1086.メイたちvsメイたち
「ゴーレムが……!」
五体の偽メイによる【ソードバッシュ】に、沈むゴーレム。
巨人が崩れ落ちていくかのような光景には、誰もが息を飲む。
奥の出入り口を目指すレンも、その一人だ。
パーティを『三つ』に分けて移動は、まもりを背負ったメイの邪魔にならないため。
「それにしても……本当にとんでもない緊張感」
最初は空から行こうとしたが、すぐさま10個を超えるブーメランが飛んできて取り止め。
地上を進むことにした。
そうなれば必然的に、偽メイによる『狩り』を目の当たりにする瞬間もある。
思い知った、ライオンとウサギ以上の戦力差。
生死は一瞬で決まってしまう。
「どうにかこのまま、無事にたどり着けますように……」
ここまでは順調。
レンが祈りながら、密林を進んでいくと――。
「っ!?」
20メートルほどに、偽メイ。
まさかの事態に、身体が跳ねる。
まっすぐこちらに向かって歩いてくる偽メイと、向かい合う形になってしまった。
相手が武器を手にしたら、すぐ走って飛び込み回避から範囲魔法で攻撃。
こっちが先に攻撃をする場合が、難しい。
中級なら回避、初級なら打ち返し、上級なら最悪、放つ直前に最速移動で詰められるかもしれない。
やはり、カウンターしかない。
西部劇の決闘のような、緊迫感が走る。
「っ!!」
突然、偽メイの歩みが止まった。
レンは驚きに、思わず硬直。
向けられ続ける視線。
偽メイの足が再度一歩を踏み出した瞬間、レンはその場で思いっきり転がる。
だが偽メイの視線は、レンを見つめたままだ。
ならばとレンは、右にゴロン、左にゴロン。
そして両手の甲で顔を擦り、全力で――――可愛い声を作る。
「にゃあーん」
すると偽メイは、『変化の杖』で黒猫になっていたレンをじっと見つめる。
「にゃ、にゃあーん」
さらにゴロゴロしながら、鳴き声を上げるレン。
すると偽メイは、何事もなかったかのように通り過ぎて行った。
「あ、あぶなかった……」
姿が見えなくなったのを確認して、レンは安堵の息をつく。そして。
「……猫っぽい声とかって、出さなきゃダメだった?」
黒猫姿のまま起き上がったところで、不意に我に返る。
冷静に考えてみると、猫のフリまでする必要はない。
「は、恥ずかしい……っ」
あくまで敵の正体はトカゲ。
メイではないから、レンが猫に化けることは知らないはずだ。
したがって、猫のフリまでする必要はない。
冷静になったレンは、自らの猫マネを思い出して顔を熱くするのだった。
「メイさん、ブーメランが来ますっ!
「りょうかいですっ! それっ!」
飛んできたブーメランが、地面に深く突き刺さる。
メイはまもりを背負ったまま、ジャンプ一つでこれを回避。
舞い散る土煙の中、華麗に着地。
そこへすさまじい速度で駆けてくる偽メイは、3体。
その全員が一撃死火力の忍者と考えると、あまりに恐ろしいサバイバル。
「わたしたちがわたしを追ってくる……なんだか変な感じだよー!」
「お、恐ろし可愛いです……っ!」
ステータスもスキルも同じ。
「「「【裸足の女神】」」」
一気に超加速で距離を詰めてくる偽メイたち。
「は、速いですっ!」
その速度に、思わず震えるまもり。
だがそれでも、メイの逃走能力は上をいく。
「【モンキークライム】!」
最高速での移動での接近を、メイは木から木へ跳んでいくことでかわす。
「【ラビットジャンプ】【フルスイング】」
「メ、メイさんっ!」
「【アクロバット】!」
大きな飛び掛かりから、振り下ろす一撃には側方宙返り一つで対応。
木が真っ二つに砕ける中、メイは難なく次の木へ。
木々の上を駆けて行くという思考がない偽メイに取って、樹木は避ける必要がある障害物。
足場と考えているメイを捕まえるには、及ばない。
「す、すごいです……っ」
出てきた木を避けながら逃げるのではなく、すでに数十メートル先を見て、全てのオブジェクトを足場にして走る。
これならいくら完璧なコピーでも、本物のメイには追いつけない。
相手が複数でも、問題なしだ。
「い、いけます! 逃げ切れますっ」
しかしまもりがそんなフラグじみたことを口にしたせいか、突然前から現れた4人のメイが同時に右手を上げた。
描かれるのは何と、四つの魔法陣。
「しょ、召喚ですかああああ――っ!?」
一つ目の魔法陣から落下してきたのは、巨大な象。
メイはしっかり見据えて、小さくジャンプ。
これによって象が着地する時の、『浮き上がり』をかわす。
そして続く巨大な水砲弾に向けて、そのまま剣を振るう。
「【ソードバッシュ】!」
粉々になって弾ける水砲弾が、大量の水飛沫を跳び散らす中を、メイは駆け抜ける。
「っ!」
すると、そこに飛び込んで来たのは白狼。
猛烈な勢いの喰らいつきは、喰らえば凍結を取られる一撃。
「【モンキークライム】!」
しかしメイはこれを難なくかわして、白狼の前足を駆け上がり、背中を踏み台にジャンプ。
