1076.突入
見事、大蛇を操っていた魔導士トカゲを打倒したメイたち。
四人は勝利に笑い合った後、残った大蛇の方へ視線を向ける。
崖下りの際に現れて、強制的に戦闘へ駆り出されていた大きなヘビ。
戦いの最後には共闘までしたその魔物は、力なく伏せていた。
「わあっ! 大丈夫ーっ!?」
一見すれば怖く感じそうな大蛇も、ジャングル育ちのメイには関係なし。
近づいても逃げることはなく、さっそくその美しい色使いの鱗に触れてみる。
「元気がない……」
大蛇はこちらをじっと、力の抜けた状態で見つめている。
こんなことはこれまでなかったため、困惑してしまう。
「おそらくこのヘビの救出は、ミッションになると思うんだけど……」
本来なら崖での戦いで退けるか、打倒して終わり。
こうして後を追ってくるような形で再会し、魔導士トカゲたちから解放するのは、間違いなく追加のクエストだ。
「今の状況って、段階制のクエストを途中まで成立させた状態に見えるのよね」
魔導士トカゲの手から解放して、第二段階が終了。
しかしマップ上にはまだクエストアイコンが残っている状況を、レンは想像する。
「……もしかして、お腹が減ってるのかな?」
「それ、ありえるわ」
メイの何気ない言葉に、大きくうなずくレン。
「なるほど、このクエストが異世界解放の後に出て来たのであれば、その可能性はあります」
これにはツバメも賛同する。
「で、では【マッドブルのシチュー】はどうでしょうか」
そう言ってさっそく、まもりが料理を取り出して大蛇の前に置いた。
すると大蛇はシチューの入った小型の寸胴をうれしそうにくわえ上げ、そのまま口の中へ。
「鍋ごといきました」
「ふふ、さすがに寸胴だけ律儀に吐き出したりはしないのね」
「た、足りなくないでしょうか」
大蛇にとっては、人間で言えばクッキー一枚になるかくらいの量。
量の少なさを心配するまもりだが、大蛇は満足そうに息をつく。
そして、メイのもとへ寄ってきた。
「もしかして、一緒に来てくれるのっ?」
すっかり元気な大蛇に、問いかけるメイ。
すると大蛇もメイの身体に巻きついて、うれしそうに頭をすり付ける。
「とても人懐っこい感じですね」
どうやら今度は巻きつかれても、ダメージにならないようだ。
「元気になって良かった! これからどうぞ、よろしくお願いいたしますっ!」
メイがブンッと元気に頭を下げると契約が成立し、【召喚の指輪】に新たな力が宿る。
「なるほど、召喚獣だったのですね」
「段階制クエストの報酬は新たな召喚獣。なかなかいい感じね。来たかいがあったわ」
こうしてメイはミッションを見事に達成、新たな召喚獣を仲間にしたのだった。
「さて、思わぬ形で仲間もできたし、次はあの洞穴に行ってみましょうか」
断崖の下部には、芸術的な紋様と共に掘られた住居のようなものが並んでいる。
中には、見張り台の用途を兼ねているものもあるだろう。
だがそんな中に、見るからに本命ルートであろう高さ3メートルほどの洞穴が一つある。
そこには銀などの金属なども使った、住居区画よりも豪華な意匠が施されている。
そしてその前には、左右三体ずつのトカゲ像。
掲げる形で交差させた剣や槍、杖がアーチとなっている。
「行ってみようよ!」
村人たちを救うため、躊躇することなく進むメイ。
四人は自然と、洞穴に向けて歩を進める。
途中、断崖に開けられた窓から見張りであろうトカゲの顔がのぞくが、メイはしっかりと木の陰を選んで進攻。
ゴールデンリザード狩りでは、そっと近づいて弱点を一撃で狙うのが一番早い。
そのため、木々で視線を遮るような動きもお手の物だ。
「見張り台からこの洞穴を見られる位置にいるトカゲは二体だね。でも視線を左右に動かしてるから、どっちかだけ倒せば通れそうだよ」
「了解しました【隠密】【忍び足】」
この言葉を受けて動くのはツバメ。
