1061.そっくりさんと考古学者
「なんだったんだ、今の」
「メイちゃんとメイちゃんが戦って、負けたメイちゃんが消えた……?」
まさかの事態に、驚く観戦者たち。
王都に現れたそっくりメイと、突然始まった戦い。
戦闘は、本物メイの勝利で幕を閉じた。
「メイーっ!」
そこに駆けてきたのは、レンとまもり。
レンは空からメイの位置を確認。
空を行くレンを、まもりが追うという方法での合流となった。
「街中での戦いになったみたいだけど……結局どうだったの? メイに似た人? それともコスプレ?」
「ほとんどわたしそのものだったよ!」
「はい、ただスキルまで同じというわけではありませんでした」
ブンブンと首を振るメイに、ツバメもうなずく。
「ただ……誰かがマネをしているというのは違います。あれはプレイヤーではありません」
「うんっ、そうだと思う」
「だ、だとしたら、何かのクエストでしょうか」
「突然現れたメイのそっくりさんと戦闘……これがクエストだとしても、一体何が起こってるのかしら」
料理クエストは、すでに終了している。
そしてオマケのミッションは、もう一度声をかけにいくことで発生する形だ。
よって今現在、何かのクエストを受注しているという覚えはない。
「……今のは、まさか」
メイたちが悩んでいると、そこに見覚えのある人物がやってきた。
「あなたは……考古学者さん」
それはラプラタ発見に一役買ったNPCの、考古学者だった。
「今の戦い、相手は君にそっくりだった。もはや同一人物ではないかというくらいに」
「何か、心当たりがあるんですかっ?」
「ああ。この世界にはかつて、人間から全てを奪い去ろうとした恐ろしいヤツらがいる。高い戦闘能力はもちろんだが、何より……脅威だったのはその能力だ」
「能力?」
「ヤツらは、様々な生き物に化ける能力がある。その力を使って人間社会に潜り込んでいくんだ。そして徐々に潜む偽物の数を増やし、外堀を固めたところで一気に街や国を奪い取る」
「なんだか、とんでもない話が出てきたわね…・・」
「旧文明では、いくつかの国が実際に乗っ取られたらしい」
「怖っ」
「放っておけば、いずれ世界は乗っ取られてしまう。だから旧文明の者たちはヤツらを封じ込めたんだ。それは異世界の者たちとは、また違う形の世界征服と言えるだろう」
「ど、どんなヤツらなんですかっ?」
恐ろしい話に、尻尾をブルブルさせながら問いかけるメイ。
「旧文明によって封じられた、古き者たち。それは……」
「それは?」
「――――トカゲだ」
「ええええええええ――――っ!?」
まさかの展開に、驚愕の声を上げるメイ。
「古き文明のトカゲたちは賢く、そして体表面から出る液体によって身体を変化させることができるんだ。そのことに気づいたラプラタの研究者たちは、その液体を利用して銀色の兵器を生み出した」
「なるほどね」
「だが古き文明のトカゲたちは思った以上に賢く、変身能力による侵攻の恐ろしさに気づいた研究者たちは、トカゲの帝国に封印を施した。もしも今、トカゲたちが再び侵攻を始めたというのであれば……さっきの戦いにも説明がつく」
「な、何かあって、封印が解けてしまったということでしょうか」
「トカゲたちが、どこから来てるのか分かっているの?」
レンの問いに、考古学者は首を振る。
「南方から来ているのは分かるが、その明確な場所までは分かっていない。だがまずは、どこかの村辺りから乗っ取りが始まるだろう。丸々奪い取ってしまう形だ。そこから新たな街などに目をつけさらに侵攻、そして国、地方と規模を大きくしていくのではないだろうか」
「な、なんだか怖い話ですね」
「ということは、さっきメイが見かけたグラムも偽物だったんじゃない? おそらく一定以上のレベルを持つプレイヤーや、異世界のボスたちとの戦いで活躍したプレイヤー辺りから順に偽物が出てきて、違和感が色んなところで生まれ始めるのよ。このクエストは異世界の開放か、誰かがどこかで封印を解いたこと。もしくは両方が重なることで始まる展開ってところかしら」
「自分の偽物を見つけて倒すことができれば、こうして考古学者さんが来てくれる。そんなところでしょうか」
さっそく考察を始める二人。
「それって今回みたいに、自分の偽物と運よく出くわすのが一番分かりやすいわね」
「同じ場所に二人いるパターンですね。そうじゃないとなかなか難しそうです」
「だ、誰かから『他の場所での目撃談』など聞くことが増えてきて、様子を見に行ったら自分がもう一人。そこで勝たないと始まらない。大変なクエスト条件ですね」
「気づくのが遅れるほど、『おかしな村や町』が増えていき、それが『国』になり、最後には大陸規模になっていく」
「……倒しても倒してもいなくならないトカゲが、世界中に……?」
「このまま放っておけば、各所がトカゲに取って代わられることになるでしょう。そしていつの日か世界は……」
「世界は……?」
「トカゲに乗っ取られます」
「大変だぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」
これにはメイも、尻尾を震わせる。
「事態は最悪です。ですが、この段階で気づけたことは不幸中の幸いと言えるでしょう」
「対応はできるのね」
「はい」
異世界の開放後に動き出した、エンドコンテンツの一つ。
救った世界を治める者が、変わるかもしれないという危機。
どうやらその一端に、メイたちは踏み込んでしまったようだ。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




