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1088.帝王戦Ⅰ

「選定は貴様たちから始めよう。人間の勇者よ、特別に選ばせてやる。奴隷たちの頭首となるか、ここで我が牙の餌食となるかをな」


 余裕と自信、そして何より邪悪な笑みを浮かべたトカゲの帝王が問う。


「どっちも選びませんっ!」


 メイはきっぱりと、これを固辞。

「提案を受けたら世界の半分をもらえたりするのかしら」と、笑いながらレンが杖を構える。


「トカゲの帝王と、トカゲ狩りの王。面白くなりそうです」

「で、できれば、シンプルな攻撃でおねがいします……っ!」


 ツバメが両手に短剣を持ち、まもりが盾を持ち上げる。

 木々の並ぶ道を通ってくる際に、四人の準備は完了済みだ。


「ならば消えろ、弱き人間ども」


 その目が鋭く細められ、大地が揺れ出す。

 緊迫していく空気。


「貴様たちの時代は、今この瞬間より終焉を迎える!」


 裂ぱくの咆哮。

 トカゲの帝王との、戦いが始まった。


「「「「っ!?」」」」


 いきなり吐き出された【溶岩弾】が、銃弾のような速度で飛来する。


「【天雲の盾】!」


 盾にぶつかった【溶岩弾】は炸裂し、派手に飛沫を上げて炎上。


「きゃあっ!」


 ダメージこそないが、大きくあがった炎に思わずまもりの足が止まる。


「【バンビステップ】!」


 ここで飛び出したのはメイ。

 受けて立つことを選んだトカゲの王が、正面からぶつかり合う。

 メイの振り降ろしから続ける振り上げを、トカゲの帝王は左右へのバックステップで回避。


「【フルスイング】!」


 そして豪快なエフェクトを描く払いの一撃を、後方に倒れ込む形で避けると、そのまま足を蹴り上げる変則のバク転で体勢を取り直す。

 その機敏な動きは、まるでメイの様だ。

 振り払いを上手にかわしたトカゲの帝王は、手にした剣で反撃に出る。

 掲げた瞬間、赤熱を始めるのは【ガイアの剣】

 シンプルな振り払いは、明らかに刃の届かない位置から。


「っ!」


 振り払いと同時に放たれた赤熱の剣撃を、メイはしゃがんでかわす。

 続く斜めの振り上げ二連発は、そのまま転がって回避。


「剣が、もう一本!?」


 レンが思わず声を上げる。

 ここでトカゲの帝王は、突然の長剣二刀流を開始。

 左手に取り出した【古代樹の剣】は、メイの【蒼樹の白剣】と似た効果を持つ。

 長さ5メートル、幅1メートルほどになった大剣を、トカゲの帝王は派手なエフェクトと共に振り下ろしてきた。


「うわわわわわーっ!」


 メイはこれを、必死の横っ飛びで回避。

 スレスレのところで、ダメージを回避した。


「さすが帝王ともなると、装備が豪華ね……っ!」

「さらにメイさんと、剣を打ち合えるほどの実力ですか……っ!」


 トカゲの帝王の攻撃は続く。

【ガイアの剣】の振り降ろしを、メイはサイドステップ一つでかわす。


「大きくなーれ!」


 そして【蒼樹の白剣】で、放つ振り回し。

 トカゲの王は、これをとっさに伏せることでかわす。

 伏せてしまったら、その直後は自然と窮地になる。

 メイは流れのままに剣を掲げ、そのまま振り下ろしにいく。しかし。


「痛っ!?」


 なんとトカゲの帝王は尾の『振り回し』で、メイを強く突いてみせた。

 まさかのカウンターで、二歩ほど下がったメイ。

 この隙に立ち上がったトカゲの帝王は、右手の【ガイアの剣】による赤熱斬撃を仕掛ける。

 駆け抜ける灼熱の剣撃が、とっさに首を傾げたメイの頬を焦がしていく。

 さらにもう一回転しての振り払いも、バク転でかわす。

 すると続けざまに、左の手の【古代樹の剣】を巨大化させて振り払ってきた。

 これをしゃがんでかわしたメイは、剣を振り上げる。

 トカゲの帝王も、これに合わせるように【ガイアの剣】を払う。


「【アームフリップ】」

「あっ!」


 剣がぶつかり合うかと思いきや、トカゲの帝王はパリィ型のスキルを使用。

 メイの剣を、高く弾き飛ばした。

 予想外の流れに驚くメイに、帝王は煌々と輝く【ガイアの剣】で攻撃。


「【かばう】【地壁の盾】!」


 それを見たまもりは、すぐさま反応。

 一瞬でメイの前に割り込み防御に入るが、その驚異的な対応力がアダとなる。


「【アームフリップ】」

「っ!?」


 帝王のスキルは武器だけでなく、手持ちの装備品も弾く技。

 的確な防御は見事なまでにトカゲの王の剣を捉え、盾が飛ばされる。

 これだけでは、止まらない。

 身体に完全なまでに染みついた防御の感覚が、続く【古代樹の剣】による攻撃にも反応。


「【アームフリップ】」