トカゲの視線が外れた瞬間に一気に全員で駆けつけて、トカゲ兵を打倒するが基本。
しかしメイたちの場合は、少し違ってくる。
ツバメは音もなく壁を上がり、トカゲ兵のもとに進むと、もう一体の見張りの視線が離れたところでスキルを発動。
「【アサシンピアス】」
【致命の葬刃】の『認識外時の攻撃力増加』もあり、見事一撃で打倒。
最速の打倒によって、生まれた余裕。
メイたちは問題なく、洞穴に踏み込んでいく。
次にもう一体の見張りトカゲが振り返った時には、四人全員が内部への侵入に成功した後だった。
「ここが本命で、間違いなさそうね」
「は、はひっ」
紋様入りの石壁が続く道を真っ直ぐに進んでいくと、その先には一つの小さなホール。
そこには円形に並んだ、金意匠入りの石柱が八本。
石床の中央には、刻まれた魔法陣と埋め込まれた宝珠が見られる。
転移方陣だ。
四人がその中央に乗ると、宝珠から光が流れ、魔法陣が輝く。
たどり着いたのは静かで暗い、大型のホール。
「「「「……ッ!?」」」」
その足もとは大理石のような石材で作られ、魔法陣が無数に描かれている。
天井には等間隔で埋められた魔法珠に、青い光が灯っている状況だ。
だが何より異質だったのは、整然と居並ぶ1000体を超えるトカゲたち。
「いきますっ!」
「はいっ!」
メイとツバメが、すぐさま武器を手に特攻。
しかし駆け出した二人は、その速度を徐々に緩めて足を止めた。
【ソードバッシュ】で先制を仕掛けようとしたメイが剣を下ろし、思わずトカゲを見つめる。
「……冬眠してるみたい」
目を閉じたまま、動かないトカゲたち。
その身体は冷たく、そして固い。
立像の様に動かないトカゲたちの列を抜けて進むと、奥の壁には大きな世界地図が描かれていた。
「こ、ここで世界侵攻の計画を立てていたのでしょうか……っ」
地図には、村や町らしき場所にピンが押され、その色によって攻略中、侵略済みなどに分かれているのだろう。
「こう見ると、やっぱり知能が高いのが分かるわね」
「誰かくるよっ!」
「「「っ!?」」」
メイの、まさかの言葉に耳を澄ます。
すると下り階段から聞こえてくる、重い足音。
四人はすぐさま、石壁の出っ張りに隠れる。
出入り口からやって来たのは、マントを付けた指揮官級の重装トカゲ。
続いて、長いローブをまとった魔術師の首領のような大トカゲ。
そして、軽装ながらも鋭い目をした淡い色のトカゲ。
見るからに大物といった感じの三体のトカゲたちは、世界地図を確認。
魔術師のようなトカゲが手にした杖を輝かせると、冬眠状態のトカゲたちが目を覚ました。
続けてホール中央に、旧型ポータルが登場。
指揮官トカゲはそのまま、1000体のトカゲを引きつれどこかへと消えていく。
そして、再び減った分の冬眠トカゲが足元の魔法陣から現れ、元通りの光景となった。
「こんなのが世界中に散らばっていったら……本当に国も大陸も乗っ取られるわ」
「しかも皆、何かしらの変身能力持ちですか」
派兵を確認した魔術師トカゲと鋭い目をしたトカゲは、ホールの出入り口から去っていった。
「お、おそろしい光景でした」
メイたちは新たに設置された冬眠トカゲたちに息を飲みながら、魔術師トカゲの去っていった出入り口へと向かう。
「っ!?」
するとメイが再び、違和感に顔を上げた。
出入り口を出てすぐのところで、頭上に開いた穴から何かが落ちてきた。
「「わああああああ――――っ!?」」
思わず声を上げたメイは、落ちてきた何者かに押しつぶされた。
まもりが盾を持ち、レンの前に立つ。
そしてツバメが短剣を手に駆け出したところで、メイが「あれ?」と首と尻尾を傾げた。
落ちてきた者の姿に、見覚えあり。
「迷子ちゃん!?」
「メイさん!?」
現れたボロボロのメイド服姿の少女は、行方不明中の迷子ちゃんだった。
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