表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1070/1379

1070.『34659回目』の出発

「トカゲと戦ってるの……村で何万回も話した、クエストのお姉さんだよ!」


 メイが驚きの声を上げた。

 村を出たところで戦っていたのは、因縁の『ゴールデンリザード討伐』クエストを担当していた、村の女性NPCだった。


「【ライズ&フォール】!」


 走り出し、剣の振り上げから振り降ろしへつなぐ。

 しかしこれを大トカゲは、斜め右左後方へのバックステップで回避した。

 始まる反撃。

 見れば大トカゲは、メイたちが後を追ってきた個体だ。

 手負いとはいえ、基本的に実力の高い大トカゲ。

 手にしたハンマーを振り回せば、巻き起こる大風にお姉さんが体勢を崩す。

 続く振り降ろしをどうにか転がってかわすが、やはり勝負は劣勢。

 ここで大トカゲは、勝負を付けにいく。


「っ!!」


 お姉さんが必死の防御姿勢を取った、その瞬間。


「【裸足の女神】!」


 その懐に、一瞬でメイが踏み込んでいた。


「【フルスイング】!」


 振り上げる剣は早く、そして圧倒的。

 直撃を受けた大トカゲは木々の枝を折りながら宙を舞い、そのままバウンド。

 転がって木の幹にぶつかり、ようやく停止。

 そのまま、粒子となって消えていく。

 凱旋の野生児メイ。

 帰還早々、さっそく大トカゲを消し飛ばしてみせた。


「だいじょうぶですかー!?」


 メイが大急ぎで駆け寄ると、お姉さんは大きく息をつきながら立ち上がる。


「ありがとうございます……あ、あなたは! トカゲ狩りをしてくれた冒険者さんですね!」

「はいっ!」


 どうやら村でのクエストの達成歴があると、認識が残るようだ。

 お姉さんはメイを見て、そう言った。


「村は……村はどうなっちゃったんですかっ!?」


 メイがたずねると、お姉さんは無念そうに首を振る。


「私は運良く逃げ出すことができましたが、皆は連れ去られてしまいました」

「そんな……っ!」

「いえ、悪くないわ。連れ去られたのなら、おそらく取り戻すことができる」

「そっか!」


 レンの言葉で、メイの目に希望の輝きが灯った。


「採集に行っていた私が、ちょうど帰ってきた時でした。ヤツらが村人をさらっていったのは。呆然としていたら突然、村の皆の顔をした別人が現れて……それがトカゲだと気づいた私は、なんとか少しずつでもヤツらを打倒して、せめて村を取り戻したいと思ったのですが……私の力ではやはり、無謀でした」


 悲しそうなお姉さんの話を聞いて、メイは意気をあげる。


「私も村を……故郷を取り戻したいですっ!」


 そう告げると、お姉さんは静かに息をついた。そして。


「……お願いしてもいいでしょうか。さらわれた皆を取り戻すこと、そして村を救ってくださいと……」

「おまかせくださいっ!」


 久しぶりに再会した、村のお姉さん。

 しばらくぶりに引き受けたのは、新たな高難易度クエスト。

 メイは力いっぱい拳を握り締め、大きな声でこれを受注した。


「そのトカゲたちが去っていった先を潰せば、村人が返ってくる形かしらね」

「やりましょう」

「はひっ、やりましょうっ」

「わたしたちは、どこに行けばいいんですかっ!?」


 メイが7年を過ごした第二の故郷『クク・ルル島』

 そこにある唯一の村は、すでに島民に化けたトカゲたちに乗っ取られていた。

 その解放に必要なものを、お姉さんに問いかける。


「伝承では、クク・ルル島はその中央部に深い深い断崖を持っていたらしいのです。その断崖の底に、トカゲたちは帝国を作っていた」

「これはナディカやラプラタが栄えていた、旧文明時代の話ね」

「しかし体液によって自在に姿を変えるトカゲたちは、その力を使って世界をトカゲのものにしようとしました。予想以上の知能と能力を怖れた旧文明は、『永久凍土』によって断崖ごと封印したと聞いています」

