表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1077/1384

1077.迷子ちゃんとトカゲの帝国

「まさか、こんなところでメイさんに会えるなんて……!」


 驚きながらも、歓喜の笑顔を見せる迷子ちゃん。


「あっ、ごめんなさいっ!」


 うっかりメイを押し倒し、お腹の上に乗る形になってしまっていたことに気づいて、慌てて跳び退く。


「いえいえ、ここで何をしてるんですかっ?」


 メイもまさかの再会に、嬉しそうに尻尾を振り回しながら問いかける。

 すると迷子ちゃんは、成り行きを説明し始めた。


「実はトカゲたちに捕まってしまいまして。脱出するクエストの最中なんです。ただ捕まっていた時に一緒になっていたNPCがいて、何とか彼女も助けたいと思って……」

そこまで説明したこところで迷子ちゃんは、道中に見つけたのであろうマップを取り出す。

「実はこの先に、捕らえた人を収監している檻があるようなんです」

「マップもあるのね」

「はい、途中で見つけました」

「ちなみに、持ち方が逆よ」

「…………」


 そっと地図の位置を直す迷子ちゃんの迷子職人ぶりに、ツバメが思わずノドを鳴らす。


「こ、これまでに救援などは出さなかったんですか?」

「はい。まず自分のいるこの場所がどこなのか分からなかったのと、隠れて進むミッションが中心で、その場合は人が多くなる方が難しいかなと。一緒に逃げようと語ったNPCの仲間のため、下手な動きはできませんでした」

