1073.トカゲの帝国へ
パピテアの長い断崖。
新たに現れた剣士トカゲは、左右の壁を渡るように跳びながら、攻撃を仕掛けてくる。
そして伸びる斬撃を、隙間の中心付近で振り回してきた。
喰らって足を滑らせれば当然、落下ダメージで死に戻り。
緊張感のある舞台だが、メイたちも崖での戦いに慣れ始めている。
「「はいっ!」」
メイとツバメはこれを、下に生えた木や岩の出っ張りに飛び降り回避。
「【不動】【地壁の盾】!」
まもりは、盾防御でしっかりと受け止める。
「【壁走り】【稲妻】!」
そしてこちら側の壁に取り着いた瞬間を狙った、ツバメの斬り抜けが決まりトカゲが落下。
「本当、崖を真横に走っての斬り抜けは痺れるわね……!」
「【手投げ弾】」
その隙を突き、迫ってきていた暗殺者トカゲ。
得意の速い張り付き移動から【風弾珠】を炸裂させて、プレイヤーの落下を狙う。
「うわあっ!」
これを受けたメイは、思い切ってそのまま落下を選択。
「【ターザンロープ】!」
縄をかけた木を中心に、大きくスイングして跳躍。
伸び出している枝をつかむ。
「【ロックバレット】」
「うわっ! うわっ! うわわっ!」
そして着地際を狙った魔導士トカゲの石弾に、メイは『うんてい』の要領で枝から枝へ渡っていく。
「【壁走り】!」
崖の反対側に位置した魔導士トカゲには、近接攻撃を当てに行くのが難しい。
ツバメはまず、暗殺者トカゲを狙って壁を直進。
しかし『壁に立つ』敵が防御姿勢を取ったのを見て、慌てて戦法を変更。
「【紫電】!」
防御が成立してしまった時点で、こちらは必然的にその場で停止。
その後は、落下するのみとなる。
そこで、攻撃を電気に変えて唐突な突撃。
そのまま暗殺者トカゲを体当たりで突き飛ばし、ともに落下。
「アルトリッテさんの戦法、侮れませんね……!」
ツバメは草をつかむことで、この危機を乗り越えることに成功した。
「味方の前衛がいなくなったところで、トカゲが身を隠した……?」
メイを狙い撃っていた魔導士トカゲは突然、身体を茂みに隠した。
【浮遊】で、位置取りを変更するレン。
魔導士トカゲはその手に、増援を呼ぶベルを取った。
「高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」
放った氷弾が肩を弾き、ベルの使用を強制停止する。
すると増援の呼び出しに失敗した魔導士トカゲは、再び杖を掲げた。
「またヘビが来るわ!」
すると先ほど逃げた大蛇が、再び壁の茂みを伝う形で接近してくる。
「【跳躍】!」
猛烈な喰らいつきを、ツバメは跳躍でかわして枝につかまる。
「【モンキークライム】!」
メイも崖を駆け上がって、これを回避。
二度目ともなれば驚きもなく、対応も見事なものだ。
しかし通り過ぎていった大蛇は、大きな木の幹に巻きつき顔をこちらに向ける。
再びメイたちの方に振り返ると、その口を大きく開いた。
「これ、もしかしてっ!」
その可能性に気づいた瞬間、走る嫌な予感。
「みんな近くのものにつかまってー! いーちゃん!」
次の瞬間、大蛇が放ったのは広範囲に広がる【毒飛沫】
しかしメイの反応は、とにかく早かった。
ヘビや竜、一部トカゲの口内には、分かりやすく毒を吐くための器官がある。
毒噴射がくると気づくのに、メイなら1秒とかからない。
「「「ッ!!」」」
現れたイタチの放つ風が、毒の飛沫を吹き飛ばす。
吹き荒れる風は断崖を駆け抜け、大慌てで付近の草や木に捕まったツバメたちは毒をやり過ごした。
一方まさかの反撃に、魔導士トカゲは吹き飛ばされて落下。
残された大蛇も、木の幹に身体を巻きつけていたために無事。
そのまま再度、茂みの方へと逃げて行った。
「あの光る『トゲ』……まあいいわ。今は降りることに集中しましょう」
レンたちは大蛇の追撃は行わず、再び降下に集中。
途中見かけた『監視小屋』も、先にメイが気づいたため避けて通ることに成功。
この崖でレンが大きな炎の魔法を使っていないのも、爆発の音が合図になってしまう可能性を考えてのこと。
慎重な魔法選びをしたことで、それ以上の接敵はなかった。
四人はそのまま下層部へ。
地面まで二十メートルほどの高さまでくると、岩肌を削って作った見張り小屋や住居。
各建物を行き来するための、橋が見られるようになった。
「思った以上に豪華ね」
「そうですね、見事な意匠です」
立ち並ぶ崖の住居は、見事。
階段一つとっても、豪華と呼べるレベルの彫刻が施されている。
またところどころを宝石や金属で飾り付けた造りの美しさは、帝国らしい重厚感を覚えさせる。
メイたちは見つからないよう、居住区画ではない端の方から地上へ降りた。
密林と変わらぬ土と木々、草の生えた最下部は思った以上に広い。
最奥にあるトンネルのような大穴。
その前には、向き合う形で置かれた大きな10体のトカゲ像。
彫刻入りの石材で舗装された神殿のようにも見えるあの場所には、皇帝がいそうな雰囲気だ。
「ラプラタやナディカみたいな旧文明国と比較すると、かなり雰囲気が違うわね。この文化に高い知能と武力、そして変身能力を考えれば、恐れられたのがよく分かるわ」
いよいよ、敵陣のど真ん中へ降り立った四人。
その独特な光景に、思わず息をつく。
「一応、近くを見回ってみましょうか」
「それがいいですね」
「それと、崖で戦ったヘビ。側頭部付近に刺さってたトゲみたいなもの。あれって『命令を聞かせるための魔法アイテム』じゃないかしら」
「ええっ! それはかわいそうだよっ!」
大蛇には、青白く光るトゲのようなものが見られた。
二足型は蛇か大トカゲを魔法アイテムで制御して、戦わせていたのではないかとレンは予想する。
「助けてあげられるかな?」
「もしかすると、ミッションみたいなものかもしれませんね」
「せっかくだし、ちょっと探しに行ってみましょうか」
「いきましょうっ!」
「はひっ!」
こうしてトカゲの帝国にたどり着いた四人は、逃げた大蛇探しから帝国の冒険を始めるのだった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




