溶岩流に足を突っ込み、飛沫を上げながら魔力の刃を突き刺した。
「――――【ナイトメア】」
付近から一斉に集まった、闇色の輝きが集束。
数十センチほどの球体にまで収縮した魔力が、一瞬制止する。
そして放たれる円環の波動が二度ほど広がった後、臨界を迎えたエネルギーが爆発を巻き起こした。
吹き飛ぶトカゲの帝王。
「おおーっ! みんなナイスーっ!」
連携を叩き込んだ四人は、いつものようにハイタッチを決める。
「一進一退。いい戦いです……!」
「まもりが起点になってくれたわね!」
「溶岩に結構、持っていかれてしまいました……っ!」
三人は笑いながら、肩を抱き合うのだった。
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