「なるほどね。人がたくさん来ることで状況が変わる可能性もあるものね」


 どうやら迷子ちゃんはずっとこの解放ミッションに集中していて、外部へ助けを求められなかったようだ。


「メイさんたちは、どうしてこんなところに? あ、帰省ですか?」

「ちがいますっ!」

「実は今、世界はトカゲの帝国の侵略に脅かされています」

「永久凍土の封印が解かれて、トカゲたちが村や町を占拠して行ってるの」

「わたしたちは、その大元を探してきたんだよっ」

「トカゲの帝国の封印が世界を……!? まさか私の行動が、そんなことになってるんですか!?」

「迷子ちゃんさんが、封印を解いたのですか?」

「枝葉で覆われた石碑がありまして、それがラプラタで頂いた【剪定ばさみ】で切ったら……」

「なんだか、映画みたいなスタートの切り方ね」


 ぜひ封印を解いて、大変なことになり出す瞬間を見たかったと笑うレン。

 現実なら大惨事でも、『星屑』でならワクワクの始まりだ。


「私たちも、近くの村人たちを解放するために来たの。よかったら一緒に進みましょう」

「すすみましょうっ!」

「はいっ、よろしくお願いいたします!」


 こうして迷子ちゃんとメイたちは、共に進むことにした。


「おそらく二人でここを脱出した後、危機が世界に伝わって、対策していくクエストになるんじゃないかしら」

「そ、それはありそうです」

「ちなみに、異世界解放の後はどうしてたの?」

「はい、ずっと迷ってました」


 その言葉を聞いたメイたち、全員で迷子ちゃんの裾をつかむ。

 地図を見ながら目指すのは、牢屋らしき区画。

 作りが豪華な本ルートとは別の、簡素な造りの分かれ道に入る。

 そこからは岩壁が剥き出しの洞窟となり、明かりは壁の燭台に乗せられた魔法珠に揺れる炎のみ。

 暗くなれば、自然と緊張感が高まる。

 曲がり角などから急に出てくるトカゲがいないか注意しながら、進んでいく。

 するとメイが、不意に猫耳を動かした。


「この先の丁字路、右側から何かが歩いて来てる」


 メイたちは、垂直に交わる道にぶつかる形。

 何者かは直進するか、メイたちにいる方に左折してくる形だ。


「左折してきた場合に備えて、陰に隠れましょう」


 ツバメを先頭に、五人は岩壁の陰に隠れる。

 もし敵が左折してこちらに来た場合、ツバメが【隠密】から【アサシンピアス】で暗殺すれば問題なし。


「きた……!」


 やって来た魔導士トカゲは、曲がり角で一度こちらを見た後に直進。

 この場合は、そっと追いかけて背後から攻撃するのが暗殺の基本だ。

 五人は足音に気を付けながら、丁字路を左折。

 そのまま背後から討とうと、近づいていく途中で――。

 魔導士トカゲは、手にした杖を突然掲げた。

 光が灯った杖を、足元に突く。


「あれは……っ。皆さん跳んでくださいっ」


 急な迷子ちゃんの声に、それでも急いで全員ジャンプ。

 すると地面に大きく広がった魔法陣が一瞬、輝きを放って消えた。


「この魔法陣は、誰かが『触れると分かる』というタイプの探知魔法です! しかも触れれば、一時的に足止め効果を発揮します!」


 魔法陣を使った、ソナーのような魔法。

 どうにか飛び越え、着地したまもりが息をつく。


「ビ、ビックリしまし――」

「まだですっ」


 迷子ちゃんが、慌てて声を上げる。

 続けて二回目。

 広がる魔法陣に、再びまもりは大慌てでジャンプ。

 魔導士トカゲはさらにそこから、三、四、五回と連続で魔法陣を展開。

 移動の力に自信のないまもりは、とにかく必死にジャンプする。

 メイとツバメも、迷子ちゃんのメイド服をつかんだまま連続で飛び跳ねる。

 そしてどうにか、五連続ジャンプを成功させた後。


「いっ、一瞬遅れるのやめなさいよ!」


 まさかのフェイント。

 魔導士トカゲは掲げた杖を降ろすのを、突然一テンポを遅らせた。

 これに思いっきり引っかかったのは、レンとまもり。

 早いタイミングでジャンプをしてしまった二人は、どう考えても着地直後に魔法陣を踏む形になる。


「【浮遊】っ」


 レンはとっさに浮くことで、接地を避けてみせた。

 しかしまもりには、着地を避けるすべはなし。


「まもりちゃんっ」


 走る緊張。

 ここで駆けつけたのは、メイだった。

 着地した瞬間のまもりを、すぐさま抱えて跳躍。

 すると一瞬遅れて、魔法陣が点滅。


「それっ、それっ、もう一回っ」


 そしてここから三連続の魔法陣展開を、メイに抱えられたまま回避に成功。


「いきます――――【忍び足】」


 これで「付近に不審者はいない」と判断した魔導士トカゲに、ツバメは後方から接近する。


「【アサシンピアス】」


 そのまま一撃で、打倒に成功した。


「ギリギリセーフだね!」

「は、はひいっ!」


 目の前でほほ笑むメイに、思わず顔を赤くするまもり。


「ふふ、まもりも本気でしがみついてたわね」

「ああっ、すいませんっ!」


 気が付けばまもりは、両足をメイの腰に巻きつかせる形で抱き着いており、慌てて飛び降りる。

 落ちて魔法陣に引っかからないよう、余程力を入れていたようだ。

 まもりは自分の格好を思い出して、さらに顔を赤くする。


「でも、思わぬ形での戦いになったわね」


 ようやく魔法陣探知が終わって、レンが息をつく。

 どうにか魔導士トカゲに見つかることなく、先へと進むことに成功した。

 たどり着いたのは、別れ道。

 そこには、固いものをぶつけて付けたような傷がある。


「この傷は……っ!」


 駆け出す迷子ちゃん。

 その角にはすでに、10本の傷がつけられている。


「もしかして、ここを通るのは11回目ってこと?」

「……はい」


 感情を失った顔で、応える迷子ちゃん。

 どうやら、この洞窟の中でもしっかり迷っていたようだ。

誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

返信はご感想欄にてっ!


お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ニセメイ 「こんにちは。わたしはあなたです。 本来であればわたしがメイとなり、トッププレイヤーとなるはずでした。 ですが、手筈違いで、あなたがメイとなり、わたしを奪いました。 しかし、こうし…
[一言] これは?! 迷いやすいダンジョンだからなのか、それとも迷子ちゃんだからなのか、と言うか、同じところを10回も通れること自体が不思議かも知れない。 迷子ちゃんが本気で迷ったら、別のフィールド…
[一言] 論理クイズですがじつはこれは さてさて、今回のクイズは「ひっかけ論理パズル」です。 ご投稿いただいたごく普通の頭の体操/論理パズルを、状況設定だけ残して作り変えてみました。 普通の頭の体操…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