1074.操りの大蛇
「断崖の底は、結構広いのですね」
「ほ、本当ですね」
左右に、高い高い岩壁を持つトカゲの帝国。
その底部は、思った以上に広かった。
またトカゲたちが世界各地へ進出しているためなのか、その姿がすぐさま見受けられるような状況ではない。
まずメイたちはRPGの定番である、付近の探索から開始。
木々の立ち並ぶ密林の様相は、崖の上と変わらない。
「どう? 何か聞こえる?」
「ここからだと何もなさそうかな……こういう時は!」
メイは右手を上げると、【自然の友達】を発動。
すると付近に住むのであろう派手な色をした鳥や、カメレオンのような爬虫類、両手両足で枝にぶらさがる白色の猿、そしてヘビがやってきた。
「やはり南国、特徴的な動物が多いですね」
あっという間に動物まみれになるメイ。
そして首を傾げる派手色鳥に、同じ角度で首を傾げてみるツバメ。
二人の姿に、まもりとレンがくすくす笑う。
「メイ、まずは大蛇の行方を。戦い切らずに去っていったのが気になるわ」
「りょうかいですっ! 大きくて綺麗な色をした子に心当たりはありませんかっ?」
すると先行し始めたのはやはり、ヘビだった。
木々の中を進んでいくヘビの後を、皆で追いかける。
するとその先に見えたのは、先ほど崖で襲い掛かってきた緑と橙、黄色の鱗が美しい大蛇だ。
大きく強靭な身体に、鋭い牙は見事。
しかし厚い茂みと木々の隙間に収まっている姿は、まるで身を隠しているかのようだ。
「どうしたのかな」
少し離れた位置から、様子をうかがう四人。
「っ!」
メイが異変に気づく。
大蛇のもとにやって来たのは、新たな魔導士トカゲ。
その姿を見た大蛇はすぐさま逃げ出そうとするが、魔導士トカゲが杖を輝かせると、側頭部に刺さった紋様入りのトゲに光が灯る。
すると苦しそうに大きく身体を震わせて、大蛇はその場で動きを止めた。
「確実に、やってるわね」
「あのような形で、無理やり戦わされているのですね……」
「ま、魔導士トカゲたちに、共有される形で利用されているのでしょうか……っ」
「ひどーい……!」
これにはメイも、尻尾をピンと突き立てて怒る。
どうやら大蛇は、光るトゲによって強制的に戦わされているようだ。
「助けようよ!」
「そうね。ただ、今までみたいにHPを削るだけではダメなんだと思う」
「あのトゲですか?」
「最終的にあのトゲを切り飛ばすとかして壊さないと、解決しない可能性が高い。その点にだけは気を付けて」
「りょうかいですっ!」
メイは我慢できないとばかりに、魔導士トカゲの前へと躍り出る。
「そこまでだよっ! その子は解放してもらいますっ!」
ビシッと指さして、魔導士トカゲに宣戦布告。
すると相手は驚くこともなく、薄い笑みのようなものを浮かべて杖を輝かせた。
「「「っ!?」」」
そのまぶしさに驚く。
トカゲ魔導士の放った【マグマボルト】は、煌々と赤熱する一撃。
メイとツバメは直撃をかわすも、飛び散った飛沫をわずかに受けてダメージ。
さらに弾けて跳んだ溶岩が地面を、木々を一瞬で焦がす。
「思ったより威力があります……っ!」
かすめただけで、上級魔法に弾かれたくらいの火力。
どうやら初級魔法のように軽く使えるのに、威力は上級魔法レベルという強力な魔法のようだ。
「また来ますっ!」
立て続けに放たれる溶岩弾は、次々に炸裂する。
前衛組は、駆けることでの回避を選択。
ツバメが木々を盾にするような移動でかわせば、その隙にメイは木を蹴って宙へ。
魔導士トカゲがツバメへの攻撃を続けているところを狙って、攻撃体勢に入る。
「やああああ――っ!」
しかし掲げた杖の輝きは、大蛇を引き寄せるもの。
魔導士トカゲは、大蛇に盾になるよう命令。
メイのジャンプ攻撃に対して、身代わりとした。
「ひどーい!」
剣を引き、そのままの着地を余儀なくされたメイ。
そうなれば当然、その瞬間を狙われる。
「わあっ!」
大蛇はメイを巻き込み、そのまま締め付け攻撃へ。
「嫌らしい攻撃……! これじゃ援護しづらいわ!」
魔法を撃てば、メイを巻き込んでしまう可能性あり。
「【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」
レンは仕方なく、下がる魔導士トカゲを狙って攻撃。
しかし氷弾をしっかりと引き付けた魔導士トカゲは、大きな後方跳躍で回避してみせた。
「まもりちゃんっ! まとめてどうぞ!」
締め付け攻撃をくらうメイのもとに、駆けつけてきたのはまもり。
「は、はひっ! 失礼しますっ! 【シールドバッシュ】!」
まもりはメイごと大蛇に衝撃を叩き込み、両者をまとめて転がす。
これでようやく、メイが解放された。
「【加速】!」
ツバメは、下がる魔導士トカゲを狙って疾走。
「【マグマ・スプラッシュ】」
だが杖で地面を叩くと、走るヒビから噴き出したマグマが、接近を許さない。
スキル一つで、ツバメを強制停止。
思った以上の範囲攻撃を前に、レンは反撃のタイミングをうかがう。
しかし吹き上がったマグマが落ち着いた時、魔導士トカゲはすでに、大蛇に指示を出していた。
地を高速で這い進んでいた大蛇は音もさせず、良い『位置』に移動。
四人を上手に『範囲』に収めたところで、そのアギトを開いた。
「毒ブレスがくるよっ!!」
一直線に飛ぶ毒飛沫に、慌てて回避を図る四人。
すぐに跳んだメイは、見事に回避。
そもそも範囲ギリギリの位置にいたまもりも、どうにか転がり出た。
「これ……劇毒ね」
「思った以上に、やりますね」
しかしレンとツバメはわずかに遅れて、直撃。
通常の毒とは比べ物にならないHPの減少を見て、それが『劇毒』だと確信した。
大蛇には、できるだけダメージを与えたくない。
だが魔導士トカゲは、攻撃力が高いだけでなく回避も上手。
さらに、保護対象である大蛇を盾に使ってくる。
さすがは、隠されていた世界の危機。
どうやら敵の強さも、侮れないようだ。
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