「ああっ!」


 分かっていても止まらない。

 まさかの連続【アームフリップ】に、完璧なタイミングで突き出した左の盾も飛ばされた。

 トカゲの帝王は【ガイアの剣】を振り上げて、駆ける赤熱の斬撃でメイを先んじて足止め。


「【大回転斬り】」


 そこから大型化させた【古代樹の剣】を、全力で振り回す。


「きゃああああっ!」


 三枚目の盾の取り出しは間に合わず、まもりが弾き飛ばされた。

 そのダメージは、1割ほど。


「【加速】!」


 それを見たツバメが、すぐさまフォローに入る。


「【連続投擲】」


 四連続の【雷ブレード】は、さすがにトカゲの王も慎重を期し、回避に集中。


「【低空高速飛行】!」


 その隙にレンが、盾の回収に向かう。


「あ、ありがとうございますっ!」

「いつも私を守ってくれる、まもりの盾だもの!」


 そう言って笑うレンに、うれしく恥ずかしくなるまもり。

 一方のメイは、ツバメの矢に足止めされたトカゲの帝王を狙って、【白鯨の弓】を取り出し放つ。

 矢が頬をかすめたトカゲの帝王は、すぐさまメイを追う。しかし。


「【バンビステップ】!」


 メイはジクザグに下がり、程よい距離から矢を放っていく。

 そしてそのまま、木々の道の方へと下がる。


「【ラビットジャンプ】【アクロバット】」


 まずは3発。

 そこから一度トカゲの帝王との間に木の幹を挟み、弓矢を構え直す。

 そして再びトカゲの帝王が見えたところで、2連発。

 そのうち2発がかすめたトカゲの帝王は一気に進み、メイの前に踏み込むことに成功。しかし。


「【モンキークライム】!」


 メイは後方の木を蹴り上がると、後方へ跳躍しながら矢を放つ。

 さらに別の枝に飛び乗ったところで、もう一発。

 弓の名手ローランでも感嘆するだろう、枝を飛びながらの攻撃。

【炸裂矢】が肩を弾いたところで、トカゲの帝王は戦いを変えてくる。


「【灼火大切断】」

「ええっ!?」


 トカゲの帝王の狙いはなんと、メイを大木ごと斬り飛ばすこと。

【ガイアの剣】による斬り払いは、大木を容赦なく切断した。

 すると切れ目に合わせてズレ始めた大木が、ゆっくりと倒れていく。

 慌てて、木から飛び降りるメイ。

 トカゲの帝王は【ガイアの剣】を手に、一気に距離を詰めてくる。


「うわっ! うわわっ!」


 メイは連続のバックステップから、そのまま【アクロバット】によるバク転で赤熱の斬撃を回避。


「メイさんっ!」


 ツバメの叫び声は、下がるメイに向かって倒れ込んでくる大木への注意を促すもの。

 トカゲの帝王は攻撃を続け、十分に倒木を引き付たところで、急なサイドステップで回避。

 大木はそのまま、メイを押しつぶした。

 まさかの事態に、言葉を失うツバメたち。しかし。


「……【ゴリラアーム】」


 両手で大木を受け止めたメイは、その指先をしっかり幹に引っ掛けて気合を入れる。


「いきますっ!」


 そして抱え上げた大木を、そのまま振り下ろす。

 トカゲの王は、これを速い側方への疾走で回避。

 するとメイはさらに、大木を手にしたまま振り払う。

 土煙を巻き上げながら迫る一撃に、トカゲの帝王は弾き飛ばされた。

 メイは大きく踏み込み、大木を全力で振り下ろす。


「【フルスイング】!」

「【切断大回転】!」


 そしてメイの振り降ろしと、トカゲの帝王の赤熱の剣が交差した。


「「「っ!?」」」


 大木はさらに切断され、飛んでいった巨大な切り株のような木片が、ツバメたちの真横を跳ね転がっていった。


「こんな光景、メイじゃなきゃ絶対に見られないわね」

「まさに、王様同士の戦いです……っ」

「か、肩の横を、大木が転がっていきました……!」


 まさかの打ち合いの後、互いに距離を取る両者。

 この隙にしっかりと【蒼樹の白剣】を回収していたツバメが、メイに届けに向かう。


「ありがとーっ」

「っ!」


 そして直前の怒涛の打ち合いが嘘のような、いつも通りの笑顔に思わず驚くのだった。


「どうやら大司教たちを討った力は、本物のようだな……だが、これならどうだ……?」


 振り返ったトカゲの帝王が尾で地面を叩くと、一瞬で土煙が舞い上がった。

 メイは耳を澄まし、レンはまもりの背後へ。

 ツバメは意識を集中し、敵が見えた瞬間に【瞬剣殺】を放つことでの対応を狙う。


「【カメレオン】」


 聞こえた帝王の声。

 緊張感の中、やがて土煙が消えると――。


「き、消えてしまいました……っ!」


 トカゲの帝王は、その姿を消していた。

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