1064.追いかけます!
HPが大きく減少したことで変身が解け、逃げて行くトカゲ。
メイとツバメはその後を追い、レンは消えたまもりを探しに戻る。
「この感じだと、人通りの多い王都の中で入れ替わったと考えるのが妥当かしら」
南の大国ラバンコクの街を戻り、出店の並ぶ区画を抜ける。
そしてポータルで、再び王都ロマリアへ。
変わらず込み合っているポータル前から、考古学者のいた場所へと続く道を進む。すると。
「なんだ……?」
「道の真ん中に魔法陣が?」
王都の通りに、突然魔法陣が展開。
道行くプレイヤーたちが慌てて、魔法陣を囲むような形で退避する。
「召喚か? それともクエストか?」
始まる展開に、息を飲んで注目。
すると、大きな輝きと共に現れたのは――。
「「「た、盾子ちゃんだー!」」」
「こ、これは一体……!?」
「まもり!」
駆けつけたレンはすぐに、唖然としているまもりの手を引いて、ポータル広場の前へ。
「どうやらトカゲのクエストだったみたい。変身してパーティに潜り込んだ偽物を見つけ出して、倒すっていう」
「そ、そういうことだったのですか……! 突然見知らぬ土地に転移して困っていたのですが、同じ人間が二人にならないよう、本物を遠くに飛ばす魔法だったのですね」
「該当のトカゲを見つけて追い詰めたら、本体が現れて逃走。メイたちが後を追ってるわ。私はまもり発見と説明に来た感じね」
「あ、ありがとうございます……っ」
「私たちも戻って、今度はメイたちの後を追いましょう」
「はひっ」
「と、ところで、どうやって私の偽物を見抜いたのですか?」
「小食だったのよ」
「な、なるほどっ」
対象を一時的に遠方へ飛ばしてしまう、『強制転移』のような魔法をかけられていたまもり。
トカゲが打倒されると効果が切れて、『入れ替わりの現場』に戻ってくる形になっているようだ。
無事にまもりを回収したレンは、ラバンコクへと戻る。
そして緑の美しい街並みを抜け、メイたちと分かれた地点まで早々に帰還。
「私が空から先行するから、まもりは後を追ってきて」
「は、はひっ」
「あと……これ」
「これはっ!」
レンはここで先ほど買っておいた、【バナナスムージー】や【トムヤンクン】をまもりに渡す。
ここまで走って戻ってくる際に、全ての飲食店を素通りしたことで、まもりはやはりちょっと切なそうにしていた。
「今のまもりには、【食べ歩き】もあるものね」
「あ、ありがとうございますっ!」
メイたちを追って走りながら飲み食いするという、なかなか難しい状況でも、まもりは表情を輝かせる。
両手に食べ物を持って森を走り出す姿は、もはや食いしん坊以外の何物でもない。
「お、おいしいですっ!」
「もう、食べ始めてる……!」
◆
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
走るトカゲを追いかける、メイとツバメ。
二足歩行ながらも、時々腕を突きながら進むのは、四足時代の名残か。
時に小さなガケを跳び、草むらを抜ける走り方は、明らかに追っ手をまくための走り方だ。
だがメイは、遠くも見えるし音も聞こえる。
「ツバメちゃん、こっちだよ!」
何より密林に慣れているため、置いていかれることも、まかれることもない。
余裕をもって、逃げるトカゲを追跡する。
「ここ、ジャンプして!」
「【跳躍】!」
ツバメが跳びながら足元を見ると、そこには描かれた魔法陣の光。
「これに引っかかると爆発するのか、それとも捕縛で距離を離されてしまうのか。嫌な攻撃をしてきますね」
密林の中に鈍くでも光るものがあれば、メイはその違和感に必ず気がつく。
地雷原のような状況の罠魔法陣地帯も、問題なしだ。さらに。
「……もしかしてメイさん、この距離感は不意の反撃魔法や投擲が、届かない位置だったりしますか?」
「うんっ。このくらいだと向こうから気づかれにくいのと、仮に見つかってもギリギリ攻撃範囲外になる感じだよっ」
密林での狩りは、あえて少し魔物を泳がせて、良い位置まで移動してから叩くというパターンも必要だったため、魔物との距離感にも一家言あり。
木々の中で敵を見失わず、さらに足元の罠に気を遣いながら、距離感も調整する。
狩人メイの何気ない追跡力の高さに、ツバメはあらためて驚くのだった。
「そろそろかも」
メイはトカゲの速度が緩んできたのに気づいて、合わせるように速度を低下させる。
仕掛けられた三つの魔法陣を、『けんけんぱ』の要領で飛び越えて、木の陰に身を隠す。
そしてそっと、木から顔だけを出す形で敵情をうかがう。
するとツバメも、メイの数十センチ下からひょこっと顔を出した。
「どうするのかな」
「見たところ、そこまで木々の深い場所でもありませんし、町や村がある感じでもないですね」
トカゲはしきりに、辺りを見回す。
付近を歩き回り、あらためて大きく一周して追手の有無を確認。
それから木々の間を進むと、そこには世界の各地で稀に見かける、細い灯篭のような形をしたオブジェ。
トカゲがそこに手を乗せると、緑色の輝きが生まれ、そのまま消え去った。
「ポータルでしょうか。これはラプラタで見た『旧ポータル』と、形式が似ているように見えますね」
「本当だね」
使用キーなどはなし。
触れればおそらく、考古学者が言っていたトカゲの仲間たちのもとへ、向かう形になるのだろう。
ここでツバメは【連続投擲】を使い、【風ブレード】と【炎ブレード】を同時に空へ向けて投じる。
すると頭上高く、木々の並びの上に広がる激しい炎。
メイたちを探しているであろう二人の、目印になるはずだ。
特に空を進むレンには、間違いなく良い合図になるだろう。
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