1089.帝王戦Ⅱ
「【カメレオン】」
「消えました……っ!」
背景に同化するように、消えたトカゲの帝王。
「スキル名で何をしたか分かりやすいのが、せめてもの助けね……! 間違いなく風景に同化している形だわ! 突然の攻撃に注意して!」
身体を付近の風景と一体化させる、そのスキル。
緊張が張り詰めていく。
「足音も、ほとんど聞こえないよ……っ!!」
「【大回転斬り】」
突然の登場は、メイたち前衛組の斜め後方。
メイは視界の範囲内だったために、【ガイアの剣】による熱線斬撃をしゃがみで回避。
「くっ!」
一方のツバメは間に合わず、肩から首にかけて直撃。
2割に迫るほどのダメージを付けた。
即座に攻撃へ向かうメイだが、トカゲの帝王は【古代樹の剣】を巨大化して一回転。
メイの足を止め、再び姿を消す。
その足音はかなり小さく、メイが集中しないといけないレベルだ。
「ツバメの【隠密】みたいに、『攻撃判定』が出てから透明化が解除されるのね」
これでは、常に先手を取られるのも無理はない。
「ツバメさんっ!」
あがった叫び声は、まもりのもの。
ツバメはすぐさま視線を走らせ、トカゲの帝王の位置を把握。
手にした【古代樹の剣】の剣は、縦か横か。
その軌道に集中。
迫る巨大化剣の振り降ろしを、横のステップでかわす。
地面が揺れるほどの攻撃に耐え、顔を上げると再び消えるトカゲの帝王。
次の瞬間、左斜め前に突然の登場。
【ガイアの剣】による熱線斬撃に対し、ツバメは斜め後方への跳躍で回避を選んだ。
「ディレイ……っ!」
ツバメの反応が早かったからこそ選べた、後方への跳躍での回避行動。
だがトカゲの帝王は、ここまで登場即攻撃という流れを裏切り、こちらの動きを見ての熱線攻撃を選択。
「【エアリアル】!」
これを二段ジャンプでかわすツバメだが、二刀流ゆえの速い次撃が迫る。
「ああああっ!」
大型化した【古代樹の剣】による振り降ろしに弾かれて、倒れ込む。
さらに1割を超えるダメージを加算。
「【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」
すぐさま、追撃の防止にかかるレン。
魔法の回避と同時に消えたトカゲの帝王は、狼になってレンの後ろから現れた。
「透明化を、変身で解除することも可能なの!? きゃああああっ!」
「レンちゃんっ!」
【喰らいつき】からの放り投げで、レンが地面を転がる。
ダメージは2割超え。
まもりの後ろにいたレンの、さらに後方から来られたのでは防御が難しい。
しかも【カメレオン】に【変身】まで織り交ぜられると、何で攻撃してくるのかまるで分からない。
あまりにやっかいな攻撃だ。
そのまま姿を消すトカゲの帝王。
メイは視線を走らせて草などの揺れを確認しながら、音に意識を集中。
ようやく聞こえた、奇妙な風切り音。
「っ!」
顔を上げた時には、すでに『翼竜』になっていたトカゲの王が、そのまま滑空突撃。
「わあああああ――っ!」
「くっ」
虚を突かれたメイが1割のダメージを受け、ツバメも翼に弾かれ転がった。
「人間では、ここまでが精々であろうな」
姿を戻したトカゲの帝王は、まるでこちらを見下すように笑うと、姿を消した。
どちらの剣か、どんな姿での攻撃か、誰に向けてするのか、姿を現すまで分からない。
完全に、防戦一方だ。
「……メイ」
しかしレンは、こんな大変な戦況でも打開策を考え続けていた。
「あの子なら、いけるかも」
「そっか!」
レンの言葉に、その意図を察したメイ。
反撃の気配に、すぐさま右腕を突き上げる。
「それでは大きな拍手でお迎えください! ――――虹蛇さんです! どうぞーっ!」
【召喚の腕輪】が輝くと、生まれる魔法陣。
メイが元気に拍手で迎えると、出て来たのは、鮮やかな色をした一匹の大蛇。
一見、敵などいないかのように見えるこの状況。
しかし虹蛇は、迷うことなく特攻。
そのまま頭突きのような、体当たりをかました。
「ないすーっ!」
「やっぱり! ヘビなら目だけじゃなく、温度で敵を見つけることができるっ!」
姿を消していたトカゲの帝王を弾き飛ばすと、その正体があらわになる。
歓喜の声を上げる、メイとレン。
「【加速】【リブースト】【妖刀化】! 【稲妻】【反転】【旋空】【三日月】!」
ツバメはすでに、駆け出していた。
妖刀と化した【村雨】で斬り抜け、反転して連撃を叩き込んだところで、虹蛇が噴き出す盛大な毒液。