「【アクロバット】!」
さらに、着地際を狙って滑空してくるケツァールの蹴りを大きな前方宙返りでやり過ごす。
最後に宙を舞うのは、巨大なクジラ。
「【裸足の女神】!」
メイはすぐさま、最高加速。
迫るクジラの下を潜り抜け、巻き上がる波から逃げる形で全てを置き去りにした。
「す、凄すぎます――っ!」
歓喜に思わず拳を上げるまもり。しかし。
「わああああーっ! それは野生味が強いのでやめてくださああああああ――――いっ!!」
メイ本気の叫び声に、驚く。
それは後を追ってくる一体の偽メイの、【四足歩行】に向けて。
召喚獣の四連射という地獄の連携を普通にかわし、【四足歩行】に本気で焦るメイに、さすがに噴き出してしまうまもり。
「【装備変更】【裸足の女神】!」
最後は【鹿角】による移動能力向上と超加速で木々の隙間を抜け、偽メイたちを置き去りにする。
まるで見たくないものから逃げ出すかのような走りは、まもりを背負っていてもなお速い。
「着いたっ!」
そしていよいよ、次のフロアへの出入り口前へ。
メイが足を止めた、その瞬間。
まもりがその場に降りて、すぐさま盾を構える。
「【不動】【地壁の盾】!」
伏兵のように現れた、偽メイ。
大きな跳躍から放つ【フルスイング】を、足を地面にめり込ませながら受け止めた。
「【ソードバッシュ】」
するとそんなまもりを、偽メイごと狙った2体目の偽メイによる、衝撃波が迫りくる。
「【地壁の盾】!」
なんとか防御を間に合わせるが、まもりは数十メートルに渡って転がる。
直撃を受けた偽メイは、木々をなぎ倒しながら吹き飛び見えなくなった。
メイは【アクロバット】で衝撃波をかわし、すぐにまもりを助けに向かおうとするが――。
「【裸足の女神】」
「っ!?」
木々の陰から超高速で飛び出してきた3体目の偽メイが、剣を振り下ろす。
「【フルスイング】」
完全な出会いがしらの一撃、メイには防御を選択する余地すらない。
「【電光石火】!」
しかしここで、【隠密】【忍び足】で進行していたツバメがメイを助ける。
「【連続魔法】【ファイアボルト】!」
さらに黒猫状態で待っていたレンが変身を解き、3体目の偽メイをけん制。
「【バンビステップ】」
すると3体目の偽メイは、すぐさま最後の攻撃者であるレンを狙って走り出す。
「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
見事な回避には、足止めも不可能。
距離が詰まり、高まる緊張。
「【ラビットジャンプ】」
レンが敵を引き寄せてからの【魔力蝶】で勝負をかけることを決めた瞬間、3体目の偽メイが跳んだ。
「助かったわ! 空中から来てくれるなら! 【悪魔の腕】!」
魔法陣から伸びた悪魔の腕が、偽メイをつかんで叩きつける。
ダメージは僅少。
「最初からまともに戦おうなんて思ってないわ! 偽メイはあくまで遠ざけるのが大事。そしてメイ自体は、別に重たいわけではない!」
その言葉に、メイがすぐさま動き出す。
「【ゴリラアーム】!」
地面に叩きつけられたばかりの偽メイの足を、メイがつかんだ。
そしてそのまま、大きく5回転。
「せええええのっ! それええええええええ――――っ!!」
3体目の偽メイは、2体目の偽メイを巻き込んで転がり、密林の奥へと消えていった。
「時間を稼ぐなら、これでもいいでしょう?」
こうしてレンたちは見事、地獄の101匹メイちゃん大行進フロアを、駆け抜けることに成功した。
「おそろしい緊張感でしたね……」
「まったくね、こんなにドキドキしたのは久しぶりだわ」
「はひっ、ドキドキしましたっ」
自然と四人集まって、大きく安堵の息をつきながらハイタッチ。
ぐったりしながらも、互いの無事を喜び合うのだった。
◆
「時間稼ぎも、もう限界か」
マウント氏が、息をつく。
付近には、スライム分隊を囲むような形の偽メイたち。
「【裸足の女神】」
一瞬で、間合いを詰められる。
掲げられた剣に、イチかバチかの【ソードディフェンダー】で対抗しようとした瞬間。
「…………なんだ!?」
目の前の偽メイがトカゲに戻り、慌てて跳び退く。
「分かったぽよ! ずっと変身していられるわけじゃないぽよっ!」
「これで、光が見えましたっ!」
スライムの言葉を合図に、偽メイたちの変身が次々に切れ始める。
どうやらスキルとステータスまでコピーするタイプのトカゲは、時間に制限があるようだ。
「生き残り組、集まって陣を組むぽよっ!」
「トカゲたちは強いといっても、門から出て来た魔物に比べれば戦える相手ですっ!」
「いくぞ! 反撃だああああ――っ!」
「「「うおおおおおおおお――――っ!」」」
スライム分隊は、反撃の雄叫びを上げた。
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