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1087.最奥へ

「戦いの音が、激しくなった気がする」


 メイが、猫耳を動かしながらつぶやく。


「密林では、何か変化があったのでしょうか」


 偽メイ100体地獄を駆け抜けたメイたちは、密林の奥にある舗装された道で後続を待つ。


「……誰も来ないわね」


 だが後続は、なかなかやってこない。


「こ、ここにいるとまた、別の個体が来てしまいそうです」


 うなずき合うメイたち。

 仕方なく四人は、壁に『先行の印』を残して先へ進むことにした。

 紋様の刻まれた石造りの道を進んだ先に、下り階段。

 神殿へ続くような道を下っていくと、長い石の橋にたどり着いた。

 その左右には、流れ落ちていく溶岩の滝。


「一気に、雰囲気が出て来たわね……」


 紋様の道に、暗い洞穴、そして大量に流れ落ちる溶岩。

 その先に据えられた両開きのドアにも、紋様が刻まれている。


「ここでも、私が先頭になるの……?」


 自然とレンの後ろに並ぶメイたち。

 苦笑いのレンが重いドアに触れると、宝珠が輝き紋様に光が駆ける。

 そして、ゆっくりと開いていくドア。


「……っ!?」


 思わずのけ反ったのを見て、即座にまもりがレンの前に立ち盾を構える。

 メイとツバメが、すぐさま武器を手に特攻。

 しかし進んだ先にあったのは、特殊な石材で作られた牢。

 灰色の石材で作られた、冷たく四角い空間に、照明の炎宝珠が静かに光る。

 そこには、詰め込まれた人質たちの姿があった。


「ああっ、あの子は!」


 さらにそこへ、やってくる捕虜たち。

 荷を運ばされている者たちの中に、メイは見覚えのある村人を発見をした。

 台車に乗せた武器を運ばされている人質の一人は、村のお姉さんの妹だ。

 少女には冬眠トカゲ部隊が使う物なのであろう斧は重く、体勢を崩して倒れ込んだ。


「大丈夫ー?」


 メイが駆け寄ると、少女は驚いたように目を見開く。


「あなたは……冒険者さん」


 フラフラの少女は、どうにか斧を台車に載せようとするが、重くて思うように持ち上がらない。

 そんな光景を見て、一緒に武器を運んできた人質たちが声を上げる。


「どうやらトカゲたちは、俺たちを選別しようとしているみたいなんだ」

「選別とは、どういうことでしょうか」

「利用できない人質は、溶岩に落として捨てていくつもりのようだ」

「ええっ!? そんな!」

「そうなったら……」


 武器の運搬もできない妹少女に、向けられる憐憫の視線。


「トカゲたちは本当に、世界中に増援を送って征服を目指してる。そのために使えそうな人間だけ利用しようって感じなのね」

「ちょっと待っててね! 絶対に助けるからっ!」


 失敗すれば、あの村から妹少女が失われる。

 そんな可能性が頭をよぎったメイは、思わず身震い。


「頼む……っ!」

「よろしくおねがいしますっ!」


 そして感極まりながら頭を下げる捕虜たちを前に、気合を入れ直す。


「みんなで一緒に帰りましょう!」

「はい! 俺たちはとりあえず、何事もなかったかのように武器を運びます。皆さんの勝利を祈りながら……!」

「冒険者さん……がんばってね!」

「おまかせくださいっ!」


 少女たちは、上階の冬眠トカゲたちのもとへ武器を運んでいく。

 その姿を見送ってから、メイたちも再び歩き出す。

 階段を下り、石床の道を真っ直ぐに。

 やがて左右に石柱が並び出し、その最奥には紋様の描かれた床があった。

 乗れば光が灯り、四人は転移する。


「ここは……」


 大司教が儀式を行おうとしていた、密林の空間を思い出す。

 広大な地下空洞は、外部から取り込んだ光を増幅させる宝珠によって、夕刻のような明るさになっている。

 岩壁からは各所から流れ出す水は、小さな滝のようだ。

 高い岩壁から続く天井にもツタや根が伸び、広がる草原の真ん中には、一本の道を作るかのように並ぶ大きな樹木たち。

 それはまるで、寺院の参道に並ぶ杉の木のようだ。


「レンちゃん、ツバメちゃん、まもりちゃん」


 メイは早くも、その道の先にあるものが見えている。

 そこには毛足の短い芝のようなものが敷き詰められ、緑のじゅうたんのようになっている。

 木の根が組み合わさって作られたかのような大きな玉座には、豪華な黄金の飾り。

 その背中を守るように立つ一本の巨木と、そこから伸びる根、そして低木に咲く花々が、偉大な帝王を飾り立てている。


「すごい……」


 これまで見てきた人間の王室や帝国とは違う、自然を用いた豪華さだ。


「……大司教を討ち、ここまで辿り着く者がいるとはな。人間を少し、侮っていたか」


 玉座に深く腰掛けたまま、邪な笑みを浮かべたのは、大型の金トカゲ。

 その姿を見ると、ゴールデンリザードの系譜なのが分かる。


「世界の、クク・ルル村の皆を返してもらいますっ!」


 メイがそう宣言すると、皇帝トカゲはかすかに笑う。


「……長き眠りからの覚醒。ようやくこの時が来た」


 立ち上がった金色のトカゲは、他の個体より一回り大きく、見るからに強者といった風貌。


「人間どもの強襲により強いられた長き拘束は、我が一生の不覚。貴様らのような愚昧な弱者に、この世界の王たる余が、苦汁をなめさせられたのだ!」


 重たく、しかし確かに怒りのこもった声で、トカゲの帝王は宣言する。


「だがこの世界の覇者は、人間から我らへと変わる! 貴様たち脆弱な人間は、今度こそ余に支配されるのだ!」

「そんなことさせませんっ!」

「わめくな、人間」


 そして、影から世界の覇を狙っていたトカゲの帝王との戦いが、今始まる。


「剣を抜け。貴様らに教えてやる――――真の王が誰なのかを!」

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― 新着の感想 ―
[一言] SCPで言う所のSKクラス狙ってるのか。
[一言] ん、金色のトカゲ? ……最終形態になった瞬間「いつものクエスト」になってボッコボコにされたりしない?
[一言] 論理クイズ結婚長めの行きますね。 8人の大学生がチェスのトーナメントを行いました。 8人の学年は1~4年生まで、各学年にそれぞれ2人ずつです。 3人が女子で、名前はそれぞれアリス、ビーラ…
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