「永久凍土ですか」

「その後その上に降り積もった土に草が生え、木々が埋めていったのでしょう。私たち村人にも、そのハッキリとした場所は分かっていなかった。しかし今、その永久凍土の封印が解かれて消え、帝国がよみがえった。村には伝説としてしか残されていないその場所の名は……パピテアの断崖」


 初めて出てきた言葉に、息を飲む四人。

 長らくこの島に住んでいたメイですら、初めて聞く地名だ。


「トカゲたちはよく、村長宅の奥にある池の方へと向かっていきます。おそらくそこに何かがあるのでしょう」

「レンちゃん……!」

「そうね、まずはその池に行ってみましょう。どこかへつながってる可能性が高いわ」

「それでは、いってきます!」


 メイはトカゲ狩りをしていた時と同じ挨拶を残して、お姉さんに手を振る。


「どうか……どうかクク・ルル村を、よろしくお願いします……っ!」


 するとお姉さんも、その時と同じように手を振ってメイを見送る。

 並んで歩き出す四人。

 実にこれが、34659回目の見送りとなった。


「なんとしても、みんなを助け出さないと……っ」


 気合の入るメイは、そのまま村長宅の奥地へと進む。

 そして、人気のない池へとたどりついた。


「きれいですね……」


 淡いブルーの池に、思わず見とれるツバメ。

 見ればその前には、設置された旧式ポータル。

 メイが触れると起動し、広がる輝きに飲み込まれるようにして移動を開始。

 やがて光が消えると、たどり着いた先は――。


「わあ、すごーい……!」

「これは……壮観ですね」


 深い深い、緑の断崖の頂上だった。

 大地に刻み込まれた裂け目のような崖は深く、途中に生える木々や草によって、底がハッキリとうかがえないほどだ。

 断崖は裂け目を中心に左側がやや高くなっており、メイたちはこの左側の頂点にたどり着いた形になる。


「ここを降りると地底マップにたどり着けるって言われたら、信じちゃうわね」

「きょ、巨人が剣を叩きつけたかのようです……っ」


 大地に刻み込まれた深い裂け目を、思わず四人のぞきこんでしまう。

 色鮮やかな鳥がその隙間を飛んで行く光景は、圧倒的な幻想感。

 だが岩肌に張り付く緑が多いため、これなら降りていくこともできるだろう。


「この底に、トカゲの帝国があるんだね……っ!」


 尻尾をピンと立てて、あらためて気合を入れるメイ。


「まずはこの崖を下っていく形ね。ある程度のステルスが求められる可能性もあるし、静かに下りていきましょうか」

「りょうかいですっ! 村の皆を、絶対に取り戻しますっ!」

「こういう時、本当にメイさんの感覚が頼りになりますね」


 目も耳も誰より良いメイを先頭に、進むことを決定。


「そ、底は一体、どうなっているのでしょうか……!」


 メイたちは草をつかみ枝を踏み、ところどころにある段差を伝っていく形で、パピテアの断崖を下り始めた。

誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!

返信はご感想欄にてっ!


お読みいただきありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら。

【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ジャングル版スターウォーズと聞いて、脳裏に浮かんだことは 獣王「May.lamyourfather」 でした。皇帝とか元老院という人間の男性もいるんだが それよりもしっくり来ました …
[一言] 睡眠薬ではなくメントスを氷の中に入れてコーラに浮かべて、人に渡して飲ませるのも危険なのでやめましょう、後乾燥ワカメを乾燥したまま一袋一気に飲み込むのもお腹で膨れて危険らしいので真似しないよう…
[良い点] 7年も住めば立派な故郷になる。 そしてそこに時代の流れで忘れ消えていた超高難易度トカゲダンジョン! [気になる点] この場所が掲示板民に伝わった時、祭りが始まる…! [一言] 掲示板民A「…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