1080.本殿深部へ向かいますっ
「無事でよかった!」
「ありがとう……っ!」
迷子ちゃんは、メイたちと共にヘビィリザードを打倒。
トカゲ帝国の儀式に、生贄として使われそうになっていた少女NPCの救出に成功した。
五人は歓喜のハイタッチを決め、ドロップの宝珠を入手。
来た道を戻る。
陣形はメイとまもりが、生贄少女を警護。
レンとツバメが、迷子ちゃんを連行する形だ。
「そこのポータルから、外に出られるんじゃないかな」
本殿に戻ってきたところで、見つけたポータル。
生贄少女はそう言って、さっそく宝珠で行き先を確認。
大きくうなずいてみせた。
どうやらポータルは、外部の様々なポイントに飛べるようになっているようだ。
「これでもう、儀式はできませんね」
ツバメがつぶやくと、生贄少女は首を振った。
「私が逃げても儀式自体は行われるんじゃないかな。また別の誰かが、生贄にされる可能性が高いと思う」
「ええっ? やめさせる方法はあるのっ?」
そうなれば当然、捕まっているであろうクク・ルル村の住民たちも危険になる。
メイは慌てて、生贄少女に問いかけた。
「大司教を叩いて止めるしかないと思う。場所は本殿の地下。祭壇で行われるみたいなんだ」
「止めなきゃ」
それを聞いて、気合を入れるメイ。
「そうね。不用意な儀式は一刻も早く止めた方がいいわ。一刻も早く……!」
レンも、真剣な表情でうなずく。
「ありがとう。助けにきてくれて」
「いえ、こちらこそ。捕虜仲間がいたことが、心の支えになりました」
手を振って、見送る迷子ちゃん。
ポータルの光と共に、生贄少女が消える。
こうして、ミッションは無事に完遂した。
「これでトカゲ帝国の存在が、また一つ違った形で『表沙汰』になるんでしょうね」
そっくりさんを見つけて追う形以外にも、村や町の住民入れ替わり事件から、今回の人質クエストからと、トカゲの危機が世界に知られていく流れはいくつもあるようだ。
「メイさんたちと、ご一緒できてよかったです。同じ道を10回通った時は、さすがに焦りました」
「無事に助けられて、良かったですね」
「はいっ。ここからはぜひ、迷子になるまでお手伝いさせてください!」
「ふふ、迷子になるまでのお手伝い。人生で初めて聞く言葉だわ」
「本当ですね」
これにはさすがに笑ってしまうレン。
ツバメも思わず笑みを浮かべる。
「行きましょう! 祭壇があるのは、本殿の正面ルートを進んだ先だったはずです」
逆さまの地図を手に、迷子ちゃんが指を差す。
五人は綺麗に舗装された本殿の道を進み、最奥の魔法陣の上へ。
「いよいよ、本拠地突入だね……!」
「な、中はどんな感じなのでしょうかっ」
転移ということで、メイたちは全員で迷子ちゃんにギュッとしっかり抱き着く。
そして「この瞬間だけは迷子の呪いに感謝」と、頬を緩める迷子ちゃんと魔法陣を起動する。
直後、生まれる輝き。
「おおーっ!」
目を開くと、そこは広い岩肌の空間。
ルーンのような紋様が高い天井にいくつも描かれ、ヒビからわずかに差し込んだ陽光を増幅。
地上のような明るさを灯している。
「地下に、こんな大きな森が……」
そして密林一歩手前といった感じの、大量の植物たち。
その最奥には、さらに下の階へ降りるためのものか、石柱と魔法陣が見える。
「なんだか、グランダリアを思い出しますね」
「メ、メイさんの銅像があるダンジョンですね」
「あっ! 早くツタで像を隠さないと……っ!」
野生児像があると聞いているメイは、思い出してハッとする。
「あれが、祭壇ですね」
迷子ちゃんが指さしたのは、紋様が入った石積みの祭壇。
近くまで接近してみるが、何かが起こる様子はない。
「ここで少し、待ってみましょうか」
レンはメイに聞きながら、祭壇の状況を確認できる場所での待機を提案。
五人、草むらの上に横並びで腰を下ろす。
「そういえば迷子ちゃんさんは、料理スキルは得意なのですか?」
「職業がメイドであれば、料理スキルを持っていなくても、色々特殊なものが作れますよ」
「薄造りなんかもいける?」
「はい」
「実はもともとは、料理クエストのことで探してたの。そうしたらトカゲのクエストにぶつかって、ここまで来た感じなのよ」
「そうだったのですね。個人行動が多くなっているので、料理のバフはよく使っています。せっかくですし、何か作りましょうか」
「おおーっ!」
「ぜ、ぜひっ!」
歓喜の声を上げるメイと、思わず突き上げた拳を恥ずかしそうに下げるまもり。
迷子ちゃんが取り出したのは、炎の宝珠と鉄板つきの焚き火台。
鉄板にポットを乗せて湯を沸かし、紅茶の用意を開始する。
早くも正座で待機を開始する、まもり。
迷子ちゃんは、慣れた手つきで料理を開始。
【厚いベーコン】を焼き、同時に玉子を割って【目玉焼き】を作成。
続けて取り出した【肉だね】も、鉄板に乗せて焼き始める。
「……ごくり」
目が離せなくなっているまもりを前に、迷子ちゃんはバンズを鉄板で温めて、焼けたハンバーグにチーズを乗せる。
そしてトマトとレタスを切ったら、二つを挟んでいく。
できたのは、二種類のハンバーガー。
【ベーコンエッグレタスバーガー】と【チーズトマトビーフバーガー】だ。
「「おおおおお――――っ!」」
メイとまもりの目が輝く。
「紅茶はちょっとミスマッチな感じもありますが、ストレートならいけると思います」
アメリカのものを思わせる分厚いハンバーガーに、互いに見合うメイとまもり。
しかしまもりは、ここで硬直。
「あ、ああああっ!」
二種類のハンバーガー、どちらを選ぶのかという問題にヒザを突き、頭を抱えてしまう。
「三個ずつ六つ作るので、一人は二つ食べても大丈夫ですよ」
まもり、迷子ちゃんがハンバーガーの女神に見える。
「「「「いただきまーす!」」」」
完成したハンバーガーに、五人一緒にかぶりつく。
「おいしいーっ!」
「これは少しお高いハンバーガーですね」
「いいわね。こんなに美味しい上に時限的なバフまで付くんだったら、メイドは今後もっと人気が出そう」
まもりは右手の【ベーコンエッグレタスバーガー】のベーコンの厚さに、思わず顔を緩ませる。
ベーコンならではの歯ごたえに、レタスのシャキシャキが乗れば、気分はもう最高だ。
続けて左手の【チーズトマトビーフバーガー】にかじりつくと、チーズの濃厚さとトマトの酸味に頬を震わせる。
「……戻っていったパーティは、どうしてるのかしら」
「掲示板組の皆はどうしているかな……」
レンと迷子ちゃんが、不意に思い出したは外部のこと。
救援要請を受けて、パピテアの前で引き返した掲示板パーティ。
迷子ちゃん運搬組。
ハンバーガーにかじりつきながら、二人は掲示板組の現状に思いをはせるのだった。
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