1072.パピテアの断崖
「こういう下りは、やっぱり緊張感あるわね」
トカゲの帝国があるという、パピテアの断崖。
緑に覆われた深い裂け目を、四人は少しずつ降りていく。
それは一気に降下してしまうことで、隠し通路やミッションなどの発見機会を失わないためだ。
クエストのお姉さんから『宝珠』を受け取っていたレンは、どこかで使用機会があるだろうと注意を払う。
「て、手を滑らせたら、大変なことに……っ」
落ちれば落下死間違いなしの崖。
まずメイが先行して、ツバメが続き、最後方からレンが【浮遊】で見守るという形は、間違いのない布陣だろう。
予想通りメイは木から木へ、草をつかみ出っ張りを踏み、見事な流れで降りていく。
さらに目や耳が利くため、何かがあった際に最初に気づくことができるのも利点だ。
「こういう舞台で、野生の力は本当に心強いわね」
レンも念のため、出っ張りに度々足を下ろして、辺りを見回しながら降下していく。
枝葉つかみながら恐る恐る下るまもりが慌てないよう、のんびりした飛行にすることで、全体の速度も調整。
「……っ」
そんな中、メイが不意に止まり片手を上げた。
それは敵の存在を知らせる合図。
建物で言えば5,6階分ほど下がったところで見つけたのは、見張りらしき二足のトカゲが三体。
弓術トカゲが二体と、魔術トカゲが一体。
青紫の体躯をしたトカゲが、辺りに目を光らせている。
メイとツバメは、弓術型を打倒しやすい位置へ移動。
レンも杖を構え、枝葉の陰に身を寄せる。
一気に片付けて進む形を狙い、三人うなずき合ったところで――。
「ッ!?」
メイが突然顔を上げた。
見上げれば崖の上から、飛び降りてくる三体の剣士トカゲの姿。
崖に沿うような一直線の落下から、そのまま剣を振り降ろしにくる。
「あぶないっ!」
メイの声にツバメとレンは慌てて隣の枝や、草をつかんで横移動。
垂直落下斬りを、どうにかこうにか回避する。
すると剣士トカゲたちはその手足を壁に突き、砂煙をあげながら制動。
岩の剥き出しになった部分に吸着する手足を貼り付ける形で止まると、今度は崖を四足の体勢で上がってくる。
そして、近くの出っ張りを蹴って跳躍。
そのまま剣を振り下ろしてきた。
「うわっと!」
メイは枝を蹴り、後方へのジャンプでこれを回避。
「【投擲】!」
ツバメは【雷ブレード】の投擲で、けん制をかける。
剣士トカゲはこれを壁移動でかわして、距離を取った。
レンを狙った剣士トカゲは、草をつかんで停止。
そのまま断崖の中央部分に向かって身を投げると、剣に閃きのエフェクトを輝かせる。
「【空刃蓮華】」
剣士トカゲの奥義は、空中で放つ三本の円形斬撃。
「とんでもない攻撃ね……っ!」
惑星の輪のような三本の斬撃の範囲は長く、左右の断崖に深い斬り傷を刻み込むほど。
「【不動】【地壁の盾】!」
しかしその攻撃対象に、まもりを含んでしまったのが失敗となる。
剣撃を受けた【不動】は、狭い足場でも容赦なく効果を発揮。
これによって剣を弾かれた剣士トカゲは、そのまま落下して消えていく。
そして、攻守が切り変わる。
「【誘導弾】【連続魔法】【ペネトレーション】【フリーズボルト】!」
レンの放った氷弾が、こちらに狙いをつけていた二体の弓術トカゲを、貫いていく形で直撃。
矢を放つ前に、崖下に落ちて消える。
「【壁走り】!」
ツバメは小さな足場から走り出し、そのまま崖を横切るような形で駆けてトカゲに接近。
「【稲妻】!」
なんと壁走りの状態から放つ斬り抜けで、剣士トカゲを切り飛ばした。
「すごいわね……! こんなの初めて見たわ!」
思わず声を上げるレン。
トカゲが落下していく中、ツバメは必死に木の枝につかまり緊急停止。
安堵の息を着く。
「【モンキークライム】!」
メイは、断崖を斜めに駆け上がっていく。
それに気づいた剣士トカゲも、張り付いていた岩場に立つような形で剣を構える。
駆けつけたメイの剣が、剣士トカゲの剣とぶつかり合って火花を散らした。
「ま、まるで崖の方が足場のようです……っ」
ツバメの【壁走り】から始まった、天地を90度曲げたような戦いに、まもりも感嘆の声を上げる。
メイはここで落下を始めるが、直後に枝をつかんで落下を回避。
「そうだ……っ! 【モンキークライム】!」
浮かんだアイデアを試すため、再び壁を駆け上がる。
「【装備変更】っ!」
取りだしたのはなんと【大地の石斧】
「【地裂撃】!」
メイはそのままトカゲの立つ岩肌に、ハンマーを叩きつけた。
起きる地盤沈下は、壁面に砲弾でもぶつかったかのようなクレーター生み出した。
これには耐え切れず、剣士トカゲも落下。
「これは……すごい戦い方です……っ」
これで残るは、魔導士トカゲのみだ。
「この状況なら! 【誘導弾】フリーズボルト――」
「レンさんっ!」
異変に気づいたのはツバメ。
魔導士トカゲの掲げた杖に灯る輝きは、攻撃魔法のものとは違う。
直後。レンの下部にあった茂みに見えたのは、二つの目の輝きだった。
茂みが隠していた穴から出て来たのは、巨大な蛇。
猛烈な勢いで壁を登り、緑、黄緑、黄色の鱗に、紅色の目をした大蛇が、人を丸飲みできるほどの口を開き、喰らいつきにきた。
「ッ!!」
レンは身を投げる形で、喰らいつきを回避。
するとヘビは頭部を一回転し、今度は落下するレン目がけて飛び降りる。
「執着しすぎでしょう!」
落ちていくレンに、真上から迫る大蛇。
「レンさんっ!」
「レンちゃん!」
突然の窮地。
しかしレンは、冷静だった。
「【フリーズストライク】!」
杖を真上に向けると、そのまま氷砲弾を発射。
炸裂し、飛び散る氷片が陽光に照らされてキラキラと輝く。
これで喰らいつきの軌道を替えたレンは、そのまま【浮遊】で減速。
大蛇は落下し、近くの木に巻きつくと、そのまま茂みの中に退散していった。
「【投擲】!」
そしてこの隙にツバメが【雷ブレード】の投擲で、魔導士トカゲを感電させれば。
「【ラビットジャンプ】からの【フルスイング】!」
メイの一撃でしっかりと打倒。
四人は見事に、崖での戦いという変則的な勝負を乗り越えることに成功。
「崖での戦い、冷や冷やしますね」
「本当だねっ、みんな無事でよかった!」
各自安堵の息を吐きながら、手を振り合うのだった。
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