1077.迷子ちゃんとトカゲの帝国
「まさか、こんなところでメイさんに会えるなんて……!」
驚きながらも、歓喜の笑顔を見せる迷子ちゃん。
「あっ、ごめんなさいっ!」
うっかりメイを押し倒し、お腹の上に乗る形になってしまっていたことに気づいて、慌てて跳び退く。
「いえいえ、ここで何をしてるんですかっ?」
メイもまさかの再会に、嬉しそうに尻尾を振り回しながら問いかける。
すると迷子ちゃんは、成り行きを説明し始めた。
「実はトカゲたちに捕まってしまいまして。脱出するクエストの最中なんです。ただ捕まっていた時に一緒になっていたNPCがいて、何とか彼女も助けたいと思って……」
そこまで説明したこところで迷子ちゃんは、道中に見つけたのであろうマップを取り出す。
「実はこの先に、捕らえた人を収監している檻があるようなんです」
「マップもあるのね」
「はい、途中で見つけました」
「ちなみに、持ち方が逆よ」
「…………」
そっと地図の位置を直す迷子ちゃんの迷子職人ぶりに、ツバメが思わずノドを鳴らす。
「こ、これまでに救援などは出さなかったんですか?」
「はい。まず自分のいるこの場所がどこなのか分からなかったのと、隠れて進むミッションが中心で、その場合は人が多くなる方が難しいかなと。一緒に逃げようと語ったNPCの仲間のため、下手な動きはできませんでした」
「なるほどね。人がたくさん来ることで状況が変わる可能性もあるものね」
どうやら迷子ちゃんはずっとこの解放ミッションに集中していて、外部へ助けを求められなかったようだ。
「メイさんたちは、どうしてこんなところに? あ、帰省ですか?」
「ちがいますっ!」
「実は今、世界はトカゲの帝国の侵略に脅かされています」
「永久凍土の封印が解かれて、トカゲたちが村や町を占拠して行ってるの」
「わたしたちは、その大元を探してきたんだよっ」
「トカゲの帝国の封印が世界を……!? まさか私の行動が、そんなことになってるんですか!?」
「迷子ちゃんさんが、封印を解いたのですか?」
「枝葉で覆われた石碑がありまして、それがラプラタで頂いた【剪定ばさみ】で切ったら……」
「なんだか、映画みたいなスタートの切り方ね」
ぜひ封印を解いて、大変なことになり出す瞬間を見たかったと笑うレン。
現実なら大惨事でも、『星屑』でならワクワクの始まりだ。
「私たちも、近くの村人たちを解放するために来たの。よかったら一緒に進みましょう」
「すすみましょうっ!」
「はいっ、よろしくお願いいたします!」
こうして迷子ちゃんとメイたちは、共に進むことにした。
「おそらく二人でここを脱出した後、危機が世界に伝わって、対策していくクエストになるんじゃないかしら」
「そ、それはありそうです」
「ちなみに、異世界解放の後はどうしてたの?」
「はい、ずっと迷ってました」
その言葉を聞いたメイたち、全員で迷子ちゃんの裾をつかむ。
地図を見ながら目指すのは、牢屋らしき区画。
作りが豪華な本ルートとは別の、簡素な造りの分かれ道に入る。
そこからは岩壁が剥き出しの洞窟となり、明かりは壁の燭台に乗せられた魔法珠に揺れる炎のみ。
暗くなれば、自然と緊張感が高まる。
曲がり角などから急に出てくるトカゲがいないか注意しながら、進んでいく。
するとメイが、不意に猫耳を動かした。
「この先の丁字路、右側から何かが歩いて来てる」
メイたちは、垂直に交わる道にぶつかる形。
何者かは直進するか、メイたちにいる方に左折してくる形だ。
「左折してきた場合に備えて、陰に隠れましょう」
ツバメを先頭に、五人は岩壁の陰に隠れる。
もし敵が左折してこちらに来た場合、ツバメが【隠密】から【アサシンピアス】で暗殺すれば問題なし。
「きた……!」
やって来た魔導士トカゲは、曲がり角で一度こちらを見た後に直進。
この場合は、そっと追いかけて背後から攻撃するのが暗殺の基本だ。
五人は足音に気を付けながら、丁字路を左折。
そのまま背後から討とうと、近づいていく途中で――。
魔導士トカゲは、手にした杖を突然掲げた。
光が灯った杖を、足元に突く。
「あれは……っ。皆さん跳んでくださいっ」
急な迷子ちゃんの声に、それでも急いで全員ジャンプ。
すると地面に大きく広がった魔法陣が一瞬、輝きを放って消えた。
「この魔法陣は、誰かが『触れると分かる』というタイプの探知魔法です! しかも触れれば、一時的に足止め効果を発揮します!」
魔法陣を使った、ソナーのような魔法。
どうにか飛び越え、着地したまもりが息をつく。
「ビ、ビックリしまし――」
「まだですっ」
迷子ちゃんが、慌てて声を上げる。
続けて二回目。
広がる魔法陣に、再びまもりは大慌てでジャンプ。
魔導士トカゲはさらにそこから、三、四、五回と連続で魔法陣を展開。
移動の力に自信のないまもりは、とにかく必死にジャンプする。
メイとツバメも、迷子ちゃんのメイド服をつかんだまま連続で飛び跳ねる。
そしてどうにか、五連続ジャンプを成功させた後。
「いっ、一瞬遅れるのやめなさいよ!」
まさかのフェイント。
魔導士トカゲは掲げた杖を降ろすのを、突然一テンポを遅らせた。
これに思いっきり引っかかったのは、レンとまもり。
早いタイミングでジャンプをしてしまった二人は、どう考えても着地直後に魔法陣を踏む形になる。
「【浮遊】っ」
レンはとっさに浮くことで、接地を避けてみせた。
しかしまもりには、着地を避けるすべはなし。
「まもりちゃんっ」
走る緊張。
ここで駆けつけたのは、メイだった。
着地した瞬間のまもりを、すぐさま抱えて跳躍。
すると一瞬遅れて、魔法陣が点滅。
「それっ、それっ、もう一回っ」
そしてここから三連続の魔法陣展開を、メイに抱えられたまま回避に成功。
「いきます――――【忍び足】」
これで「付近に不審者はいない」と判断した魔導士トカゲに、ツバメは後方から接近する。
「【アサシンピアス】」
そのまま一撃で、打倒に成功した。
「ギリギリセーフだね!」
「は、はひいっ!」
目の前でほほ笑むメイに、思わず顔を赤くするまもり。
「ふふ、まもりも本気でしがみついてたわね」
「ああっ、すいませんっ!」
気が付けばまもりは、両足をメイの腰に巻きつかせる形で抱き着いており、慌てて飛び降りる。
落ちて魔法陣に引っかからないよう、余程力を入れていたようだ。
まもりは自分の格好を思い出して、さらに顔を赤くする。
「でも、思わぬ形での戦いになったわね」
ようやく魔法陣探知が終わって、レンが息をつく。
どうにか魔導士トカゲに見つかることなく、先へと進むことに成功した。
たどり着いたのは、別れ道。
そこには、固いものをぶつけて付けたような傷がある。
「この傷は……っ!」
駆け出す迷子ちゃん。
その角にはすでに、10本の傷がつけられている。
「もしかして、ここを通るのは11回目ってこと?」
「……はい」
感情を失った顔で、応える迷子ちゃん。
どうやら、この洞窟の中でもしっかり迷っていたようだ。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