【妖刀化】による攻撃の効果で、トカゲの帝王が【劇毒】状態となった。
「いきますっ! 【装備変更】【曲芸連射】!」
【白鯨の弓】によって放たれる【痺れ矢】が、通常とても難しいボスの状態異常を可能とする。
右足の麻痺によって、動けなくなったトカゲの帝王。
そこに再び、ツバメが迫る。
「【アクアエッジ】【瞬剣殺】!」
「【フリーズブラスト】!」
幾筋もの水刃を叩き込み、続く氷嵐が凍結を奪う。
そして最後は、まもりの【マジックイーター】だ。
「【フリーズブラスト】!」
二連発の氷嵐は、白氷の輝きと共に、トカゲの帝王を吹き飛ばした。
「ありがとーっ!」
メイが頭をなでると、虹蛇は嬉しそうに長い尾を振り、付近の木の陰へ消えていった。
続く攻撃に、トカゲの帝王のHPは7割を切る。
「「「「ッ!?」」」」
突然の尾の振り回し。
砂煙が、大きく巻き上がった。
視界が晴れたところで、四人は驚愕する。
トカゲの王が、いない。
そしてこちらは――――5人になっている。
「メイさんが、2人いますっ!」
違和感の正体に気づいたツバメが、すぐに声を上げる。
「メイ!」
「「はいっ!」」
「こ、声も完全に同じですっ!」
とっさのレンの呼びかけに、答えたメイの声は全く同じ。
トカゲの帝王が見せる、声も含めた完全コピーに驚愕しながらも、考えることは皆同じ。
それは、一撃死の回避だ。
「くっ」
先行して剣を掲げたメイの狙いが、もう一人のメイだったことが事態を難しくする。
剣を向けたのがレンたちにであれば、それは間違いなくトカゲの帝王が化けたメイだ。
だが『本物のメイ』が『偽物のメイ』に攻撃しようとしている可能性がある以上、この状況では判断ができない。
「【ソードバッシュ】!」
「【ソードバッシュ】!」
輪唱のような発声。
ぶつかり合う猛烈な衝撃波に、思わず3人大きく体勢を崩す。
そしてすぐさま、メイは次撃へのモーションに入った。
「「「「っ!?」」」」
「【ソードバッシュ】!」
だが剣を掲げたメイは、突然振り返ってレンたちの方に剣を振り下ろす。
「【かばう】【地壁の盾】っ!」
まもりは大慌てで、レンの前へ。
「【加速】【リブースト】!」
ツバメは超加速でその後ろに駆け込み、通り過ぎそうになるところをレンに捕まった直後。
「きゃあああああっ!」
爆発的な衝撃波が、【不動】が間に合わなかった三人を大きく吹き飛ばす。
「【バンビステップ】!」
「【バンビステップ】!」
それを見た、二人のメイは同時に走り出す。
追撃に動くメイと、それを止めようとするメイ。
「下がって!」
普通であれば、退避を促すのは本物だろう。
だが帝王が先んじて「逃げろ」と言うことで、かく乱している可能性もある。
「これは……っ! 一体どっちのメイさんが本物ですか!?」
正面から迫る二人のメイに、狙い通り悩むツバメ。
しかし、レンはそれでも慌てなかった。
「メイ! 貴方のジョブは何!?」
「野生児!」
「や、野生児……です……」
「ツバメ!」
「はい! 【連続投擲】!」
「【ラビットジャンプ】!」
ツバメはすぐさま、【雷ブレード】の四連発でメイを攻撃。
それを跳躍することでかわしたメイに、レンが照準を合わせる。
「【フリーズストライク】!」
空中での回避は、いかなメイとはいえ不可能。
氷砲弾を喰らったメイは弾き飛ばされ、地面を転がった。
そして、変身が解ける。
「すごーい! 何で分かったのー!?」
レンたちのもとに駆けつけた本物のメイは、不思議そうな顔をする。
「自分のことを一瞬の迷いもなく『野生児』だと言えるのは、偽者よ!」
「…………」
笑うレンに、こくこくとうなずくまもり。
一方トカゲの帝王は、すぐさま立ち上がり変身を続ける。
「気をつけて! 今度はツバメになったわ!」
「【加速】【リブースト】」
やはり声まで完全コピーの偽ツバメは、一気に距離を詰めてくる。
「でも、中に潜り込まなければ――!」
「【分身】」
「ッ!?」
三体の分身と共に跳躍したツバメは、そのまま短剣を手に取った。
これを受け止めに向かうのは、まもり。
その姿を見たメイが、声を上げる。
「二番目だよっ!」
跳躍した瞬間に『踏み切る音』がした個体を、判別したメイ。
その言葉に従い、まもりは二体目のツバメの攻撃に対応。
「【連続投擲】」
「【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾っ!」
攻撃は意外にも、ブレードの投擲。
まもりはその全てを受け止めたが、【炎ブレード】と【風ブレード】による攻撃は、強い炎を巻き起こした。
その、直後。
「っ!?」
まもりに【雷ブレード】が突き刺さって動きが止まる。
「【不可視】からの【跳弾投擲】ですか……っ!」
炎を巻き上げて視界から一時的に消え、その隙に着地して【不可視】でブレードを消す。
そして足元に跳弾させて、盾の下から攻撃を当てる。
あまりに見事なスキルの使い方に、驚くツバメ。
「【変身】」
トカゲの帝王は、攻勢に出る。
今度はその姿をレンに変え、【ヘクセンナハト】を握った。
「【フレアバースト】」
そして硬直状態のまもりに、そのまま爆炎を叩き込む。
「きゃあああああ――――っ!!」
巻き起こった爆炎がまもりのHPを2割ほど削り、吹き飛ばす。
さらに燃え上がる炎の中を、偽レンは【低空高速飛行】で追いかける。
炎が消えると、そこには二人のまもりがいた。
「【ローリングシールド】!」
「【地壁の盾】!」
盾と盾、火花を散らす両者。
「また、この展開ですか……っ!」
今回もどちらが本物か分からないレベルの、完璧な変身ぶりだ。しかし。
「まもりちゃん!」
「ッ!!」
メイがその手に【原始肉】を取りだすと、片方のまもりだけ明確に反応した。
「【加速】!」
「【バンビステップ】!」
ツバメとメイは、【原始肉】にまったく興味を示さなかったまもりに照準を絞って特攻。
すると完全に自分を狙いに来ていることに気づいたトカゲの帝王は、再び変身。
その姿をまたレンに変え、【ヘクセンナハト】を構えた。
「【フレアバースト】」
広範囲化の杖をこの位置で向けられては、回避はかなり難しい。
もちろん大きく避ければまた、変身地獄の始まりだ。
「【裸足の女神】!」
そんな中、特攻を選んだのはメイ。
それでも剣一本分、攻撃を当てるには遅いタイミング。
そんな状況でメイは、剣を軽く振り上げた。
「「「ッ!?」」」
メイの剣はギリギリで、杖の先端を軽く弾いて持ち上げた。
そうなれば杖の角度が変わり、魔法は空に向けて放たれる。
爆炎は、メイの猫耳の数センチ上を通り過ぎていく。
「魔法を避けるんじゃなくて、杖の角度を変える……! 初めて見たわそんなの!」
レンの驚きの声と共に、空に燃え上がる紅蓮の炎と、舞い散る火の粉。
「【分身】!」
即座にメイを追い抜いていった一人目のツバメが、【稲妻】で高速接近。
再度まもりへの変身を果たしたトカゲの帝王は、盾で受け止めようとするが感触はなし。
慌てて、左方から回り込んできた二人目のツバメに対応。
だが受け止めたはずの短剣が、陽炎のように消える。
すると三人目のツバメが、【スライディング】で足元を滑っていった。
攻撃すると見せかけてのフェイントに、引っかかる偽まもり。
四人目が放つのは、一撃必殺の【斬鉄剣】
「【不動】【地壁の盾】!」
だが、間に合う。
盾を構え、しっかりと【村雨】の軌道に合わせて防御を展開。
完璧な形で突き出された盾は、刀にぶつかって――――すり抜けた。
「【反転】」
聞こえた声に振り返る。
そこには三番目に【スライディング】で抜けて行った本物のツバメが、刀を大きく引いていた。
「――――【水月】」
さすがに背中を取られた状態からでは、間に合わない。
伸びた水流の刃は偽まもりを貫き、変身が解けたトカゲの帝王は、そのまま宙を舞って転がった。
「おおーっ! すごーい!」
「悪いけど、私たちに変身攻撃はあんまり有効じゃないみたいね」
レンはそう言って、笑う。
それは事実半分、メイに変身した状態で固定されると困るからやめさせたい半分の言葉だ。
「お互いを知っているからこその、攻略法でしたね」
ハイタッチのポーズで待っていたメイと、右、左、両手と三度、パチンと手を打ち鳴らす。
そして、うれしそうな笑みをこぼすツバメ。
「……これってレンちゃんを判別しなくちゃいけない時は、どうやって見分ければいいのかなっ」
そんなメイの問いに、ツバメは悩みこともなく答える。
「レンさんなら、『決めポーズおねがいします』の一言で――」
「悪いけど、変身攻撃は全っ然有効じゃないから! もうやめて! お願いだからーっ!」
あまりに不穏な、メイとツバメの会話。
レンはさっきよりも強めに、トカゲの帝王に向けて叫んだのだった。
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