1068.大トカゲ
商隊に扮した村人トカゲたちは、町に踏み入ることができずにいた。
「【連続投擲】【風ブレード】!」
ツバメの投じた三つの【風ブレード】が起こした風に、止まる足。
フラついてるところに、すぐさま攻撃を叩き込む。
「【加速】【稲妻】! 【反転】【三日月】!」
この流れなら、一連の流れで打倒が可能となる。
さらにツバメは、複数体で同時に特攻してくる一団を発見。
「【加速】【リブースト】【紫電】!」
すぐさまその真ん中に飛び込んで、感電で動きを止める。
「【アクアエッジ】【瞬剣殺】」
そしてそのまま一網打尽。
わずかにHPが残った個体は、手にした棍棒を振り上げるが――。
「【投石】!」
豪速で飛んできた石を喰らって、ゴロゴロと地面を転がった。
メイのピースに、「ありがとうございます」と小さく頭を下げるツバメ。
残るトカゲたちが一斉攻撃を仕掛けてきたところで、メイが剣を構える。
「【跳躍】【エアリアル】!」
「いきますっ! 【ソードバッシュ】!」
ツバメが最高到達点にたどり着いたところで放つ衝撃が、残った村人トカゲたちを吹き飛ばした。
「っ!」
一方ツバメは駆け抜ける衝撃波に噴き上げられて、驚きながら着地。
「あの高さでも、余波を受けるのですか……」
ステータス強化ゼロの状態でも、なお強烈な【ソードバッシュ】に感嘆する。
こうして二人の門番によるコンビネーションは、問題なく村人トカゲたちを打倒した。
すると、村人トカゲたちと武器を載せてきた荷車の一つが幌を開いた。
そこから出てきたのは、村長らしき壮年の人物。
荷車の中から岩石に鉄棒を突き刺したようなハンマーを取り出し、地に降りる。
変身を解けばその姿は、軽鎧をまとった大型二足歩行タイプのトカゲ。
手にした大型のハンマーを、構える。
「一回り大きな体躯。トカゲたちの中でも割と大物なのかもしれませんね」
「二足型だけど、なんだか久しぶりな感じかも」
二人がそう言って剣を構えると、大トカゲは強く地を踏み込んだ。
「【グラウンド・バレット】」
初手は意外にも魔法攻撃。
片手を振り下ろすと、岩石の欠片が一斉に飛んでくる。
ツバメは無理することなく、防御で対応。
後方のメイはこの難しい攻撃を、しっかり見定めて回避する。
「【バーチカルストライク】」
ここで大トカゲは、低めの前方宙返り。
両手で持った大型ハンマーを、そのまま縦回転で叩きつけにくる。
ツバメはすぐさま、サイドステップで直撃を回避する。
「「っ!?」」
すると地面に深く突き刺さったハンマーが地面を大きく揺らし、二人を跳ね上げた。
「わあっ! なにこれー!」
二人は難なく着地を果たすが、当然大トカゲの硬直も切れており、すでに追撃の体勢に入っている。
どうやらダメージを取れなくとも、地面を叩けば相手を崩せるというスキルのようだ。
大きな踏み込みから放つのは、大ハンマーの強烈な振り回し。
「【バスターローリング】」
メイとツバメはその場に伏せ、これをやり過ごす。
しかし吹き荒れる風が、二人をそのまま転がした。
「【大地隆槍】」
聞こえた声に、慌てて顔を上げる二人。
すでに大トカゲは、ハンマーを高く掲げていた。
「ですが、何をするつもりなのかは読めます!」
「はいっ!」
二人はすぐさま、斜め後方への連続バックステップで距離を取る。
直後、叩きつけたハンマーによって地面が大きく隆起。
十本に及ぶ岩の槍が、一斉に突き上がった。
「ツバメちゃん!」
メイの声に、安堵しかけたツバメの意識が戻る。
見れば大トカゲの体勢は、【バスターローリング】の時と同じ。
そして、突き立ったままの岩槍。
「ハンマーを叩き込んで、岩塊を飛ばしてくるつもりですか!」
飛び散るいくつもの岩塊は、回避型には厳しい攻撃だ。
「【加速】【リブースト】!」
ツバメは超加速で疾走。
「【穴を掘る】!」
まるで落とし穴に落ちるかのような挙動で、メイの掘った穴に落下して事なきを得る。
近い距離と、こんな状況でも笑顔のメイに、ちょっと恥ずかしくなるツバメ。
岩塊が弾丸のような速度で飛んで行く中、二人は穴の下で「ギリギリセーフだね」と笑い合う。
そして、跳ぶ岩塊が通り過ぎた直後。
「【跳躍】」
ツバメが恥ずかしさをごまかすように、穴から飛び出し宙へ。
「【妖刀化】【回天】!」
【村雨】による縦の回転撃を叩き込み、着地。
すぐさま二度の通常斬撃でつないで、スキルを発動。
「【旋空】【稲妻】【反転】!」
斬り抜けからの振り返り。
そこから斬り下ろし、斬り上げへと繋ぐ。
「【三日月】!」
そして最後は、垂直の振り降ろし。
八発全てが、大型トカゲに傷跡を残した。
「【ラビットジャンプ】【装備変更】!」
メイはすかさず【白鯨の弓】に武器を替え、後に続く。
「【曲芸連射】!」
五連発の【氷結矢】はしっかり全て利き腕に刺さり、部分的な凍結を発動。
すると大トカゲは、メイン武器のハンマーを取り落とした。
「ハンマーを落とすと、攻撃はどうなるのでしょうか」
相手は、ハンマーによる近距離攻撃を設計されている中ボスだ。
ツバメはその動向を、興味深く観測する。
大トカゲは、メイを狙って接近。
状態異常攻撃で戦うようなプレイヤーが出てくる想定はなかったのか、攻撃はなんと単純なパンチ。
腕力が高いためか、なかなかの速度だ。
しかし格闘用のスキルでないものが、当たるはずがない。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】【曲芸連射】!」
三度の拳打を小さなバックステップでかわしたメイは、そのまま大きなバク宙で空中へ。
再びの矢の連射攻撃へとつなぐ。
放つ【爆発矢】は四発立て続けに炸裂して、大トカゲを大きくあとずさりさせた。
そして着地と同時に放つ五発目は、とっておき。
「【爆符の矢】!」
放たれた矢は、そのまま大トカゲの肩口に突き刺さって停止。
メイは、レンをマネして右手を伸ばす。
それから指を、カッコよく鳴らそうとして――。
ぺちっ。
頼りない音を鳴らして失敗。
しかし巻き起こった爆発は、大トカゲを吹き飛ばした。
「てへへ」と笑うメイと、消え去るHPゲージ。
大トカゲは立ち上がると、こちらの様子を見ながら後退。
そのまま、森の中へと走り出した。
「また逃げる気ですね! 後を追いましょう!」
「レンちゃん!」
メイの声に気づいたまもりとレンも、掲示板組パーティに目配せして走り出す。
逃げる大トカゲ。
しかし今度は距離も長くない。
旧型ポータルにたどり着いた大トカゲは、振り返ることもせず転移した。
「追いましょう!」
メイたちも今度は、勢いのまま後に続く。
たどり着いた先は、またもどこかのジャングルだ。しかし。
「……あれ?」
メイが、不意に首を傾げた。
陽光照らされる緑は、どこまでも深く。
聞こえてくる、様々な鳥や獣たちの鳴き声。
遠くかすかに、潮騒の音が混じっている。
「このジャングル――――見覚えがある」
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